CA2095 – 動向レビュー:図書館における読書バリアフリー施策の動向 / 佐藤聖一

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カレントアウェアネス
No.366 2025年12月20日

 

CA2095
動向レビュー

 

図書館における読書バリアフリー施策の動向

公益社団法人日本図書館協会:佐藤聖一(さとうせいいち)

 

1. はじめに

 「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(1)(以下「読書バリアフリー法」)(2)が2019年6月に成立し6年が経過した。この間、国の「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画」(以下「読書バリアフリー基本計画」)(3)も第一期5年間を経て、2025年4月から第二期(4)に入っている。

 この読書バリアフリー法や、市川沙央氏の『ハンチバック』の芥川賞受賞は社会に大きなインパクトを与えており、「読書バリアフリー」という言葉自体は社会に浸透しつつあるといってよいであろう。しかし、それが具体的な図書館サービスや情報環境の改善に結びついているかというと、まだ不十分といわざるをえない。

 なぜ図書館の障害者サービスが思うように進展していないかというと、職員が障害者サービスの意味や方法をきちんと理解していないことと、読書に困難のある利用者が様々な障害者サービス用資料の存在、資料の郵送等のサービスを知らないことが主な原因と考えられる。

 本稿では、公立図書館を中心とした図書館の現状とともに、読書バリアフリー基本計画第二期の特徴についても紹介しつつ、今後の課題なども明らかにしていく。

 

2. 読書バリアフリー法の意義と概要

 最初に、読書バリアフリー法の意義や、法律が示す読書バリアフリーを実現するための方策について、読書バリアフリー基本計画(第二期)の内容を踏まえて簡単に見ておく。

 

(1)目的

 読書バリアフリー法の目的は、視覚障害者等の、読書に何らかの困難のある人が読書や情報にアクセスできる環境を整備しようというものである。対象者が大変幅広いということと、民間を含めて社会全体で取り組むことを求めていることがその特徴といえる。

 

(2)国の読書バリアフリー基本計画と地方公共団体の読書バリアフリー計画

 まず、国と地方公共団体が読書バリアフリーに向けた計画を策定することでその促進を図ろうとしている。

 国は「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る関係者協議会」(以下「関係者協議会」)を組織し、そこで検討して読書バリアフリー基本計画を策定・公表しなくてはならない。関係者協議会は、図書館や点字図書館などの情報提供団体、様々な障害者団体、出版事業者などの団体、学識経験者等で組織されている(5)。読書バリアフリー基本計画は、原則国が行うべきことを示したものであるが、内容を読むと実質的には図書館や民間企業も含めて社会全体として進むべき方向を示しているといってよい。読書バリアフリー基本計画は第一期5年を経て、2025年4月から第二期に入った。

 地方公共団体の視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する計画(以下「読書バリアフリー計画」)については後述する。

 

(3)読書バリアフリー基本計画を文部科学大臣、厚生労働大臣の連名で発表することの意味

 国の読書バリアフリー基本計画は、文部科学大臣と厚生労働大臣の連名で策定しなくてはならないことが法律で定められている。しかも、総務省等関係省庁とも調整することも求められている。実際に関係者協議会には、事務局である文部科学省、厚生労働省のみではなく、総務省、経済産業省、国立国会図書館などの関係省庁等も参加している。

 歴史的に見ても、障害者への情報提供は教育として行うのか福祉として行うのかといった綱引きがあった。しかし、読書バリアフリー法は、初めて教育や福祉の壁を越えて、民間も含めて社会全体で読書困難者への情報提供をしようとしたものである。このことが画期的であると考えている。

 

(4)図書館の役割等(第9条)

 第9条では、公立図書館、大学及び高等専門学校の附属図書館並びに学校図書館(以下「公立図書館等」という。)、国立国会図書館、点字図書館などの役割を示している。第11条により製作する資料や、第12条で出版者等が販売するアクセシブルな書籍等を提供するのはこれらの図書館の役割である。読書に困難のある人と、資料や情報を結びつける図書館の取組は重要である。

