CA2057 – 公共図書館と大学の連携事例の一考察 / 渡部幹雄

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カレントアウェアネス
No.359 2024年3月20日

 

CA2057

 

公共図書館と大学の連携事例の一考察

由布の里自由大学:渡部幹雄(わたなべみきお)

 

1. はじめに

 図書館に他の組織との連携に対する関心が高まっていることは、ある意味で図書館の危機意識の表れである。図書館の活動が先鋭化、細分化、更には矮小化したことに起因していると筆者は考えている。多くの現場での先鋭化や細分化、更には矮小化された図書館像が連携への関心を産み出したのである。無理がある例えばなしであることは承知で今図書館が置かれている立場を俯瞰すると、ジャングルの中で未知の動物である象に遭遇すると、牙を見た人は象のイメージを牙で語り、鼻を見た人はイメージを鼻で語り、足を見た人は巨大な足のイメージで語る。これらは何れも本物の象を語ってはいるが、象の全体像ではない。これが多くの図書館員が今置かれている現場で抱いている図書館像にあてはまる。ミクロの部分を追求するあまりに、マクロ的視野が欠落するという状況に陥る。つまり、図書館は今その本旨から遠のきつつある現況を示していると筆者は推察している。世界中の図書館の基本的な機能が、人類がこれまでに獲得した智慧を保存し提供するというものであることは、従来も今後も変わらない。その基本的な機能の下で各々の図書館が役割分担している訳である。この役割分担の仕組みや必要性が認識されないと連携には到達しない。人類が獲得した膨大な智慧を提供するとなると、巨大な空間と作業が必要であり、連携によってその機能を効果的に果たすことができるのである。

 公共図書館で考えられる連携の姿はどのような領域や内容のものであるかを見てみると、まず第一に同種同士の図書館の連携、第二は系列館の連携、第三には設置母体を超えた図書館間連携、第四には図書館と図書館以外の組織との連携がある。本稿では第四番目の図書館と図書館以外の組織との連携である公共図書館と大学の連携に限定して論を進めることとしたい。

 

2. 公共図書館と大学の連携の必要性

 公共図書館と大学の連携は、公共図書館、大学の双方にとって恐らく最も馴染みの薄い連携であることは、現時点での連携事例を見渡して容易に想像できる。それは連携の効果の即効性が乏しいことと公共図書館と大学の組み合わせが一般人の思い描く範疇外のものだからであろう。そういうことは別として、公共図書館と大学の連携の実態をその到達度から眺めると次の四つに大別される。レベルゼロの段階、初歩的段階、展開初期段階、展開充実深化期。レベルゼロの段階は連携が意識されていない状態。初歩的段階は連携を意識はしているが取り組みに至っていない段階。展開初期の段階は連携の取り組みはしているが連携による全体構造が認識されていない状態。展開充実深化期は目的がよく理解がされて、実践の積み重ねにより連携が充実強化されている段階。本稿の公共図書館と大学の連携は展開充実深化期の連携を述べるものである。

 連携の実践は、一見公共図書館や大学での日々の職務と無関係なものに見えるが、筆者は山を支える重要な基盤だと考えている。空腹を満たす日々のパンのような可視できる即効性のある成果も無論必要だが、将来に向けて舵を取る役割も重要である。裾野からは頂上(図書館の本旨)が見えないこともあるが、裾野が広ければ頂上も高くなる。登山者と同じように、自分が現に到達している位置と目的は常に把握している必要がある。目的が明確でなければ目的には辿り着けない。図書館の本来あるべき全体像を確認した上でその果たすべき役割を俯瞰し、現在置かれているポジションから目的(図書館の本旨)を見通す必要がある。これが欠落すれば良い連携に至ることはできない。

 では公共図書館と大学の連携の目的は何かと言えば、まず第一に人類が獲得した智慧や大学で新しく創造される智慧の分配装置・供給装置の作業。第二に生涯学習社会実現のための共同作業。第三に帰属地域の振興策の一環としての作業。第四に連携双方の不足分野の相互補完作業。以上の四つがあげられる。

 因みに本稿では法令に従って連携の必要性を説くというよりも、法令誕生以前の根源的な各組織の役割からの考察であることをお断りしておきたい。

 

