カレントアウェアネス
No.359 2024年3月20日
CA2058
ジャパンリンクセンター(JaLC)の歩みと今後の展望
ジャパンリンクセンター事務局:小林瑠那(こばやしるな)
1. はじめに
「DOI」をご存知だろうか。Digital Object Identifier(デジタルオブジェクト識別子)の頭文字であり、電子化されたObject(有形・無形のコンテンツ)に登録される永続的識別子(PID)である(1)。Object自体とそれを説明するためのデータ(メタデータ)が記されたランディングページとDOIをペアで保存し、ランディングページのURLが変わった場合、情報を更新することで恒常的なアクセスを可能にしている(2)。DOIの前に「https://doi.org/」をつけることによりURLとして機能し、登録されたObjectのランディングページへリダイレクトすることができる(3)。
ジャパンリンクセンター(JaLC)(4)はDOIを登録・運用するDOI登録機関(Registration Agencies:RA)として、2012年に世界で9番目に認定を受けた、国内唯一の機関である(5)。RAは、特定の形態を対象としたRAと特定の地域を対象にしたRAの2パターンに分類することができる(6)。前者としては論文や書籍を対象にしたCrossref(CA1481、CA1836参照)や研究データを対象にしたDataCiteが挙げられる。JaLCは後者に当てはまり、日本の学術コンテンツを対象にしている (7)。
2022年に、JaLCは創設から10年を迎えた。本稿ではJaLCのこれまでの歩みと今後の展望を示したい。
2. JaLCの誕生
1997年にDOIの生みの親である国際DOI財団が発足し(8)、2000年にCrossrefが学術出版社間の引用リンクを可能にすることを目的にRAとして登録された(9)。日本の科学技術情報を発信することを目的に開発された電子ジャーナルの制作・公開システムJ-STAGEでは、2002年から国内学協会の英文誌を中心にCrossref DOIを使った引用リンクを実現している(10)(11)(12)。
このように、国内でもJaLC発足前から、学術論文や図書などの学術コンテンツの分野では、個々のコンテンツにDOIを付与し、永続的なアクセスを可能にすることが広く行われていた(13)。しかし、日本ではDOIが登録されているコンテンツはJaLC設立前の時点で150万件程度と少数にとどまっていた(14)。主たる理由として、DOI登録の運営母体が海外の組織であるために、日本における学術コミュニケーションの事情に合わせた対応が困難であったことが挙げられる(15)。このため、特に日本語で書かれた学術コンテンツへの永続的なアクセスと利便性の向上が、情報発信力向上の点からも望まれていた(16)。このような背景から、JaLCが構想された。
JaLC設立に向けて、有識者で構成されるジャパンリンクセンター推進検討委員会が2010年から開催され、JaLCの運営方法等を議論した(17)。Crossrefへの代理登録をメインに行うことも検討されたが、日本発の学術コンテンツ情報を収集し、普及及び利用を促進する目的で(18)日本のDOI登録機関として設立することとなり、2012年3月に国際DOI財団よりRAの認定を受けた(19)。JaLCは日本における学術コミュニケーションに主体的に関与している科学技術振興機構(JST)と国立情報学研究所(NII)、研究機関として先進的な学術コミュニケーションに取り組んでいる物質・材料研究機構(NIMS)、学術を含め広く文献収集を行っている国立国会図書館(NDL)の4機関での共同運営とされ(20)、2012年に協力覚書が結ばれた(21)。2013年1月にはJaLCの運営を効率的かつ円滑に推進するため、ジャパンリンクセンター運営委員会が発足し、JaLC運営規則や参加規約が策定され、JaLC会員の募集を開始した(22) 。2017年には運営方針となる「ジャパンリンクセンターストラテジー2017-2022」が策定された(23)(24)。
3. 研究データへのDOI登録
当初JaLCではDOIの登録対象を学術論文のみとしていたが、2014年12月に新システムをリリースし、コンテンツ区分に書籍・報告書、研究データ、e-learning教材、汎用データが加わった(25)。
研究データに関してはDOI登録に係る知見を得るため、システムリリース前の2013年に国際データ引用イニシアチブDataCite(CA1849、E1537参照)の会員となり、JaLC経由でDataCiteのDOIを登録できるオプションを追加した(26)(27)。しかし、当時は世界的にも研究データへのDOI登録について様々な課題の検討が進められている段階であり、十分なノウハウが蓄積されているとは言いがたい状況であった(28)。そこで研究データへのDOI登録に特有の課題抽出とその解決、運用方法の確立、DOIの活用方法などの検討を行い、研究データへのDOI登録の仕組みを参加機関とともに新たに構築することを目的として、2014年から「研究データへのDOI登録実験プロジェクト」を行った(29)。参加機関は公募を行い、結果9機関が採択された(30)。その後、本プロジェクトで得られた知見等を「研究データへのDOI登録ガイドライン」(31)として公開した。2023年11月末現在、JaLCで登録されているDOIのうち、約13.8%を研究データが占めている(32)。