 

(5)ネットワークを活用した資料・情報の提供(第10条)

 障害者サービス用資料(特に著作権法第37条で製作したもの)は、全国レベルのデータベース化が進み、インターネットを活用して資料の検索や入手ができるようになっている。また、それを、図書館や読書に困難のある人自らが利用できる環境が整ってきている。(詳しくは後述する。)

 

(6)点字図書館・公立図書館等による資料製作の推進(第11条)

 第11条では、著作権法第37条を活用した資料製作の促進が求められている。さらに、同条2項では、資料を製作する図書館等のために、出版者からその元となる電子データの提供促進が求められている。(これに関する事業が、2025年度3省庁の予算で行われており、これについては後述する。)

 

(7)出版者によるアクセシブルな電子書籍等の刊行促進(第12条)

 第12条では、出版者からのアクセシブルな書籍等の刊行促進が求められている。アクセシブルな書籍等には、大活字本などのアナログな資料と、電子媒体のものがある。特に、アクセシブルな電子書籍は、多くの読書困難者の情報へのアクセスを保障する可能性があり、この法律の肝ともいえるものである。

 

(8)利用者の情報通信技術の習得支援(第15条)

 障害者サービス用資料は、図書館等が製作しているものも販売されているものも、特にデジタル形式のものが増えており、また前述のネットワークを活用した利用環境も整えられてきているが、読書に困難のある障害者等の中にはそれらを使えない人が多いという根本的な課題がある。これを解決しようとするものがこの条文である。

 

(9)職員等サービス人材の育成、音訳者等資料製作人材の育成(第17条)

 第17条では二つのことを示している。つまり、職員等サービス人材の確保と資質向上、音訳者・ボランティア等の確保と資質の向上である。この二つはいわば基本的な要素といえる。

 

3. 国と地方公共団体の読書バリアフリー計画

(1)地方公共団体の読書バリアフリー計画

 地方公共団体が策定する読書バリアフリー計画は、残念ながらその策定が必須ではなく、努力目標となっている。しかしながら、都道府県が策定しないと市区町村の策定が困難となるため実質的に都道府県は必ず策定する必要がある。

 次の(2)で現状の策定状況を示すが、すでに策定している地方公共団体でもその内容にかなりの違いがある。

 具体的には、大きく分けて、従来の福祉施策等に読書バリアフリーの項目を加えたものと、読書バリアフリー計画を新たに策定したものがある。いうまでもないが、後者の方が内容が圧倒的に充実している。さらに、国のように関係者協議会を立ち上げて検討している地方公共団体と、役所内で事務的に作っている地方公共団体がある。いずれの場合でも、公開前にパブリックコメントなどを実施しているものの、それのみで内容を充実させることはできない。

 また、計画を策定するためには、役所内で教育部局と福祉部局の連携協力が不可欠となる。ここでも、教育部局と福祉部局のいずれがリードしているかによっても内容に違いが出てくる。また、都道府県レベルにおいては、特に教育や図書館に関する部分では、都道府県立図書館のサービスの質が大きく影響する。後述するが、残念なことに、図書館の障害者サービスは、その実施率が低く、実施されている場合でもサービスの質にかなりの違いがある。これによっても、読書バリアフリー計画の内容には地方公共団体により相当の差異が出ている。

 

(2)読書バリアフリー計画の策定状況(文科省・厚労省調査から)

 都道府県・政令市・中核市の読書バリアフリー計画の策定状況については、毎年文部科学省と厚生労働省が調査をしてその結果を公開している。最新の調査結果は次の表のとおりである。

