カレントアウェアネス-E
No.365 2019.03.14
E2116
特別コレクションの引用データ記述形式に関する報告書
2018年11月,英国研究図書館コンソーシアム(RLUK),英国国立公文書館(TNA)及び英・Jiscは,特別コレクション(Unique and Distinct Collections:UDCs)の引用データ記述形式について考察した報告書“Citation Capture: Enhancing Understanding of the Use of Unique and Distinct Collections within Academic Research and the Research Outputs Produced as a Result”を公開した。引用データ記述形式の標準化及び収集・保存方法の効率化を進めて,UDCsの利用動向を測定できるようにすること,そして,英国のUDCs所蔵機関が将来計画を策定する際に,引用データを情報源として有効に活用していくための提案を行うことが本報告書の目的である。以下,報告書の内容を紹介する。
はじめに,UDCsの引用データを次のように分析し,課題を整理している。
- 引用データの項目には共通性がみられ,UDCs所蔵機関名,資料番号,ページ番号,コレクション名及び個別の資料名が多くの引用データに含まれている。
- 引用データの記述形式は統一されておらず,DOIやURLの表記方法も様々である。
- UDCs所蔵機関による引用データの収集,保存が進んでいない。また,Google ScholarやJSTOR Data for Research等のデータ収集サービスでも,引用データが網羅的には収集されていない。
これらの点を踏まえて,今後目指すべき方向性が示されている。まず,既存の引用データを基にして,誰でも直感的に理解できる簡素なデータ形式に標準化し,幅広く普及させる。そして,UDCs所蔵機関が引用データを網羅的に収集して所蔵資料の利用動向を把握し,蔵書構築方針等の諸計画を策定する際に評価指標として利用できるようにする。具体的な提案内容は以下のとおりである。
- データ形式を統一する。最も重要なのはUDCs所蔵機関名で,「頭文字3ケタのコード」(The National Archivesの場合はTNAとなり,頭文字3ケタが他機関と重複する場合は正式名称を参照できるようにする。)又は「ARCHON(主に英国内のアーカイブ機関に付与された数字コード)に基づく独自のコード」が有力な候補となる。機関名の変更に対応可能で,SNS等のオンライン上で引用されたUDCsを適切に捕捉できるコード体系が必要である。
- 本報告書の作成者(RLUK,TNA及びJisc)が共同で引用データの記述形式に関するオンラインガイダンスを作成し,UDCs所蔵機関の職員や学術関係者に対して一元的な情報提供を行う。専用のウェブサイトを用意して,引用データの記述に用いるコード一覧等の情報を掲載するほか,引用データの記述形式を標準化する意義と執筆者にとってのメリットを分かりやすく説明する。
- 本報告書の作成者とUDCs所蔵機関との協議の場を設けて,職員の持つ専門知識や情報スキルが充分かを確認する。そして,UDCsの責任者に対して,利用者向け引用ガイドラインの作成や,オンライン目録から書誌データ等をダウンロードできる機能の導入等,必要な情報スキルの研修を行う。これにより,各機関が標準化された引用データを採用し,職員が業務で活用できるようにする。
- 学術界,出版業界,専門職団体等に対して,幅広く引用データ記述形式の標準化に関する広報活動を行う。論文等でUDCsを引用する際,前述のオンラインガイダンスやUDCs所蔵機関のウェブサイトを参照するよう働きかける。
- ソフトウェアを改良する。文献情報から引用データを収集,分析するソフトウェアEndNoteや,文献の類似性を判定して盗用を防止するサービスを提供するTurnitin(ターンイットイン)等との連携を進める。また,研究者識別子を管理するORCID(CA1880参照)等の関係団体との間で,独自のUDCs所蔵機関識別子の導入について協議する。長期的には,UDCsの引用データに関する自動収集ソフトウェアを開発することも視野に入れる。
- 引用データ記述形式の設計・導入に際して,UDCsとの関わりが深い学会や出版社と協働する。すでに,主要な学会の上級職にある研究者から多くの助言を得ており,今後の役割分担を明確化する。一方,現状では出版社の協力が不足しており,関係強化に向けて努力する。協力が得られない場合でも,出版社側にとって必須な要件を満たすデータ形式となるよう配慮する。
報告書の概要は以上のとおりであるが,小規模なUDCs所蔵機関では財源や職員の情報スキルに制約があるため,引用データの標準化及び業務への活用を進めるためには様々な支援が必要と思われる。本報告書の作成者であるTNA等の主要なアーカイブ機関が各UDCs所蔵機関と議論を重ね,その大多数が対応可能な実施計画を作成できるかが鍵となるだろう。
利用者サービス部政治史料課・成原貴彦
Ref:
https://www.rluk.ac.uk/citation-capture-report/
https://www.rluk.ac.uk/wp-content/uploads/2018/11/Citation_Capture_Report_2018.pdf
https://www.jisc.ac.uk/
https://www.jstor.org/dfr/
http://discovery.nationalarchives.gov.uk/find-an-archive
http://www.nationalarchives.gov.uk/help-with-your-research/citing-documents-national-archives/
https://www.archives.gov/research/alic/reference/citations.html
https://endnote.com/product-details/
https://www.turnitin.com/about
https://support.orcid.org/hc/en-us/articles/360006897674
E2023
CA1880