E1633 – 研究者識別子ORCIDアウトリーチ・ミーティング<報告>

カレントアウェアネス-E

No.271 2014.11.27

 

 E1633

研究者識別子ORCIDアウトリーチ・ミーティング<報告>

 

 2014年11月4日,国立情報学研究所(NII)において,国際的な研究者識別子を付与する非営利組織であるOpen Researcher and Contributor ID(ORCID;CA1740参照)のアウトリーチ・ミーティングが開催された。欧米以外での開催は今回が初めてで,日本をはじめ,韓国・台湾・香港の研究者からも報告があった。基調講演の後,「なぜORCIDなのか?研究コミュニティの視点」「ORCIDと研究者識別子」「ORCID職別子統合のための効果的な方法」の3部構成で,各テーマにつき3本の講演と質疑応答が行われた。様々な内容の発表があったが,全体を通して,多くの識別子が存在する現在及び増えていってしまうであろう未来においてORCIDの識別子(ORCID iD)が果たす役割と意義への関心の高さが窺えた。以下,この点を中心に紹介する。

 基調講演を行ったORCIDのエグゼクティブ・ディレクターであるハーク(Laurel Haak)氏によれば,まもなく100万件に達する(注)ORCID iDは,リポジトリや出版者が論文等に付与するデジタルオブジェクト識別子(DOI)やURI,ISBN,FundRefが助成機関に付与するID,創作者等の個人や機関に付与される国際標準名称識別子(ISNI),学協会が維持管理する会員番号といった各種識別子を結びつけるハブである。OCRIDのデータは,クリエイティブ・コモンズのCC0ライセンスで提供されている。デンマーク,ポルトガル,スウェーデン及び英国では,大学,国立図書館,助成機関等が協力して,ORCIDのデータを活用した国レベルのリポジトリの開発に取り組んでいる。そこで,研究者に代わって大学や研究機関等が研究者情報を更新できる機能“Account Delegation”を10月末にリリースした。2015年にもAPIの改善を予定しており,ログイン認証を利用することでデータの自動入力が可能になる。ORCID iDとこれを利用する機関の連携により,研究者は論文の投稿時や助成金の申請時に自分の情報を手入力したり複数のプロフィールページを更新したりする必要はなくなるとのことであった。

 NIIの武田英明氏は,10年後には,論文,データ,研究者等の実在のモノや人間から,研究機関,研究者の所属先,助成機関,助成されたプロジェクト,学協会,テーマ等の概念的な存在に至るまでのそれぞれに対して,場合によっては複数の識別子が付与され,研究の計画から成果の提出,評価までを含む研究活動全体が,各識別子とその関係を記述するメタデータによって表現される世界になり,識別子によって表現された研究者は,併存する多くの識別子のネットワークの一部となると予測した。そして,そのときにどのように研究者を支援するかが課題だとし,ORCID iDの利用が課題解決の一要素となり得ることを示唆した。

 この研究者支援に寄与するのが,ハーク氏が紹介した相互連携によるデータの自動入力と自動更新である。例えばORCIDの会長でありCrossRef(CA1481参照)のエグゼクティブ・ディレクターでもあるペンツ(Ed Pentz)氏によれば,現在出版社は研究者に対して原稿とともにORCID iDの提出を求めているが,提出されたORCID iDをCrossRefのメタデータとともに公表することで,研究者の許諾がある場合はCrossRefが研究者情報を自動更新できるようになる。また,物質・材料研究機構(NIMS)の谷藤幹子氏が紹介した新しいサービス“ORCID de Ninja”には,ISNIで特定した機関情報とDOIで特定した論文リストをORCIDの情報で統合して出力する機能があり,所属機関が頻繁に変わる若手研究者のプロフィールを引き継ぐことが可能である。谷藤氏は,論文の提出時の研究者情報に関して,共著者も含めてORCID iDを添えるだけで受理されるようになれば,研究者はプロフィールを作成する必要がなくなり,論文執筆の時間を取り戻すことができると述べた。

 また,ORCID iDの利用は助成機関にとっても利点がある。科学技術振興機構(JST)の水野充氏によると,助成機関としては,若手研究者等への助成の成果を測り,可視化する必要がある。そこで,JSTでは識別子による知識インフラの構築に取り組んでいる。コアとなるのは,ORCIDと連携しているresearchmap及び府省共通研究開発管理システムe-Radの研究者情報,J-Global及びJ-STAGEの書誌及び全文情報,Funding Management DataBaseの助成情報である。2014年10月時点で,190の研究機関がresearchmapと研究者情報をやりとりできるデータ交換システムを利用しており,研究者情報の入力については,CiNii,J-GLOBAL,KAKEN,ORCIDからresearchmapへの入力の自動化が完了している。また,researchmapへのリンクによって学校教育法で定められた情報公開基準を満たすとの見解を文部科学省が示したことで,研究機関が研究者情報を登録する場合は,研究機関が著者の身元を保証することになり,研究者情報の信頼性が高まると考えているとのことである。

 ORCID iDは,まだ普及の途にある。しかし今回のアウトリーチ・ミーティングで,研究者,大学,研究機関,助成機関,出版社のそれぞれにとって,自らの業績や評価に関する情報の集約を容易にし,可視化するための不可欠なツールになりうると感じた。ORCID iDと他の識別子とのリンクがどのような世界を可能にするのか,今後の展開が楽しみである。

電子情報部電子情報流通課・福山樹里

注:ORCID iDは,アウトリーチ・ミーティング実施後の2014年11月17日に,100万件に達した。

Ref:
https://orcid.org/content/tokyo2014
http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.622
http://www.atlas.jp/orcid/
CA1740
CA1481