表 視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する計画の策定状況について(調査時点:令和7年2月1日現在)(6)
回答 都道府県 指定都市 中核市 全体
回答数 回答数 回答数 回答数
1.既に策定済み 38 80.9 % 8 40.0 % 19 30.6 % 65 50.4 %
2.現在策定作業中 5 10.6 % 2 10.0 % 1 1.6 % 8 6.2 %
3.策定に向けて検討中 4 8.5 % 6 30.0 % 6 9.7 % 16 12.4 %
4.策定する予定なし(未定も含む) 0 0.0 % 4 20.0 % 36 58.1 % 40 31.0 %
47 100 % 20 100 % 62 100 % 129 100 %

 これを見ると、都道府県ではそれなりに策定が進んでいるが、過去の調査結果を見るとこの1年で急速に進んだことが分かる。ただし、法制定から6年が経過していることを考えると、ようやく計画が策定された感が強い。また、内容にかなりの違いがあることは前述のとおりである。

 なお、読書バリアフリー計画はまず都道府県が策定し、次に市区町村が策定するのが現実的であることを述べた。この場合に政令市や中核市の扱いをどう考えるかが気になる。

 通常、図書館のネットワークでは政令市や中核市の別なく、県内すべての地方公共団体を対象にネットワークを組んでいる。ところが、福祉部局や義務教育学校では政令市を都道府県とは別の行政単位で捉えている場合が多くある。これもある意味行政の縦割りの一つと言ってもよい。さらに、図書館と連携すべき点字図書館は県内に一つか二つであることも考慮すると、政令市や中核市を含めてまず県内すべての地方公共団体を対象とした読書バリアフリー計画を策定する必要がある。

 

(3)読書バリアフリー基本計画第二期の特徴

 国の読書バリアフリー基本計画は2025年4月から第二期(5年間)に入った。

 第一期との違いは、数値目標ともいえる指標を追加したことである。もちろん、統計的な数字などは最新のものに改められている。

 「Ⅱ 基本方針」では、第一期に引き続き、出版者によるアクセシブルな電子書籍等の刊行促進と、著作権法第37条による点字図書館や公立図書館等による資料製作の充実を車の両輪のように促進することとしている。

 「Ⅲ 施策の方向性」では、「1. 視覚障害者等による図書館の利用に係る体制の整備等」(第9条関係)で次のように示されている。公立図書館等は、「点字図書館とも連携して、アクセシブルな書籍等の充実、アクセシブルな書籍等の円滑な利用のための支援の充実その他の視覚障害者等によるこれらの図書館の利用に係る体制整備を図る」。

 そして、公立図書館・点字図書館の役割だけではなく、国立国会図書館・学校図書館・大学図書館の取組等についても書かれている。学校図書館では、特別支援学校だけではなく、地域の学校にも読書に困難のある児童生徒がいることを念頭に、読書バリアフリーの活動促進が求められている。大学においては、国立情報学研究所(NII)による「読書バリアフリー資料メタデータ共有システム」(7)の構築があり、これにより、大学図書館が製作する資料の所在情報を共有できるようになった。

 第二期で新たに導入された指標(条文ごとの数値目標)の内、図書館に直接関係するものを挙げる。

〇第9条関係
  • 公立図書館等におけるアクセシブルな書籍等の冊数
  • バリアフリー関係設備の整備状況
  • 著作権法第37条第3項による視覚障害者等用資料製作を行う公立図書館等の数(館種別の視覚障害者等用データ送信サービスのデータ提供館及びサピエ図書館登録館数)
  • 資料形態ごとの視覚障害者等用データ送信サービス及びサピエ図書館の提供データ数
〇第10条関係
  • 公立図書館等の視覚障害者等用データ送信サービス及びサピエ図書館の館種別登録館数
  • 視覚障害者等個人の視覚障害者等用データ送信サービス及びサピエ図書館の登録者数
〇第11条関係
  • 出版者から公立図書館及び学校図書館、点字図書館に提供されたタイトル数
〇第12条関係
  • 市場に流通するアクセシブルな電子書籍等の新規発行数もしくは登録数
〇第17条関係
  • 国及び都道府県等における図書館職員向けの障害者サービスに係る研修会の実施状況
  • 点訳・音訳奉仕員養成研修の受講者数