また研究データへのDOI登録実験プロジェクトのコミュニティを母体として、「研究データ利活用協議会」(RDUF)を2016年に設立した(33)。RDUFはDOI登録に限らず、研究データの利活用について関心を持つ様々なステークホルダが一堂に会し、各々の活動や知識を共有しつつ議論を行うことにより、日本におけるオープンサイエンスへの意識を醸成し、推進に寄与することを目的としている(E1831参照)。現在も活動が行われており、機関会員がJST等含め9機関、個人会員数は約200人となっている。
4. メタデータオープン化に向けて
2016年に日本学術会議から「オープンイノベーションに資するオープンサイエンスのあり方に関する提言」(34)が公開されると、オープンサイエンス推進の機運がより高まった。
当時メタデータの第三者利用に制限を設けていたJaLCでは、2017年に策定した「ジャパンリンクセンターストラテジー2017-2022」(35)で、DOI やメタデータのオープンな活用の推進を盛り込み、2019年にはJaLC参加規約および運営規則を改正し、抄録を除く全てのJaLCデータをオープンにした(36)(37)。また、これに伴い、JaLCコンテンツ検索サービスの開始やOAI-PMHの拡充を行い、情報提供機能も強化した(38)。なお、抄録に関しては2020年に抄録ライセンスフラグを設定できるようにし、JaLC会員が抄録の第三者利用の許諾範囲を選択可能とした(39)。
5. メタデータ活用促進に向けた外部連携
メタデータがオープン化されたことを受け、JaLCでは学術情報のサービスを提供する機関と連携し、JaLCのメタデータのさらなる活用の促進に取り組んできた。
2020年には研究者を世界で一意に識別する識別子(ID)を提供するサービスORCID(CA1740、CA1880、E2261参照)と連携し、JaLCで登録された研究成果情報をORCIDの業績情報へ自動で登録する機能をリリースした(40)(41)。同年には電子ジャーナル閲覧支援システム等を提供しているThird Iron社に対し、JaLCメタデータを提供する契約を締結した(42)。また2023年度にはTurnitin社と連携し、DOIを登録する出版前コンテンツに対して剽窃チェックを行う類似性チェックサービスをリリースした(43)(44)。最近ではオープンアクセス(OA)の論文情報を収集・提供するUnpaywallサービスとの契約を進め、JaLCのDOIが登録された論文がUnpaywallのデータに加わった。
これらの連携を促進するためには、世の中に広く普及しているAPIや各種出力形式による提供が欠かせない。2021年にはJaLCが保有するDOIやメタデータ等の情報について、会員に限らず誰でもJSON形式で取得可能なサービス“JaLC REST API”をリリースした(45)(46)(47)。このREST APIを用いて、オープンな引用情報の提供に向けて活動しているOpenCitationsと連携し、2023年度からその引用インデックスであるOpenCitations IndexにJaLCデータが取り込まれることとなった(48)。また資金提供が行われた研究成果とOA状況をダッシュボードで表示するサービスCHORUSと連携を行い、JaLCのDOIが登録された研究成果がデータに加わった。
6. 今後の展望
2022年度末に新たに「ジャパンリンクセンターストラテジー2023-2027」(49)を策定した。新ストラテジーでも引き続き、DOIの登録促進やメタデータの流通推進、研究データの利活用の促進などを定めている。
メタデータの流通促進では、REST APIを活用した外部サービスとの連携がさらに拡大することが期待される。しかしながら、現在のREST APIは特定のDOIのメタデータの取得などの基本機能の提供にとどまっており、検索機能がない。一方、Crossrefは充実した検索機能を有しており、連携サービスも多い。JaLCでもこれに倣い、検索機能を拡充し、外部サービスとの連携を拡大し、JaLCに登録されたDOIのメタデータの流通促進に取り組んでいく。
研究データの利活用については、オープンサイエンスの推進の流れを受けて、今後も登録件数の伸びが期待される。この機運を受けて、RDUFの研究データへのDOI登録促進小委員会(50)(51)が「研究データへのDOI登録ガイドライン」の改訂版を公開する予定である。
その他、DOI登録機関としてより透明性の高い持続的な運営が必要であるとし、新ストラテジーに組織運営に関する項目を新たに追加した。また、2023年度末には新ストラテジーに沿ったロードマップを公開予定である。
JaLCの会員数は正会員75機関、準会員3,083機関に達し(2023年11月末現在)、立ち上げ当初(2013年3月末)の正会員16機関、準会員898機関から大きく増加した。また2022年10月にはDOI登録件数が1,000万件を超える(52)など、国内のDOIの普及、学術コンテンツの流通促進に寄与してきた。引き続き日本のオープンサイエンスの推進に貢献していく所存である。
(1) 波羅仁,佐藤竜一,三村のどか. DOIとJaLCの活動について. 情報の科学と技術. 2022, 70,p. 428-431.