3. 公共図書館と大学の連携の類型

 公共図書館と大学との連携は未だ一般的な現象とは言えないが、現在の連携例と両者の性格により想定される連携を含めて事例を区分すると、大まかに次の6区分に分類される。

①基盤地域振興型連携

 これは双方の基盤である立地する県市町村の振興のための連携作業である。基盤地域の課題に連携して課題解決に取り組む活動である。この活動は人口の集中する首都に位置する大学や研究重点型大学よりも、地方の地域貢献を標榜する大学に多い傾向がある。公共図書館も大学も地域に根差す取り組みをしたいという思惑が一致することから連携のハードルは低い。大学側に文部科学省事業「大学による地方創生人材教育プログラム構築事業(COC+R)」(1)等の地域と大学の関係性を謳う事業が浸透し、連携事業の取り組みへの理解度は以前よりも高くなっている。

②人材育成型連携

 これは相互間の人事交流による連携である。一定期間内の長期の相互交流や人材派遣である。双方の組織活性化や異分野経験による人材育成を目的としている。交流事業は数か月から3年間にわたり、国立大学と公共図書館との交流等、様々な人事交流が実施されている。大学側、公共図書館側双方の広い視野を持つ人材を育成したいという思惑が一致して実施されている連携である。

③相互組織補完型連携

 これは双方に不足しがちな資料の相互分担を意識した資料収集である。具体的には、大学の学部構成によっては不足している専門書や教養書等の資料を連携先の公共図書館がカバーし、公共図書館で不足しがちな連携先の大学の学部に関わる豊富な資料や知見を大学側がカバーするというものである。公共図書館と大学では蓄積資料や機能の相違があり、その異なる世界に連携によって双方が導かれることになる。

④生涯学習推進の共同作業型連携

 お互いの組織の長所短所を踏まえながら、公共図書館と大学が国民の生涯学習を支えるという目的を共有する組織であるという認識に基づいた連携である。全ての国民に学習権を保障するという立場に立てば、学習の為の資料提供は自然な流れであり、大学や公共図書館の限界性を考えると共同作業型連携は大きな柱となる。とりわけ周辺に高等教育機関のない地方にあっては欠かせない連携となる。例えば、放送大学や通信制の大学においては地方の公共図書館は大学付属図書館の役割を担う。通信制でなくとも大学の所在する自治体では共同作業型の連携は生涯学習保障の本旨に沿えば当然想定される連携である。

⑤共同研究型連携

 お互いの所蔵資料、人材を活かして研究を進める連携である。連携が順調に大学と公共図書館の間で定着すれば、共同研究型連携は充分想定内の連携である。研究のテーマが双方で共有化されて共通課題となれば、連携へのハードルは高くないと考えられる。

⑥事業共催型連携

 最近の例でいうと、ビブリオバトルのような事業を共催する連携である。これは目に見える形の連携の姿であり、双方の組織における理解も容易である。これは言わば、連携活動の導入初期段階である。このような連携が次なるステップの連携への橋渡しになる。連携を進めるにあたって双方の人間関係の構築は欠かせない。こうした事業共催型の連携によって得られた人脈は今後の連携の要ともなる。

 

4. 連携上の課題

 連携上の課題を整理すると、第一に、双方の所属組織内における連携についての正しい理解の普及。第二に、双方の組織の連携に対する温度差の是正。第三に、連携によって得られる成果を双方が確認していること。第四に、持続可能な連携組織の構築。以上の四点が連携を充実発展させるためには欠かせない。

 第一の所属組織内での正しい理解の普及は組織的に連携を推進させるために欠かせない第一歩である。第二の連携双方の温度差の是正は、連携が片側通行とならないために必要なことである。第三の連携によって得られる果実を双方が確認していれば、組織内外に対して説得力を持つことになり、連携を推進する上で必要なことである。第四の持続可能な連携組織の構築は、連携を一過性の事業ではなく、異なる状況下でも持続する活動にするために最低限必要なことである。これらの課題の解決が連携を充実発展させるための優先事項である。

 

