CA2073 – 「文学創造都市おかやま」の取組について / 流尾正亮

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カレントアウェアネス
No.362 2024年12月20日

 

CA2073

 

「文学創造都市おかやま」の取組について

岡山市文化振興課主査:流尾正亮(ながれおまさあき)

 

 岡山市は「歴史と文化が薫り、誇りと一体感の持てるまち」を、目指す将来像として文化芸術等の推進に取り組んでいる(1)。中でも「文学による心豊かなまちづくり」を掲げて、①市民の郷土の文化に対する誇り・愛着の醸成、②国内外への情報発信、③創造活動の活発化を進めている。

 2022年3月には市民から「『文学による心豊かなまちづくり』の更なる推進に向けた提言書」が岡山市長に提出された。その内容を実現するため、新たに産学官が一体となった組織「文学創造都市おかやま推進会議」(2)を設立し、文学を軸とした文化芸術の推進事業「文学創造都市おかやま」(3)を進めることになった。

 この取組の一環として、岡山市は「ユネスコ創造都市ネットワーク」文学分野に申請し、2023年10月、日本国内では初めて認定された。

 本稿では、「文学創造都市おかやま」の取組について、ユネスコ創造都市ネットワークへの申請を担当した立場から具体的な申請プロセス等にも触れつつ紹介する。

 

1. ユネスコ創造都市ネットワークとは

 ユネスコ創造都市ネットワーク(UCCN:UNESCO Creative Cities Network)(4)(5)は、2004年にユネスコが設立した都市間ネットワークの枠組みである。ネットワークには、クラフト&フォークアート、デザイン、映画、食文化、文学、メディアアート、音楽の七分野がある。各都市が強みのある分野で申請し、ユネスコ本部及び加盟都市による審査を経て認定される。認定された都市は、各分野における創造性を発揮し、産業の推進や市民による協働を促進し、まちを活性化していくことが求められる。また、他の加盟都市と連携し、優良事例等の情報交換をすることが可能となる。

 

2. 申請プロセス及び申請内容

 ユネスコ創造都市ネットワークへの新規加盟申請は、2年に1度公募により行われている。日本ユネスコ国内委員会による国内公募、選考を経て、自治体がユネスコに申請書を提出する。岡山市は、2023年6月に国内選考を経て申請を行った。

 申請書には、都市の歴史、都市における文学分野の役割と基盤、統計データ、関連コミュニティやグループ、これまでに開催したフォーラム・会議等のイベント、人材育成プログラム、研究機関や専門的なインフラ、申請分野に関する政策及び今後実施予定の事業計画等を記載することとなっている。

 岡山市では、申請書の項目に沿って以下のようにまちの歴史、資源、関連する組織団体等を洗い出した。

 

(1)岡山市と文学のつながり

  • 3世紀頃から農耕文化が栄え、古墳等の遺跡・神社仏閣が多く残る。古来より現代に至るまで交通の結節点として商工業、医療、教育・文化の都市機能が集積。
  • 万葉集等にも「吉備」の地名が登場。

(2)市内の文学関連の資源

  • 江戸時代には城下町の豪商である河本家によって3万冊を超える書物が集められた民間図書館「経誼堂(けいぎどう)」があった。近隣の町人子弟に講義をする学問道場や文化人の交流拠点としての役割を果たした。
  • 大正期には、実業家・山本唯三郎の寄付により岡山市立図書館が建設された。
  • 誰もが本を手に取り学ぶことができたわけではない時代においても、民間と公が垣根なく協働し、地域の教育を推進してきた歴史がある。

(3)関係する組織

  • 岡山市は、人口約72万人(2024年現在)、瀬戸内海に面しており、10大学、3短期大学には約3万人の学生が集い、学術・研究の拠点都市となっている。
  • 市内には11の公立図書館、民間が運営する吉備路文学館を含む10の博物館・美術館、10の公立ホール等のインフラが存在。
  • 岡山県立図書館は2023年度、貸出冊数が全国の都道府県立図書館で第1位であり、来館者数は石川県立図書館に次いで第2位である(6)

(4)文学創造都市おかやまの取組

  • 岡山市は「坪田譲治文学賞」「市民の童話賞」を約40年間継続。
  • 市内125校の公立小・中・義務教育学校全てに学校司書を配置。
  • 岡山市中心部の施設や商店街等を会場とした文学関連イベント「おかやま文学フェスティバル」(7)には、例年約5,000人が参加。約3週間にわたる期間中には、独立系書店が出店し、飲食・ワークショップ等が行われる「おかやま文芸小学校」、個人や書店が古本を持ち寄って商店街で販売する「おかやま表町ブックストリート」、ZINE(自主制作した本)を販売する「おかやまZINEスタジアム」のほか、市民団体が実施するワークショップ、地元の放送局による学校及び被災地を会場とした朗読会等が開催される。

 