 この指標を見ると、既存の調査から算出できるものと、ウェブサイトの登録者数等すぐに数字化できるものが中心となっている。図書館の障害者サービス実施館数などの基本項目がないことは残念であるが、必要なものは別調査で補うことになる。

 

4. 公立図書館・学校図書館における障害者サービスの役割と特徴

(1)障害者サービスの意味

 障害者サービスという言葉のせいもあり、障害者サービスは福祉的なもの、障害者への対象別サービスであると誤解されてきた。

 図書館の障害者サービスの意味は、「図書館利用に障害のある人々へのサービス」であり、その目的は「すべての人にすべての図書館サービス・資料を提供する」ことにある。それを簡単にいうと、「誰もが使える図書館にする」ことである。

 

(2)公立図書館の障害者サービスの提供方法

 公立図書館の障害者サービスでは、その利用者が使える形式の資料の提供、その利用者が利用できる方法での資料提供、来館利用者支援などを行ってきた。

 

(3)障害者サービス用資料(バリアフリー図書)

 公立図書館や学校図書館では、大活字本、LLブック(やさしく短い言葉、ピクトグラムや写真を使って分かりやすくした本)、点字付き絵本、ユニバーサル絵本などのバリアフリー図書を活用している。これらは、出版者が販売しており、誰もが利用できる。

 次に、著作権法第37条で製作しているもの(点字以外は、利用者が視覚障害者等に限定される。)として、点字、デジタル録音図書デイジー、マルチメディアデイジー、布の絵本(販売されているものもある)、テキストデータ・テキストデイジー・アクセシブルなEPUB等がある。

 

(4)資料の提供方法(サービス)

 読書に困難のある人は図書館への来館が困難な場合が多い。そのため、点字・録音資料の郵送貸出サービス、一般図書資料の郵送貸出サービス、職員による宅配サービス、施設・病院・学校等へのサービスが提供されている。

 また、電子書籍の配信サービスも来館困難な人や読書障害者に有効なサービスである。ただし、アクセシブルなものはまだ少ない。

 さらに、来館者の対面朗読サービスがあり、オンラインを活用した対面朗読も行われるようになってきた。

 その他に、来館利用者のための、施設設備の整備、拡大読書器等の障害者サービス用機器の設置、リーディングトラッカー・書見台等の閲覧補助具の設置、分かりやすい館内表示の工夫等、様々なものがある。

 以上、言葉だけを並べると障害者サービスは大変充実しているように見えるかもしれないが、残念ながらそのすべてを実施している図書館はほとんどない。一定レベル(8)の障害者サービスを実施している公立図書館は全体の2割以下となっている。

 

(5)学校図書館における読書バリアフリーの取組

 読書に困難のある児童生徒は、特別支援学校だけではなく、地域の学校にも多く存在する。特に、ディスレクシア等の発達障害のある児童生徒は、地域の学校に通っていることが多い。また、読書に困難があるということは、小学校低学年で分かってくる。そのため、学校図書館では様々なバリアフリー図書を置いて、すべての子どもがそれらを体験できるようにしたい。

 読書に困難のある児童生徒が、自分に合う読書スタイルを発見できれば、その後の学習に大きな影響を与える。大げさでなく、人生を左右する大きな問題ともいえる。読書に困難のない児童生徒は、様々な読書スタイルを体験することで、多様性の存在を当然のものとして受け入れることができ、インクルーシブを肌で感じることができるようになる。

 また、中学・高校においても、読書に困難のある生徒は多く存在し、しかも自分に合った読書スタイルを知らない可能性もある。そこで、同様に学校図書館で体験してもらう意味は大きい。

 このように学校図書館には大きな可能性があるが、残念なことにバリアフリーへの取組を行っている図書館はわずかである。

 