https://doi.org/10.18919/jkg.70.8_428, (参照 2023-12-12).
(2) ジャパンリンクセンター運営委員会. ジャパンリンクセンターとは何か~その成り立ちと基本方針~. 2014, 9p.
https://doi.org/10.11502/jalc_policy, (参照 2023-12-12).
(3) 波羅,佐藤,三村. 前掲.
(4) Japan Link Center.
https://japanlinkcenter.org/top/, (参照 2023-12-12).
(5) 余頃祐介. ごぞんじですか?ジャパンリンクセンター(通称:JaLC(ジャルク)). 専門図書館. 2013, (257), p. 40-46.
https://japanlinkcenter.org/top/doc/senmontoshokan257_yogoro.pdf, (参照 2023-12-12).
(6) 波羅,佐藤,三村. 前掲.
(7) 前掲.
(8) 前掲.
(9) Pentz, Ed. CrossRefは学術コミュニケーションを促進する. 情報管理. 2011, 54, p. 30-39.
https://doi.org/10.1241/johokanri.54.30, (参照 2023-12-18).
(10) 久保田壮一, 植松利晃, 山崎匠, 近藤裕治, 時実象一, 尾身朝子. JSTリンクセンターを利用した電子ジャーナルのリンクの現状. 情報管理. 2005, 48, p. 149-155.
https://doi.org/10.1241/johokanri.48.149, (参照 2023-12-18).
(11) “J-STAGEの沿革”. J-STAGE.
https://www.jstage.jst.go.jp/static/pages/JstageHistory/-char/ja, (参照 2023-12-18).
(12) J-STAGE NEWS. 科学技術振興事業団, 2002, (6), p. 1.
https://www.jstage.jst.go.jp/static/files/ja/J-STAGE_NEWS_NO6.pdf, (参照 2023-12-20).
(13) 余頃. 前掲.
(14) 前掲.
(15) ジャパンリンクセンター運営委員会. 前掲.
(16) 前掲.
(17) 波羅,佐藤,三村. 前掲.
(18) ジャパンリンクセンター運営委員会. 前掲.
(19) 波羅,佐藤,三村. 前掲.
(20) ジャパンリンクセンター運営委員会. 前掲.
(21) “ジャパンリンクセンター運用に向けた協力覚書を締結~国内電子学術コンテンツへの永続的なアクセスを可能に~”. JST. 2012-05-28.
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20120528/index.html, (参照 2023-12-13)
(22) 科学技術振興機構. 平成24年度業務実績報告書. 2013, 344p.
https://www.jst.go.jp/announce/hyouka/h24institute/h24gyoumuhoukoku.pdf, (参照 2023-12-12).
(23) 波羅,佐藤,三村. 前掲.
(24) JaLC. ジャパンリンクセンターストラテジー2017-2022. 2p.
https://japanlinkcenter.org/top/doc/JaLC_strategy2017.pdf, (参照 2023-12-12).
(25) 科学技術振興機構. 平成26年度業務実績等報告書. 2015, 200p.
https://www.jst.go.jp/announce/hyouka/h26institute/h26gyoumuhoukoku.pdf, (参照 2023-12-13).
(26) 平成26年度JaLC運営委員会(第1回)議事要旨. 3p.
https://japanlinkcenter.org/top/doc/JaLC_minutesH26-1.pdf, (参照 2023-12-12).
(27) 中島律子, 武田英明. 集会報告DataCite2014年年次会議~データに価値を与える~. 情報管理. 2014, 57, p. 686.
https://doi.org/10.1241/johokanri.57.686, (参照 2023-12-13).