 これらの情報や取組をふまえ、岡山市文学賞を運営している文化振興課が文部科学省及びユネスコへの申請を担当した。

 様々な文献・ウェブサイト等に散在していた情報を、「文学」を切り口として収集、整理したが、情報の粒度がまちまちであることから、申請書に落とし込む際に精査が必要となった。また、申請書の項目毎に設定されている「問い」の抽象度が高く、どのような観点で論じ、表現していくべきかについて協議を繰り返した。その上で、申請書を英訳し、英語として本来伝えたい内容が表現されているかの確認を行った。限られた時間・予算の中でネイティブチェックを行う等、当初想定していた以上に多くの作業が発生した。

 

3. 認定後の「文学創造都市おかやま」の活動

 ユネスコ創造都市ネットワークへの加盟を目指す段階から、推進会議メンバーと事務局(市)との間では、それぞれの得意分野を生かして事業に取り組むという認識が共有されていたことは、スムーズな加盟申請につながった。推進会議メンバーは、本の販売イベント等を行う書店経営者、公民館での市民講座を企画運営する館長、図書館で日々業務に取り組む職員等の実践者であり、事業に関する実践的・具体的な議論を交わしている点が特長といえる。

 これらが功を奏し、2023年10月31日、ユネスコからの認定を受けることとなった。 認定後の具体的な事業としては、作家が滞在し作品制作を行う「ライター・イン・レジデンス」(8)に取り組んでいる。この事業では、作家の乗代雄介氏を招へいし、取材・執筆活動と併せて人材育成事業として創作に意欲のある市民等を募集、ワークショップを実施している。2023年のワークショップ参加者がグループを作り、有志でZINEを制作したことは、文学創造都市としての貴重な一歩であった。

 2024年には、地元出版社のメンバーを中心に、市民ライター講座を企画運営した。この市民ライターが参加する「文学創造都市おかやま」の情報誌として、まちの物語を伝えるマガジン『うったて』を創刊した(9)(10)

 ワークショップ、ライター講座いずれも定員を超える受講申し込みがあり、参加者からは、創作に対する熱い思いが感じられた。創作意欲の高い市民に行動の機会提供を行い、クリエイティブ人材の掘り起こしができていることが、取組の成果のひとつだと考えている。

 

4. 今後の展開

 おかやま文学フェスティバルでは、「ほんまちミーティング」と称して、出店者、ボランティア等の関心のある人々が企画に参加する場をもっている。出版社、書店、市役所等の企画の中心メンバーだけでなく、幅広く参加のきっかけを提供することで、より多様な市民の関わりが拡がっている。文学分野の関係人口の創出といえるのではないだろうか。

 岡山市立図書館、岡山県立図書館、吉備路文学館等の施設は、市民・県民が文学に触れる最前線として市と連携し、イベントや関連ニュース等の相互告知や、協働事業を進めている。それらを含め、「文学創造都市おかやま」の取組は、関係するステークホルダーが非常に前向き且つ積極的に事業に参画しており、そうした主体性が生み出すポジティブな関係性が推進力のひとつとなっている。

 今後も、文学を切り口として、岡山市内及び県内の多様なネットワークを拡げ、情報交換や協働事業に取り組むことで、「文学による心豊かなまちづくり」を更に推進していきたい。

 

(1)岡山市. 岡山市文化芸術推進計画. 2022, 48p.
https://www.city.okayama.jp/cmsfiles/contents/0000044/44006/20220928_suisinkeikaku_.pdf, (参照 2024-10-03).

(2)“文学創造都市おかやま推進会議(文学によるまちづくり部会)について”. 文学創造都市おかやま. 2023-11-13.
https://www.city.okayama.jp/bungakucity/0000046553.html, (参照 2024-10-03).

(3)文学創造都市おかやま.
https://www.city.okayama.jp/bungakucity/, (参照 2024-10-03).

(4)“ユネスコ・クリエイティブシティーズネットワーク(ユネスコ創造都市ネットワーク)について”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/unesco/006/1357231.htm, (参照 2024-10-03).

(5)“Creative Cities Network”. UNESCO.
https://www.unesco.org/en/creative-cities, (accessed 2024-10-03).

(6)JLA図書館調査事業委員会. 数字で見る日本の図書館都道府県図書館の統計 : 『日本の図書館』2024年調査票より. 図書館雑誌. 2024, 118, p. 462-463.

(7)“「おかやま文学フェスティバル2024」を開催しました”. 文学創造都市おかやま. 2024-03-31.
https://www.city.okayama.jp/bungakucity/0000059336.html, (参照 2024-10-03).

(8)“「おかやまライター・イン・レジデンス」(令和5年度第1回ワークショップ)を開催しました”. 文学創造都市おかやま. 2023-10-30.
https://www.city.okayama.jp/bungakucity/0000054171.html, (参照 2024-10-03).

(9)“-うったて- 文学創造都市おかやま発「ちいさな物語」マガジン”. 文学創造都市おかやま. 2024-04-12.
https://www.city.okayama.jp/bungakucity/0000059437.html, (参照 2024-10-03).

(10)うったて.
https://uttate.net/, (参照 2024-10-03).

[受理:2024-10-28]

 


流尾正亮. 「文学創造都市おかやま」の取組について. カレントアウェアネス. 2024, (362), CA2073, p. 5-6.
https://current.ndl.go.jp/ca2073
DOI:
https://doi.org/10.11501/13942638


Nagareo Masaaki
Initiatives of Okayama, City of Literature