5. ネットワークを活用した障害者サービス用資料の入手と提供

(1)インターネットを活用した障害者サービス用資料の二つのデータベース・検索サイト

 全国の公立図書館等・点字図書館・認められたボランティアグループ等が、著作権法第37条に基づき製作している障害者サービス用資料は、全国的なネットワークを活用して、その入手や提供ができるようになっている。

 点字図書館が製作した資料の書誌情報とコンテンツデータを収録したものが、「サピエ図書館」である。

 国立国会図書館・公立図書館等が製作した資料の書誌情報とコンテンツデータを収録したものが、国立国会図書館「視覚障害者等用データ送信サービス」(その他の機能も含めて通称「みなサーチ」と呼ばれている)である。

 この二つのデータベースは横断的機能をもっていて、便利に使うことができる。なお、サピエ図書館は一部年会費が必要なサービスもあるが、資料の検索等は無料で行える。

 

(2)二つのデータベースで資料を検索して利用者に提供

 上記の二つのデータベースサイトにより、全国の点字、音声デイジー、マルチメディアデイジー等の資料の所蔵館を瞬時に調べられ、相互貸借の依頼ができる。ちなみに、点字資料は誰に送っても送料無料、盲人用録音物は図書館相互・図書館と点字図書館相互の送料は無料となっている(特定録音物等発受施設指定が必要)。つまり、これにより、全国の障害者サービス用資料が無料で借りられ、利用者に提供できる。

 また、図書館と視覚障害者の間も、点字・録音資料の送料は無料であり、利用者の自宅まで全国の資料を無料で提供できる仕組みが出来上がっている。

 なお、ここでも多くの図書館職員が、これらのシステムを知らないという大きな問題がある。また、仮にこのシステムを知っていても、「全国の資料を利用者に案内して提供する」という従来の図書館の枠を超えたサービス方法をきちんと理解している職員は少ない。

 

6. 公立図書館などの障害者サービスの現状

(1)サービスの実施率が低く、その質に地域差が大きい

 2017年の国立国会図書館による「公共図書館における障害者サービスに関する調査研究」(9)でも、2021年の全国公共図館協議会による「公立図書館における読書バリアフリーに関する実態調査」(10)でも、一定レベル(11)の障害者サービスを実施している公立図書館は、全体の2割以下となっている(地方公共団体単位で調査)。

 一定レベルの障害者サービス実施率が2割以下という数字自体大変低いが、2017年調査から2021年調査の4年の間にこの指標適合館がまったく増えていないことにも驚く。

 また、都道府県単位で障害者サービスの実施未実施に違いがある。これは、都道府県立図書館が域内の職員を対象とした障害者サービス研修会を定期的に実施しているかどうかが関係している。また、研修会を行うためには、都道府県立図書館自らが一定レベルの障害者サービスを実施していることも重要な要素となる。

 さらに、域内に先進館があれば、そこから学ぶことができるが、障害者サービス未実施地域では、そのような先進館もない。

 

(2)職員の問題

 障害者サービスをあまり実施していない図書館では、そもそも障害者サービスを担当する職員がいない場合が多い。このような図書館では、まず担当者を決めて、その人を中心にサービスの学習、計画立案、実施、長期計画作成をしていく必要がある。

 また、公立図書館では、担当職員がいても数年で異動してしまうという問題もある(特に指定管理方式では制度上そうなってしまう)。せっかく培ってきたサービススキルがなくなってしまう。それを防ぐためにも、複数の担当者を置いて、継続して協議しながら進めていってほしい。

 学校図書館の職員問題はさらに厳しい。図書館専任の学校司書・司書教諭がいるところは大変少ない。実質的に学校図書館が機能していないところも多い。専任の職員がいるところでは、様々な図書館活動が行われ、その中で読書に困難のある児童生徒への取組も考えられていく。

 

