E1624 – トークセッション「本+(hontasu)空間 vol.1」

カレントアウェアネス-E

No.270 2014.11.13

 

 E1624

トークセッション「本+(hontasu)空間 vol.1」

 

  奈良県立図書情報館では,去る2014年10月11日に,「本+(hontasu)」シリーズ企画の第一回目として,トークセッション「空間 vol.1」を開催した。このセッションは,当館の他のイベントに参加して,そこで繋がった人たちからできたコミュニティ「BOOK SAFARI」と当館とが,企画から当日の運営まで,互いに議論しながらつくりあげた初めてのイベントである。

 コミュニティといっても,いわゆるボランティアグループではない。当館のイベントに参加し,触発され,自分たちも,ここを舞台に,ここに相応しい情報発信ができるのではないかとの想いを同じくする人たちが,自然発生的に集まってできたコミュニティである。集まった人たちは,サラリーマン,大学教員,デザイナーなど,年齢も職業もさまざまであるが,互いがもつ知識,経験,スキルなどを活かしたり,場合によってはそれらを共有しながら,何ができるか,どんな発信ができるかを,本業のかたわら,時間を融通しながら,ミーティングを重ねてきている。そのなかから生まれたテーマが,「本をめぐる冒険」であった。本をいろいろな切り口からながめるとき,実にいろいろな要素が関わって,本というメディアが成立していることがわかる。内容にばかり目が行きがちだが,装幀(ブックデザイン)をはじめ,タイポグラフィ,紙,印刷,書棚,照明,空間を構成する建築など,あたかも巨大な森に分け入り,本をめぐる諸相を探検するような一本の道が見えてくる。そんなイメージを,少しずつかたちにすることを「BOOK SAFARI」と名付け,コミュニティとしての活動が始まった。そのキックオフイベントとなったのは,今年1月に開催した聞き書きをテーマにしたトークとワークショップのイベント「本の原点を探る2日間」であった。このイベントでは,コミュニティのメンバーは,フライヤーデザインや広報など,裏方でのコミットメントではあったが,当日は一参加者として参加し,その運営などを実地に学び考える機会にもなった。そして今回のこのトークイベントが,コミュニティとしての初めての主催イベントとなった。

 ところで,「BOOK SAFARI」と当館が共同で企画した今回のトークセッションは,本に関わる様々な要素を,「本+(hontasu)」というフレーズに託し,本のある風景のイメージを,様々な角度から,どんどん広げていこうというコンセプトで企画したものである。そして最初のテーマを,「本のある空間」すなわち「本+空間(hontasu 空間)」とした。1回目の今回は,その「空間」として「書店」を設定した。そして,書店という枠を超えて,独自のコンセプトで事業を展開されている京都の恵文社一乗寺店店長の堀部篤史さん(CA1798参照),東京下北沢で,ビールが飲めて,毎日イベントを開催する書店B&B代表の内沼晋太郎さん,そして地元奈良大和郡山の古い商店街の一角に4坪の本屋「とほん」を開いた砂川昌広さんをお招きして,書店における本のある空間について,縦横に語っていただいた。ファシリテーターは,「BOOK SAFARI」の一員でもある,フリーデザイナーの森口耕次さん,同じく広告ディレクターの松村倫也さんのふたりが務めた。

 プログラムは,各ゲストのプレゼン,クロストーク,各ゲストと参加者とのグループセッション,そして全体セッションという構成で行われた。この10年で半数以下に減ったといわれている「まちの本屋」が,これからいったい何ができるのかということと,そのようななかで,なぜ,本屋として成立し続けられるのか,そのあたりに参加者の関心が集中していたように思う。まちのなかでの立ち位置,あるいは,まちという「空間」のなかでのあり様である。そのことと,本のある「空間」とがパラレルな関係をつくっている,ということが,おぼろげながら,明らかになったのではないかと思われる。

 三つの書店に共通するのは,本を売るということはもちろん,現在では珍しくはないが,雑貨を売り,イベントを開催し,飲食も提供するということだろうか。単に本と雑貨が混在しているということではなく,そこには,連想検索のような意外性や驚きがあり,独特の空間の空気とでもいったものを醸し出している。このような書店のあり方は,「本屋をやり続ける」ためにどうすればよいのかという模索の結果だという。出発点は書籍単体の利益率の低さと「本屋をやり続ける」ことを両立させるための苦肉の策だったということだが,そこには,来店する人たちの知的好奇心や求めるものへのまなざしが,それとなく影のように反映されている。「本が売れるためには,一緒に何を売ってもいい」ではなく,来店するであろう人たちの動向を見据え,その人たちへのメッセージがこめられており,それは,雑貨やイベントなどに縁取られている。だからこそ,来店した人はその空間に触発されるのである。

 本に出合う空間から始まった今回のイベントが今後どのように展開していくのか楽しみである。

奈良県立図書情報館・乾聰一郎

Ref:
http://eventinformation.blog116.fc2.com/blog-entry-1106.html
http://www.library.pref.nara.jp/event/1335
http://www.keibunsha-books.com/
http://bookandbeer.com/
http://www.to-hon.com/
CA1798