5. おわりに

 連携の取り組みは、個々のルーティンワーク化した現行の業務に於ける眼前の課題の解決にはならない、所属組織の範疇にあるとは思えないなどと判断されがちである。しかし公共図書館も大学も人類が獲得した智慧の記憶装置であって、その智慧を社会に還元する立場にあることは変わらない。そうした共通する目的に双方が結集するのはごく自然な流れである。しかしながら、双方の職務が先鋭化、細分化すればする程に連携という大きな課題からは遠のく現状にある。そうすれば双方の組織から得られる成果は狭い範囲の限定的なものとなり、それはある意味で双方の社会的地位の低下を招くことでもある。全ての人類が獲得した智慧であれば全ての人類に還元すべきであることは自明のことである。関係組織が総ての機能を働かせることによって、智の流れは淀むことなく必要とする場所に流れることは想像に難くない。その最前線が公共図書館であり、大学である。

 

(1)“大学による地方創生人材教育プログラム構築事業(COC+R)”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/chihososei/index.html, (参照 2024-02-02).

 

Ref:
鈴木佳苗. 特集, 図書館の話題アラカルト: デジタル社会に対応した公共図書館の変革に向けて : 筑波大学とつくば市立中央図書館による小中学生を対象としたブックトーク映像制作の取り組み. 図書館雑誌. 2023, 117(7), p. 403-405.

“摂南大学現代社会学部との連携について”. 交野市立図書館. 2023-07-27.
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12971776/www.katanotoshokan.jp/news/?id=44, (参照 2024-02-02).

野原亜希,日髙正太郎. 箕面市立船場図書館の開館:指定管理者としての取り組みから. カレントアウェアネス-E. 2021, (421), E2427.
https://current.ndl.go.jp/e2427, (参照 2024-02-02).

小川佳菜子, 宮内博子, 甲田さと美. 図書館から広がる地域連携-知の拠点、地域の拠点を目指して. 地域と大学 : 城西大学・城西短期大学地域連携センター紀要. 2021, (1), p. 39-47.
https://doi.org/10.20566/24362336_1_39, (参照 2024-02-02).

朝倉久美, 畔上友里. 共につむぐ“知の拠点”をめざして : 信州大学附属図書館と県立長野図書館の職員交流研修報告. 信州大学附属図書館研究. 2020, (9), p. 223-228.
https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/records/21104, (参照 2024-02-02).

東智子. 公共図書館と大学の連携 : 「ブックトーク&メディカルトーク」事業. 医学図書館. 2019, 66(1), p. 28-31.

渡部幹雄. 特集, 大学図書館と公共図書館の連携: 大学図書館と公共図書館の連携の可能性. 図書館雑誌. 2018, 112(11), p. 729-733.

宮本晴江. 特集, 大学図書館と公共図書館の連携: 館種を超えた交流による図書館スタッフのスキルアップを目指して : 大学図書館と公共図書館との連携協定に基づく職員交流研修,合同講座の取り組み. 図書館雑誌. 2018, 112(11), p. 737-739.

岩崎武史. 特集, 大学図書館と公共図書館の連携: 鳥取県の公共・大学図書館連携. 図書館雑誌. 2018, 112(11), p. 746-747.

“【附属図書館】京都府内公共図書館・読書施設等との相互貸借サービスの実施について”. 京都大学図書館機構. 2017-10-11.
https://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/bulletin/1376257, (参照 2024-02-02).

“ミューズ子ども分室”. 高槻市立図書館.
https://www.library.city.takatsuki.osaka.jp/lib_07_muse.html, (参照 2024-02-02).

図書館連携による健康支援事業めりーらいん.
http://www.aichi-med-u.ac.jp/meliline/pc/index.html, (参照 2024-02-02).

致道ライブラリー.
https://chido.ttck.keio.ac.jp/index.html, (参照 2024-02-02).

[受理:2024-02-09]


渡部幹雄. 公共図書館と大学の連携事例の一考察. カレントアウェアネス. 2024, (359), CA2057, p. 5-7.
https://current.ndl.go.jp/ca2057
DOI:
https://doi.org/10.11501/13391590


Watanabe Mikio
A Study of Cases of Collaboration between Public Libraries and Universities