E2115 – 研修「公立図書館と大学図書館の共通点と相違点」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.365 2019.03.14

 

 E2115

研修「公立図書館と大学図書館の共通点と相違点」<報告>

 

 2018年11月7日,大阪大学附属図書館は,豊中キャンパス(大阪府豊中市)にある総合図書館で平成30年度大阪大学職員研修「公立図書館と大学図書館の共通点と相違点」を開催した。

 本学は,箕面キャンパス(大阪府箕面市)の移転に伴い,2021年4月1日から(仮称)箕面市立船場図書館の指定管理を担う予定である。大学図書館と公立図書館は,資料や情報等の提供を通して利用者に奉仕するという点では共通するものの,設置目的・主な利用者・所蔵する資料・実施しているサービス内容など様々な点で異なるところも多い。今回の研修は,これまで大学の学生・教職員を主なサービス対象としてきた大学図書館が公立図書館を運営していくため,まずは公立図書館と大学図書館の共通点と相違点を知る必要があるとの趣旨から,公立図書館と大学図書館の双方での勤務経験のある講師を招いて開催したものである。

 初めに,渡部幹雄氏(和歌山大学図書館長)から,「公立図書館と大学図書館の連携~国内外の事例から見えるもの~」と題した基調講演があった。公立図書館長と大学図書館長を経験した立場から,公立図書館と大学図書館では人と資料をつなぐという原点は同じであるが,決定的に異なるのは資料そのものと,公立図書館はサービス対象が不特定多数ということであるとの指摘があった。また,図書館の連携の前提は連携先を理解することであり,大学図書館側からみると,連携先である公立図書館の理念(図書館法やユネスコの公共図書館宣言)や歴史を知っておく必要性が示された。大学図書館と公立図書館の一体型運営の事例としてノルウェー(ブスケルー専科大学図書館・ドランメン公共図書館)とスウェーデン(ウプサラ大学ゴットランド校図書館・ゴットランド公共図書館)の事例が紹介された。また,大学図書館と公立図書館の連携上の課題として,相互連携の重要性の認識,専門職の水準向上,物流システムの整備,一方通行の懸念(一方のみの視点ではない相互理解の努力および相違の認識・評価の重要性)の4点が挙げられた。さらに,職員が大学図書館と公立図書館を合わせた図書館の全体像を意識しながら仕事を進める必要があるとの指摘があった。

 次に,藤井亜希子氏(和歌山大学学術情報課副課長・元熊取町立熊取図書館長)から,「公立図書館の運営」の事例報告があった。熊取町立熊取図書館(大阪府)と和歌山大学図書館を比較し,両者の大きな違いは,熊取町では1日あたりの貸出冊数が非常に多く,団体貸出が行われていることであるとの説明があった。また,蔵書構成は,和歌山大学では日本十進分類法(NDC)の0門(総記)から3門(社会科学)までで5割を超えるが,熊取町では9門(文学)が4割強と大きく異なると述べた。業務としては,公立図書館のほうが利用者への直接サービスの割合が多いとのことであり,公立図書館での特徴的なサービスである児童サービスの事例として熊取町の児童サービスの紹介があった。また,大学図書館側から公立図書館の運営を考えるために,学生の大学入学までの図書館体験を知ること(人によりまったく異なること),公立図書館との連携を実際に行うこと,地域の特性と大学の特色を踏まえることの重要性が指摘された。

 最後に,西原千尋氏(豊中市立千里図書館)から,大学図書館から公立図書館に転職した立場から「公立図書館の日常」として事例報告があった。特に大学図書館との大きな違いは,返却ポストへの返却数や予約資料の件数といった日々の細かい業務量が大学図書館と比べて圧倒的に多いことであると述べた。また,サービス対象は幅広く,学校図書館や地域のボランティア団体への支援や連携も行っており,それらの活動等を通して地域に積極的に関わっていくことが公立図書館の特徴であるとの指摘があった。資料面に関しては,大学図書館で利用の多い学術論文や電子リソースを扱うことは少ない一方で,資料の内容そのものは幅広く,またDAISY資料や点字資料といった大学図書館ではあまり扱わない資料を扱うことが印象深いとのコメントがあった。

 質疑応答では,職員間の情報共有の方法について質問があった。シフト制勤務のため全員が集合できない公立図書館では,朝にミーティングを行い,その内容のメモを共有するなどの事例紹介があった。

 本研修には学内外から55人の参加があり,所属別内訳は本学附属図書館32人,本学附属図書館以外10人,他機関等13人であった(大学内の他キャンパスでの遠隔中継による参加を含む)。学内参加者からは,公立図書館と大学図書館の役割や業務の違いを知ることができて有益であったとの感想が多く寄せられ,本学において(仮称)箕面市立船場図書館の指定管理を担うにあたっての職員の意識付けおよび課題認識の一助となったことがうかがえた。

大阪大学附属図書館・大塚志乃

Ref:
https://www.library.osaka-u.ac.jp/kensyu_archive/#h30_1
https://www.city.minoh.lg.jp/syogai/handaisiteikanri.html