(3)利用対象者の拡大

 公立図書館の障害者サービスは、視覚障害者から、視覚障害者等何らかの理由で目による読書が困難な人へと、その対象者を大幅に拡大してきた。さらに、目による読書が可能であるが、外に出られない人、施設に入っている人等、何らかの理由で図書館のサービスや資料の利用に困難のある人にもサービスが提供されるようになってきている。

 しかし、まだ利用者の拡大に至っていない図書館も多い。障害者サービスの利用登録で、障害者手帳を必須としている図書館も数多くある。そもそも障害者サービスの利用登録を行っていない図書館もある。また、最初から利用はゼロという館では、利用者の拡大も現実的ではない。

 なお、利用者の拡大に合わせて、障害者サービスの利用登録の判断の参考とするため、日本図書館協会等の図書館関係団体では、「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」(12)を公表している。このガイドラインには、職員が視覚障害者等を判断して障害者サービスの利用登録ができるように、「利用登録確認項目リスト」がついている。

 

(4)利用者の減少、ネットからの利用拡大

 視覚障害のある利用者については、高齢化が進み登録者の減少と、貸出数の減少が進んでいる。視覚障害者以外の、読書に困難のある人が増えているのであるから、利用者が増加してもよいはずである。しかし、実際にはそうなっていない。

 その理由は、特に視覚障害以外の当事者に資料やサービスが知られていない、障害者サービスは関係ないなどと思われているからである。

 しかし、貸出数の減少は単純に利用が減ったからであるとはいえない。ICT化が進み、利用者の利用スキルが上がったことと、アクセシブルな再生機・再生アプリなども登場し、ネット上で障害者サービス用資料(データ)を利用するケースが増えてきている。これは、図書館を経由せずに、自分で検索してダウンロードなどして利用するものである。これからの資料・情報の利用という意味では、この自ら検索して直接利用するスタイルは重要で、図書館はこのような利用をサポートする立場にある。ただし、自らネットを利用した情報入手にはおのずと限界がある。図書館はそういう利用者にも、資料・情報の案内を行い、さらに高度なサービスを行うことが求められている。

 

7. 今後の展望

(1)アクセシブルな電子書籍等の製作数の頭打ちと、新たな資料への対応見込み

 図書館や点字図書館は著作権法第37条により点字や録音等の資料を製作しているが、その数を拡大することは困難な状況にある。それは、音訳者などの図書館協力者やボランティアの高齢化が進み、その人数が減少しているからである。現状の製作数を維持するのがやっとではないだろうか。新規に募集・養成しようとしても、求めている人材はなかなか集まらない。

 その理由は、「生活スタイルの変化」「経済的な要因」である。具体的には共働きが普通となっていることである。つまり、図書館協力者やボランティアの活動は、恒常的に時間・日数のかかるものであり、それが行える人を集めることは困難な状況となっている。今後、音訳を仕事として成り立つようにする等、何らかの方策を検討していくことになるだろう。

 また、点字や音声デイジーはそれなりに製作されているが、(全出版量の2割程度か)、マルチメディアデイジー・テキストデータ等の新しい資料への対応はまったく追いつかない。全国的な製作体制を整えることも困難である。

 

(2)アクセシブルな電子書籍の図書館からの提供

 そこで、これから最も期待されることは、出版者からのアクセシブルな電子書籍の提供である。これには、販売サイトから購入できるものと、図書館から無料で配信されるものがある。

 アクセシブルな電子書籍とは、視覚障害者等が自分の音声端末で読み上げたり文字を確認したり見出しでジャンプしたり点字に変換して読めるもの、文字を拡大したり色を変えたり読みやすく利用できるものをいう。

 一般の本を自分で購入したり、図書館で借りたりできるのと同様、電子書籍もそのような環境が必要である。ただ、大変残念なことに現状の電子書籍のアクセシビリティは、まだまだ発展途上であると言わざるをえない。

