カレントアウェアネス-E
No.506 2025.07.31
E2811
愛知県図書館の「PDFダウンロードサービス」について
愛知芸術文化センター愛知県図書館・川島仁子(かわしまひとこ)
愛知県図書館では、2025年5月15日より、利用者がオンラインで複写を申し込み、PDFファイルにより複写物を受け取ることができる「PDFダウンロードサービス」(以下「本サービス」)を開始した。本稿では、その概要と開始までの準備、及び現状について述べる。
●サービスの概要
2021年の著作権法(以下「法」)改正により、図書館等は、一定の条件の下、著作物の一部分を利用者の求めに応じてインターネットで送信する公衆送信サービスを実施することが可能となった。背景にはコロナ禍による休館をきっかけとした遠隔利用ニーズの増大がある。
この改正を受け、2025年1月に一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB)が、特定図書館の登録を開始した。特定図書館とは、公衆送信サービスを行うために、責任者の配置や職員研修の実施等、法で定められた要件を満たした図書館のことである。
公衆送信サービスでは、図書館の設置者が権利者に補償金を支払うことが求められる。補償金の徴収・分配はSARLIBが一括して行うため、特定図書館はSARLIBへの登録が必須となっている。当館は2025年4月に登録し、翌月にサービスを開始した。
本サービスの利用対象者は、当館の利用登録者(住所・年齢の制限なし)である。また、複写対象は当館所蔵資料のうち、国立国会図書館や県外公立図書館に所蔵がないものとし、主として地域資料を念頭に置いている。
●開始までの準備
本サービスの導入にあたり、円滑な実施を目指して関係部署と連携を図りながら準備を進めた。準備の柱は以下の三点である。
一点目は、複写料金徴収に関わる根拠規程の整備である。著作権法の一部を改正する法律附則第8条第2項(令和3年6月2日法律第52号)では、補償金相当額を利用者負担とする考え方が示されている。また『地方財務実務提要』(地方自治制度研究会編集、ぎょうせい)において、図書館における複写経費について、受益者負担の観点から無料提供は好ましくないとの記述があることを踏まえ、補償金相当額に加えて複写の事務実費(20円/頁)を徴収する方針とした。この実費額については、スキャナのリース料から積算した。
二点目は、会計処理についてである。歳入は雑入(事務実費及び補償金相当額)、歳出はスキャナのリース料やSARLIBへの負担金として整理した。加えて、SARLIBから返金や追徴が発生する可能性があることについても、自治体会計上の取り扱いを確認し、将来的な事務負担を想定した対応を検討した。SARLIBからは当面追加徴収は行わない旨が通知されているが、返金については10年間の時効(民法第166条第1項第2号)内での対応が残るとの説明もあり、今後の動きを注視していく必要がある。
三点目は、規程類及びマニュアルの整備である。法や図書館等公衆送信サービスに関する関係者協議会のガイドラインに沿う形で、さらに文部科学省作成の事務処理手引書なども参考にしながら整備を進めた。
●サービスを開始して
本サービス開始から2か月が経過したが、申込件数はごくわずかにとどまっている。サービス周知が進んでいないことと、補償金相当額を含む料金負担の大きさが理由と考えている。全国的に始まったばかりの制度であり、周知については様子を見ているところである。補償金は著作権者の不利益への補填として重要だが、例えば雑誌・新聞の場合1頁あたり550円(2頁目以降は110円)と、紙媒体での複写に比べて極めて高額であり、利用拡大の妨げとなっている可能性がある。
また現行制度では、各図書館が利用者から補償金相当額を徴収し、都度SARLIBに報告・支払いする仕組みであり、従来の郵送複写に比べ制度が複雑で事務負担が大きい。
今後は、さらに利用者の負担軽減と制度の公平性を踏まえた、持続可能で合理的な仕組みへの改善を期待したい。
Ref:
“愛知県図書館ではPDFダウンロードサービスを開始します”. 愛知県. 2025-05-01.
https://www.pref.aichi.jp/press-release/toshokan20250501.html
“PDFダウンロードサービスのご案内”. 愛知芸術文化センター愛知県図書館.
https://www.aichi-pref-library.jp/s002/010/050/030/pdfdl.html
“図書館等公衆送信サービス”. 日本図書館協会.
https://www.jla.or.jp/public_transmission_services_for_libraries/
一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB).
https://www.sarlib.or.jp/
図書館等における複製及び公衆送信ガイドライン. 図書館等公衆送信サービスに関する関係者協議会, 2023, 11p.
https://www.sarlib.or.jp/wp-content/uploads/2023/08/31guidelines230830.pdf
公立図書館における図書館資料のメール送信等のサービス 事務処理手引書. 第3版. 文部科学省, 2025, 33p.
https://www.mext.go.jp/content/20250528-mxt_chisui01-000042427_03.pdf