(28) ジャパンリンクセンター研究データへのDOI登録実験プロジェクト. 研究データへのDOI登録実験プロジェクト報告書. 2015, 174p.
https://japanlinkcenter.org/top/doc/JaLC_koubo_Report.pdf, (参照 2023-12-12).
(29) 前掲.
(30) 前掲.
(31) ジャパンリンクセンター運営委員会. 研究データへのDOI登録ガイドライン. 2015, 26p.
https://doi.org/10.11502/rd_guideline_ja, (参照 2023-12-12).
(32) 内部資料による。
(33) 研究データ利活用協議会.
https://japanlinkcenter.org/rduf/, (参照2023-12-12).
(34) 日本学術会議オープンサイエンスの取組に関する検討委員会. オープンイノベーションに資するオープンサイエンスのあり方に関する提言. 2016, 28p.
https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t230.pdf, (参照 2023-12-12).
(35) JaLC. 前掲.
(36) ジャパンリンクセンター運営委員会. メタデータのオープン化に伴うJaLC参加規約および運営規則の改正について. 2019, 4p.
https://japanlinkcenter.org/top/doc/JaLC_description.pdf, (参照 2023-12-13).
参加規約第8条の変更について. JST.
https://japanlinkcenter.org/top/doc/JaLC_description_article8.pdf, (参照 2023-12-13).
JaLC参加規約第1条第1項における定義変更について. JaLC.
https://japanlinkcenter.org/top/doc/JaLC_definition_article1.pdf, (参照 2023-12-13).
(37) 科学技術振興機構. 令和元年度業務実績等報告書. 2020, 303p.
https://www.jst.go.jp/announce/hyouka/r1institute/r1gyoumuhoukoku.pdf, (参照 2023-12-13).
(38) 前掲.
(39) 科学技術振興機構. 令和2年度業務実績等報告書. 2021, 306p.
https://www.jst.go.jp/announce/hyouka/r2institute/r2gyoumuhoukoku.pdf, (参照 2023-12-13).
(40) 前掲.
(41) Release Notes. JaLC. 3p.
https://japanlinkcenter.org/top/doc/ReleaseNotes_20200527.pdf, (参照 2023-12-13).
(42) 科学技術振興機構. 令和2年度業務実績等報告書. 2021, 306p.
https://www.jst.go.jp/announce/hyouka/r2institute/r2gyoumuhoukoku.pdf, (参照 2023-12-13).
(43) “JaLC、JaLC DOIを登録する出版前コンテンツに対する剽窃チェックオンラインツール”iThenticate”を会員向けに提供すると発表”. 科学技術情報プラットフォーム. 2023-10-02.
https://jipsti.jst.go.jp/sti_updates/2023/10/14511.html, (参照 2023-12-13).
(44) “その他サービス”. JaLC.
https://japanlinkcenter.org/top/service/service_others.html, (参照 2023-12-13).
(45) Release Notes. JaLC.
https://japanlinkcenter.org/top/doc/ReleaseNotes.pdf, (参照 2023-12-13).
(46) “JaLC REST API 1.0.0”. JaLC.
https://api.japanlinkcenter.org/api-docs/index.html, (参照 2023-12-13).
(47) 科学技術振興機構. 令和3年度業務実績等報告書. 2022, 325p.
https://www.jst.go.jp/announce/hyouka/r3institute/r3gyoumuhoukoku.pdf, (参照 2023-12-13).
(48) “@opencitations”. X. 2023-12-01.
https://twitter.com/opencitations/status/1730272932247581039, (参照 2023-12-13).
(49) “ストラテジー”. JaLC.
https://japanlinkcenter.org/top/about/about_strategy.html, (参照 2023-12-12).
(50) 研究データへのDOI登録促進小委員会. RDUF小委員会 提案書(案). 2021, 2p.
https://japanlinkcenter.org/rduf/doc/rduf_shoiinkai_rdata_doi.pdf, (参照 2023-12-14).
(51) “小委員会”. RDUF.
https://japanlinkcenter.org/rduf/subcommittee/index.html, (参照 2023-12-14).
(52) “Japan Link Center”. Internet Archive.
https://web.archive.org/web/20221201230724/https://japanlinkcenter.org/top/, (参照 2023-12-13).
[受理:2024-02-07]
小林瑠那. ジャパンリンクセンター(JaLC)の歩みと今後の展望. カレントアウェアネス. 2024, (359), CA2058, p. 8-10.
https://current.ndl.go.jp/ca2058
DOI:
https://doi.org/10.11501/13391591
Kobayashi Runa
History of Japan Link Center (JaLC) and Future Prospects