 読書バリアフリー法第12条(アクセシブルな電子書籍等の刊行促進)を受けて、経済産業省を事務局とした検討会が行われているが、この課題が具体的にどう改善されるのか注視したい。ちなみに、欧州連合(EU)では2025年6月からアクセシブルな資料しか販売できない法律「欧州アクセシビリティ法」(European Accessibility Act:EAA)が施行されている。

 なお、国立国会図書館を事務局とした「図書館におけるアクセシブルな電子書籍サービスに関する検討会」(13)から、図書館向け電子書籍配信システムのアクセシビリティ指針を示した「電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン2.0」(14)が発表されている。

 

(3)資料を製作している図書館等に出版者から元データとなるテキストデータなどを提供する実証調査

 読書バリアフリー法第11条第2項にもあるが、点字・マルチメディアデイジー・テキストデイジーなどを製作するにあたり、原本のテキストデータがあると製作期間の短縮が見込まれる。そこで、2025年度に、依頼した本のテキストデータを出版者から提供してもらう実証調査が行われている(15)

 これは文部科学省・厚生労働省・経済産業省がそれぞれ予算化し、一つの事業として行われ、公立図書館・学校図書館・大学図書館、点字図書館からいくつかの図書館を選んで実施するものである。2025年度は、データの依頼からテキストデータの受信、それを使った資料製作までの一連の手順を行い、手順の整理と作業マニュアルの作成等に取り組む予定とされる。

 

(4)利用者の情報入手スキルの習得支援

 障害者サービス用資料だけではなく、一般に販売されている電子書籍等もアクセシビリティの確保が徐々にではあるが進んできている。しかし、それらを利用するための利用者側のスキルが不足している。読書に困難のある人の多くは来館が困難で、必要な配慮も人様々である。そのため、個別支援が有効な方法となる。

 もちろん図書館に来館すれば再生機の操作支援・入手支援・再生機の貸出などを行う図書館もあるが、それを実施している館は少ない。「障害者ICTサポートセンター」などの存在もあるものの、およそ個別支援まで行っていない。

 これら、関連する団体や施設とも連携しながら、利用者の情報入手スキルの習得支援がこれからの鍵となる。

 

(5)すべての市民に様々なバリアフリー資料があることを知ってもらう、様々なサービス・情報入手方法があることを知ってもらう、「りんごの棚」

 以上、述べてきたように、現在最も大きな問題は、読書に困難のある人が、様々な形式の資料があることを知らないことと、郵送などのいろいろなサービスを知らないことである。また、当事者に直接PRすることも困難といえる。

 そこで、様々な形式の資料を並べて、それを市民の誰もが触って体験できる、「りんごの棚」を設置することもよい方法である。りんごの棚は、公立図書館はもちろん、学校図書館にもぜひ設置してほしい。

 りんごの棚には、様々な形式の障害者サービス用資料だけではなく、再生機、リーディングトラッカーなどの読書補助具、障害者や障害者サービスを知るための本等を自由に並べることができる。また、スウェーデンで作成された「りんごの棚」のロゴマークを目立つところにつけてアピールすることもできる(16)。図書館の片隅ではなく、誰もが分かる目立つところに設置したい。

 誰にでも見て触って知ってもらい、その人の家族や近くに読書に困難のある人がいれば、ぜひその存在を教えてあげてほしい。将来何らかの理由で読書が困難になっても、それを知っていれば読書をあきらめることはない。



写真:豊島区立中央図書館のりんごの棚

 

8. おわりに

 誰もが資料や情報にアクセスできるサービスを実際に提供し、それを知らない人に案内し、知っている人にはその人がほしい形の資料を全国から探して提供する。それが図書館の障害者サービスの目指すところである。

 「障害は障害者にあるのではなく、図書館のサービスにこそある」。これは40年も前に私たちの先輩が話していた言葉である。まさに、社会の側が障害者に使えるようにしなくてはならないということを示したもので、現在の「社会モデル的発想」「インクルーシブな社会」を先取りした考え方であった。今では、ICT技術が進展し、資料的にも情報入手の方法においても、その実現が近づいている。

 図書館は、まさに「社会モデル的発想」「インクルーシブな社会」の先進事例であり、それを実現する可能性をもっているのである。

 

(1)“視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(令和元年法律第四十九号)”. e-Gov.
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=501AC1000000049, (参照 2025-10-28).

