E1637 – CrossRef×JaLC合同ワークショップ<報告>

カレントアウェアネス-E

No.272 2014.12.12

 

 E1637

CrossRef×JaLC合同ワークショップ<報告>

 

 2014年11月6日,第16回図書館総合展において,ジャパンリンクセンター(JaLC)運営委員会の主催により,CrossRefとの合同ワークショップ「識別子ワークショップ JaLC,CrossRef,DOI,ORCID,そして…」が開催された。当日は,JaLC運営委員会の委員長を務める国立情報学研究所(NII)の武田英明氏,CrossRefのペンツ(Ed Pentz)氏,欧州原子力研究開発機構(CERN)のメレ(Salvatore Mele)氏の3名による発表とフロアを交えた質疑応答が行われた。識別子が果たす役割と意義については,2014年11月4日に開催されたORCIDのアウトリーチミーティング(E1633参照)でも関心が集まったところである。本稿では,識別子の利活用の事例と可能性に関する話題を中心に報告する。

 武田氏は,JaLCの概要を紹介した後,研究者と識別子の今後について述べた。JaLCは,デジタルオブジェクト識別子(DOI)を日本で付与する機関である。2012年3月,国際DOI財団が管理するDOI登録機関の一つとして認定され,科学技術振興機構(JST),物質・材料研究機構(NIMS),NII,国立国会図書館(NDL)の4機関により共同で運営されている。JaLCでは,J-STAGE搭載誌の論文やNDLでデジタル化した学位論文等にDOIを付与しており,今後は研究データ,書籍,E-ラーニング教材等にも対象を拡大する予定である。

 現在は,DOIは上記のようなコンテンツを対象とする識別子だが,研究者,研究機関,助成機関,研究プロジェクト等,研究活動に関わる全てが識別子の付与対象となりうる。そして,武田氏の予測によれば,研究活動の世界は,いずれ識別子のネットワークで表現されるものとなり,識別子を作ることがすなわち学術情報流通の基盤作りとなる。このとき,複数の識別子の使い分けとその関係の記述が不可欠になる。関係を記述する識別子のリンク,すなわちネットワーク作りは,現在は機械的に,または手動で行っているが,別の方法として,データとその関係にラベルを付けて表現するLinked Data(CA1746参照)が重要になるとのことである。

 ペンツ氏は,CrossRef(CA1481参照)設立の経緯,提供サービス,識別子の活用について述べた。CrossRefは,学術論文と参考文献を相互にリンクし,さらにそのリンクを恒久的に維持するために設立された。CrossRefのサービスは,DOIを用いることで実現しており,商業出版者,非営利出版者,政府等の公共的出版者等,関連組織の協力によって維持されている。

 CrossRefでは,助成機関の助成による研究成果を追跡可能とするため,助成機関と出版者をリンクするFundRef(E1450参照)のサービスも提供している。助成機関,助成番号,DOIのリンクが,ORCIDのような研究者識別子,FundRefの助成機関の識別子等を通じて各種識別子とのリンクへと拡がり,相互の検索を可能にすることで発見可能性を高めている。研究データにDOIを付与するDataCite(E1537参照)のDOIとCrossRefがデータに付与したDOIをリンクする取組も始まっており,データと論文の引用関係を見ることが可能である。ペンツ氏によれば,識別子が有効性を発揮するためには,識別子,標準的なメタデータ,それを提供するサービス,そのサービスを享受するコミュニティの4要素が全て揃う必要がある。これによって各識別子間の恒久的なリンクができ,識別子を活用することで新しいサービスが生まれ,ひいては研究の促進につながるとのことである。

 質疑応答では,識別子の質の担保に議論が集中した。ペンツ氏は,データとは誤りがあるものだということを前提とした修正のメカニズムの必要性を主張した。また,武田氏は,実在の人物ではなくてもORCIDの識別子を取得できてしまうが,ORCIDの参加機関であれば,ORCIDが提供しているAPIを用いて自機関に所属する研究者や教職員等の認証を行うことで,その存在を証明することができるため,機関が身元保証人となることが可能と説明した。メレ氏は,CERN等の高エネルギー物理学分野の研究機関が運営する分野特化型文献情報データベース「INSPIRE」における独自の識別子を用いた研究者情報の管理について紹介し,研究者コミュニティによって管理された識別子があることも研究者の存在の担保になると述べた。異なるコミュニティによって識別子が維持されることの利点と,識別子のネットワークが研究活動を健全に保つための基盤となりうるという知見は,今後の学術情報流通を考えるうえで参考になるだろう。

電子情報部電子情報流通課・福山樹里

Ref:
http://japanlinkcenter.org/jalc/
http://2014.libraryfair.jp/node/2127
https://www.youtube.com/watch?v=DpZJ7qdlBe0
http://japanlinkcenter.org/top/doc/141106_1_takeda.pdf
http://japanlinkcenter.org/top/doc/141106_2_pentz.pdf
http://japanlinkcenter.org/top/doc/141106_3_mele.pdf
CA1746
CA1481
CA1740
E1633
E1450
E1537