E2261 – ORCIDへの期待とコンソーシアム

カレントアウェアネス-E

No.391 2020.05.28

 

 E2261

ORCIDへの期待とコンソーシアム

東京工業大学・森雅生(もりまさお)

 

   2020年4月,ORCID日本コンソーシアムが本格的に始動した。日本におけるORCIDコンソーシアム設立に関する明示的な検討は,2017年9月に国内の会員機関のORCID担当者による会議から始められた。それまでにもコンソーシアム設立に対する期待はあったものの,実現に向けた明示的な行動は見られなかった。しかし,この会議において有志によるコンソーシアム設置に向けた努力を進めるという合意がなされ,2020年3月までに2年間で18回のコンソーシアム運営委員会(以下「運営委員会」)が行われ,準備が進められた。筆者は,このコンソーシアム運営委員会の発起人の一人であり,委員長として関わっている。

   ORCIDは,永続的な研究者識別ID(PID)として2010年代初期に世に出た(CA1740参照)。ORCIDのようなPIDに最も期待されていたことは,論文書誌情報に記載される著者名や執筆者名の名寄せであった。しかし,ORCIDには,もっと発展的な活用が期待されている。例えば,博士課程の修了者のキャリアトラッキングのツールとしてORCIDの活用が見込まれている。研究支援の文脈だけでなく,高等教育の質保証の文脈でも,ORCIDに意義を見いだすことができる。また,研究者の学歴・職歴に関する情報に対し,大学や機関が信頼を付与する機能は,研究分野や国境を超えた学術研究活動の信頼性を高めるものである。さらには,様々な資格認定の情報さえ,ORCIDの登録者に信頼できる形で提供することができる。

   ORCID以前には,政府機関が管理する研究者PID(例:科研費の研究者番号)や,研究情報関連企業が管理するPIDはあったが,それらとORCIDとの大きな違いは,独立系非営利団体により実現されている点である。私見ではあるが,ORCIDのような国際的PIDの取り組みを,既存企業や政府系機関が担うのは,難しいのではないかと思われる。企業が担う場合は,企業がメリットを見出す仕掛けが必要であり,また政府系機関には財政的な観点から「永続的」な運営は不可能だろう。ORCIDの運営・管理を担う団体であるORCID,Inc.は,非常に小さな組織である。2020年5月時点では,データベースエンジニアや各地域のディレクターなど36人のスタッフ,外部組織から17人の理事を迎えて運営されている。登録者数750万を超える国際的なPIDをこれだけの人員で支えている。

   ORCIDは研究者データベースのサービスプロバイダとして誤解されることがあるが,主たる使命はPIDの維持管理である。PIDを登録したユーザには,そのユーザが執筆した論文の書誌情報が提供されてはいるものの,副次的なものである。そのため,ORCID,Inc.から参加機関ヘの支援は極力少なくし,可能であれば機関間での互助を促進する「コンソーシアム」という運営モデルを採用している。

  そもそも,ORCIDの運営モデルはどのようなものなのか。筆者は,自分なりに3つの要素に分解して説明している。

  • 1. 普及促進のため,ユーザは無償でIDを取得し利用することができる。
  • 2. 一方で,ユーザが所属する機関や研究情報を持つ機関が,ORCIDの機関APIを用いてユーザに関する研究情報を,情報源としての機関名とともに登録する(表示されるため情報に信用を与える)。
  • 3. 機関はORCIDに賛同し,ORCID運営を支える(そしてAPI利用権を得る)。

   コンソーシアムというと,少々物々しい印象を持たれるかもしれない。しかし,実際には,機関参加にかかる会費の共同支払いがコンソーシアムの主な目的である。

   運営委員会は一般社団法人大学ICT推進協議会(AXIES)に協力を求め, 2019年5月にORCID日本コンソーシアムのリード機関となることをこの法人は決定した。AXIESは,高等教育機関を対象とした教育ICTに関する共同開発や共同購入等を目的として設立された法人である。AXIESは,実質的な受け皿となるORCID部会というセクションを立ち上げ,この部会を中心にコンソーシアムにかかる活動を進めていくことになった。運営委員会はコンソーシアムの事務手続き,ORCID部会は開発企画の提案という,両輪で進めていくことにしている。

   冒頭にも触れたように,2020年4月からORCID日本コンソーシアムは活動を開始し,2月及び8月を締め切りとして年に2回,入会機関の募集をしている。ORCID日本コンソーシアムおよびAXIES-ORCID部会ではORCID普及活動および利活用に関する研究開発を行い,参加機関間で知見の共有を図っている。多くの大学・研究機関からの理解・賛同を得られれば幸いである。

Ref:
ORCID 日本コンソーシアム.
https://orcid-jp.net/
ORCID.
https://orcid.org/
蔵川圭. 動向レビュー:著者の名寄せと研究者識別子ORCID. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1740. p.15-19.
https://doi.org/10.11501/3050829