(2)野口武悟. 読書バリアフリー法の制定背景と内容、そして課題. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1974, p. 2-3.
https://doi.org/10.11501/11509684, (参照 2025-10-28).

(3)野口武悟. 「読書バリアフリー基本計画」を読む. カレントアウェアネス-E. 2020. (399), E2307.
https://current.ndl.go.jp/e2307, (参照 2025-10-28).

(4)文部科学省, 厚生労働省. 視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(第二期). 2025, 25p.
https://www.mext.go.jp/content/20250328-mxt_kyousei02-000008669_02.pdf, (参照 2025-10-28).

(5)“視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る関係者協議会委員名簿(令和6年10月時点)”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/043/meibo/mext_00005.html, (参照 2025-10-28).

(6)文部科学省総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課障害者学習支援推進室, 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室. 視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する計画の策定状況概要. 3p.
https://kyouseisyakainomanabi.mext.go.jp/wp/wp-content/uploads/2025/04/20250425-reading-barrier-free-local-1.pdf, (参照 2025-10-28).

(7)国立情報学研究所読書バリアフリー資料メタデータ共有システム.
https://a11y.pub.nii.ac.jp/, (参照 2025-10-28).

(8)指標は、以下をすべて満たしているかどうかに基づく。
①録音資料の貸出を行っており、実績もある
②特定録音物等郵便物の発受施設の指定を受けている
③ 録音資料の郵送貸出サービス又は宅配サービスを行っており、実績もある点字や音声デイジーを図書館にただ並べただけで利用につながるわけではない。指標を見れば分かるが、サービス体制があるかだけではなく、実際に利用があるかどうかがポイントとなる。

(9)国立国会図書館関西館図書館協力課編. 公共図書館における障害者サービスに関する調査研究. 国立国会図書館, 2018, 118p, (図書館調査研究リポート, No. 17).
http://current.ndl.go.jp/report/no17, (参照 2025-10-28).

(10)全国公共図書館協議会. “2021年度(令和3年度)公立図書館における読書バリアフリーに関する実態調査報告書”. 東京都立図書館.
https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/zenkoutou/report/2021/index.html, (参照 2025-10-28).

(11)注(6)と同じ。

(12)“図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン”. 日本図書館協会. 2010-02-18.
https://www.jla.or.jp/committees/shousa/fukusei_guideline/, (参照 2025-10-28).

(13)“図書館におけるアクセシブルな電子書籍サービスに関する検討会 令和3年度報告書”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/support/report2021.html, (参照 2025-10-28).

(14)国立国会図書館におけるアクセシブルな電子書籍サービスに関する検討会. “電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン2.0”. 国立国会図書館. 2025-05.
https://www.ndl.go.jp/jp/support/guideline.html, (参照 2025-10-28).

(15)“文部科学省・厚生労働省・経済産業省連携による「特定書籍等の製作に係るデータ提供のあり方について」実証実験概要”. ABSC.
https://absc.jp/experiment2025/, (参照 2025-10-28).

(16)りんごプロジェクト.
https://peraichi.com/landing_pages/view/ringoprogectbook/, (参照 2025-11-14).

[受理:2025-11-17]

 


佐藤聖一. 図書館における読書バリアフリー施策の動向. カレントアウェアネス. 2025, (366), CA2095, p. 15-21.
https://current.ndl.go.jp/ca2095
DOI:
https://doi.org/10.11501/14606849


Sato Seiichi
Trends of Accessible Reading Policies in Libraries