E2427 – 箕面市立船場図書館の開館:指定管理者としての取り組みから

カレントアウェアネス-E

No.421 2021.09.30

 

 E2427

箕面市立船場図書館の開館:指定管理者としての取り組みから

大阪大学附属図書館・野原亜希(のはらあき),日髙正太郎(ひだかしょうたろう)

 

   2021年5月1日,箕面市立船場図書館が開館した(ただし,新型コロナウイルス感染症感染拡大に伴う緊急事態宣言発出のため6月20日まで臨時休館した)。大学図書館機能を兼ね備えた市立図書館を国立大学法人が運営するという国内初の事例である。本稿では,開館に至る経緯や開館後の状況を報告する。

●新図書館整備の契機

   北大阪急行線延伸に伴い新設される箕面船場阪大前駅(2023年度開業予定)の駅前に,大阪大学箕面キャンパスを移転することについて2015年6月に大阪大学と箕面市(大阪府)が覚書を交換した。移転に係る協議をする中で,近隣の箕面市立萱野南図書館を駅前に移転し,大学図書館機能を併せ持つ市立図書館および文化交流施設を整備することとして,2016年4月に合意書が締結された。その合意書には,市立図書館と文化交流施設について,それらを大阪大学が指定管理者として将来にわたり無償で管理運営を行うことが明記された。

●開館前の準備・取り組み

   大阪大学附属図書館では2015年から学内および市の関係部署との間で,指定管理,また,新しく整備される施設と設備に関する調整が始まった。2017年には施設整備にかかる要求水準書の作成,管理運営にかかる協定書や仕様書,事業計画書の作成に着手した。2018年から公共図書館のサービスの実務に関する定期的な打ち合わせが市立図書館との間で始まり,2019年と2020年には外国学図書館職員2人を市立図書館に派遣して実地研修を行い,市立図書館業務のマニュアル整備に努めた。

   箕面市立船場図書館の指定管理を担うにあたり, 2018年5月に公共図書館と大学図書館の双方での勤務経験のある講師を招いて研修を開催し,職員の意識付けおよび課題を共有した(E2115参照)。さらに,移転直前の2021年2月から5月の開館までの期間中には,船場図書館で実際にサービスを行う大学図書館職員が公共図書館の運営・サービス業務等に関する基礎的な知識を習得する目的で,研修事業を外部委託し,講義およびワークショップを計9日間で20講義実施した。また,市立図書館サービスを実施することによる所掌事務等の調整,大学図書館に由来する館内施設の市民利用のための調整等により,大学図書館の規程の改正を行った。

   本学の人員体制では,既存の組織に,市民サービスを担当する部門を新設し,職員を増員した。さらに,指定管理業務のうち一部業務について,第三者と委託契約を締結し,民間事業者の有する経験やノウハウの活用により,より質の高いサービスを展開できるよう準備をすすめた。

   本件は指定管理者制度による市立図書館の管理運営ということに加え,PFI事業による駅前地区まちづくりの施設整備及びキャンパス移転という大きなプロジェクトが同時に進行したことが大きな特徴である。新型コロナウイルス感染症が急速に拡大した時期に,予定外の臨機応変な対応を求められる中で,大学図書館サービスを展開しながらこの全てに関わり,新図書館の開館を迎えられたことは,箕面キャンパスの教職員と学生,地域の皆様の図書館に対する大きな期待と深いご理解および本事業に関わってくださった関係の皆様の多大なご配慮とご協力があったからにほかならない。

●開館後の状況:大学図書館,市立図書館の立場から

   新館オープンから本稿執筆時点の8月末までの約2か月間,忙しさが落ち着く気配のないまま,大学の試験期と小中高の夏休みという大学図書館と市立図書館それぞれの繁忙期を迎え,市立図書館7館で最も入館者数の多い日が続いている。この期間の市立図書館の新規登録者数は1,500人を超えた(うち本学学生の新規登録は約120人である)。前年同時期の新規登録者数が全体で120人程度であったことからも,今回のオープンが多くの方にとって新しく図書館を訪れるきっかけになったのが分かる。貸出については,箕面市民への大学蔵書貸出冊数が移転前と比べて4倍以上に増加している(コロナ禍以前の2019年7月-8月は89冊,2021年7月-8月は385冊)。

   運営面では,移転前から実施していたサービスを新館でも引き継いでいる。大学図書館では,授業における図書館職員の文献検索ガイダンスを筆頭に,学生への学習支援,教員への研究支援を行っている。市立図書館では,乳幼児向けのおはなし会を再開できる時期を待っている。

   施設面では,市の蔵書がある2階と大学の蔵書がある3・4階が中央階段でつながり,各蔵書を館内で自由に読むことができるのはもちろん,大学の蔵書を市民が借りることもできる。また,大学図書館由来のラーニング・コモンズ等の館内施設も大学構成員と市民が共通で利用できる(執筆時点では閉室中)。共通の機能と分けざるを得ない機能が混在する中で,サービスカウンターでの対応や館内掲示,図書館ウェブサイトによる情報発信を工夫し,利用者に分かりやすくスムーズな案内を行っている。

   新館における今後のイベントでは,箕面キャンパスと地域住民が協力して開催する「箕面国際フェスティバル(10月2日,3日)」の企画の一つとして,外国語学部の教員・卒業生が日本語に翻訳したデンマーク語絵本の読み聞かせを予定している。他に,図書館活用法を伝える市民講座や,市立図書館サービスに参加する学生ボランティアの募集も検討している。

   今後の展望として,必要な図書館サービスを変わらず継承していくことに加え,市と大学が融合することによって生み出せる新しい図書館サービスを展開し,地域の活性化および大学の地域貢献に寄与できることを期待している。

Ref:
箕面市立船場図書館.
https://www.library.osaka-u.ac.jp/minohsemba/
“箕面船場阪大前駅前地区・箕面萱野駅前地区のまちづくり”. 大阪府箕面市. 2020-05-08.
https://www.city.minoh.lg.jp/tokuteichiki/senba.html
“(報道資料)大阪大学が、(仮称)市立船場図書館・(仮称)市立船場生涯学習センターを管理運営します”. 大阪府箕面市. 2018-12-20.
https://www.city.minoh.lg.jp/syogai/handaisiteikanri.html
大学図書館と公共図書館が一体化した,新たな社会連携の形. 国立大学. 2021, (60), p. 12.
https://www.janu.jp/janu/report/koho60/challenge60/
大塚志乃. 研修「公立図書館と大学図書館の共通点と相違点」<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (365), E2115.
https://current.ndl.go.jp/e2115