カレントアウェアネス-E
No.479 2024.05.16
E2697
全国書誌サービスの現状と将来:書誌調整連絡会議<報告>
収集書誌部収集・書誌調整課・小野塚由希子(おのづかゆきこ)
2024年3月1日、国立国会図書館(NDL)は、令和5年度書誌調整連絡会議(E2005ほか参照)をオンラインで開催した。NDLは、2024年1月にリニューアル公開した国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)において、全国書誌データの新たな検索・提供サービスを開始した。これを機に、今回の会議では、「全国書誌サービスの現状と将来」をテーマとして取り上げた。
最初に、元・大阪学院大学教授の和中幹雄氏から、「全国書誌サービスと書誌コントロールの過去・現在・未来」と題して発表があった。まず、20世紀後半の国際的な書誌コントロールとその枠組みの一部である全国書誌の動向について、また、NDLが全国書誌を提供する中で果たしてきた役割について振り返りがあった。そして、将来の全国書誌サービスは、関係機関を含む統合検索と典拠検索の二つで構成されるとした上で、NDLが提供している全国書誌と、NDLサーチのような連携機関の書誌データを含む広義の全国書誌をつなぐためには、関係機関との連携協力による典拠データの共有が重要であるとの見解が示された。また、バーチャル国際典拠ファイル(VIAF;E2674ほか参照)におけるNDL典拠データと他機関データとの同定の正確性を高めるなど、典拠データの信頼性確保に努める必要があるとの指摘があった。
続いて、NDL収集書誌部収集・書誌調整課の村上一恵が、「全国書誌の促進:IFLA 書誌分科会の取組」と題して報告を行った。村上は、IFLA書誌分科会常任委員会委員を務めている。ユニバーサル書誌コントロール(Universal Bibliographic Control:UBC;E2663参照)がIFLAのコア・プログラムではなくなった後も、書誌分科会では、UBCの価値を再確認した「UBCに関するIFLA専門家声明(2012)」や、各国で全国書誌を促進させるための「デジタル時代の全国書誌のためのコモンプラクティス(2022)」、「全国書誌登録簿」などの取組を行ってきたことを紹介し、UBCは今後も必要だが、時代に合った手段に変わっていく必要があるとの見解を示した。
さらに、NDLから、収集書誌部収集・書誌調整課の田中亮之介が、「全国書誌データ提供サービスの現状」と題して報告を行った。NDLが提供する「全国書誌」が、「全国書誌データ」の提供へと移行していった流れを説明した。また、2024年1月には「全国書誌データ検索」「全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)データ検索」などのサービスを開始し、様々な方法で全国書誌データを提供していることを紹介した。
次に、「全国書誌サービスの将来像」と題して、有識者3人が発表を行った。
帝塚山学院大学教授の渡邊隆弘氏からは、日本の全国書誌は、利活用の観点では速報性が課題であること、また、未知資料の網羅的な発見という観点では、典拠コントロールの充実が重要であることが指摘された。その上で、NDL自体の典拠コントロール対象の拡充に加え、他の図書館と協働して、地域資料などの書誌データをNDLによる典拠コントロールに組み入れるような仕組みを作ることができないかとの提案があった。
日本女子大学准教授の木村麻衣子氏からは、全国書誌のカバー率向上に積極的に取り組んでほしいという要望があった。また、NDLの件名標目について、細目の付与により主題を十分に表現することが重要だが、細目付きの件名標目がそれぞれ別典拠となってしまい、主標目が同じでもまとめて検索できないなど、細目付きを含めた件名標目によって効果的な検索を行うには課題があるとの指摘があった。
東京大学准教授の大向一輝氏からは、書誌情報の将来について、情報の一定の塊を担保する「出版行為」の「いつ・どこで・誰が・何を」を記録するタイムスタンプとしての機能が重要となってきているとの指摘があった。また、全国書誌の将来について、永続的識別子(PID)を用いて外部の情報を書誌情報にリンクさせる仕組みづくりを整備し、「つながる書誌」のプラットフォームとしての役割を期待するとの意見が提示された。
最後に出席者による自由討議を行った。典拠検索の有効性を重視し、まずはNDL内のレファレンス部門や調査部門と連携し、将来的には米国議会図書館(LC)が主導する名称典拠ファイルの共同作成プログラム(National Authority Cooperative Program:NACO)における、地域や分野によるグループを通じて小規模な図書館でもプログラムに貢献できるようにするFunnelプロジェクトのように、関係機関の各分野の専門家・目録作成者の協力による典拠拡充を進めてほしいとの意見や、 NDLの書誌のプラットフォームに不足している点をNDL側から発信して、連携機関の協力を促し、コミュニティを活発にする仕組み・演出があると良いとの発言があった。また、会議における様々な提言が、全文検索が可能な時代の書誌の役割について、考えを整理する上で大変参考になったとの感想もあった。
会議の概要と資料は、NDLウェブサイトに掲載している。
Ref:
IFLA Bibliography Section. IFLA Professional Statement on Universal Bibliographic Control (2012). 2013.
https://repository.ifla.org/handle/123456789/448
Lubas, Rebecca L.; Koskas, Mathilde et al. Common Practices for National Bibliographies in the Digital Age. IFLA, 2022, 109p.
https://repository.ifla.org/handle/123456789/2001
“National Bibliographic Register”. IFLA.
https://www.ifla.org/g/bibliography/national-bibliographic-register/
“全国書誌データ”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/data_service/jnb/index.html
“全国書誌データ検索”. NDLサーチ.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/bib
“全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)データ検索”. NDLサーチ.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/bib/jnb-ebej
“Persistent Identifiers (PIDs)”. PID Kompetenzzentrum.
https://projects.tib.eu/pid-service/en/persistent-identifiers/persistent-identifiers-pids/
“PCC NACO Funnel Projects”. Library of Congress.
https://www.loc.gov/aba/pcc/naco/nacofunnel.html
“令和5年度書誌調整連絡会議報告”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/basic_policy/bib_control/conference/2023_report.html
柴田洋子. フランスと日本の目録動向:書誌調整連絡会議<報告>. カレントアウェアネス-E. 2018, (343), E2005.
https://current.ndl.go.jp/e2005
村上一恵, 木村千枝. 2023年VIAF評議会会議<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (474), E2674.
https://current.ndl.go.jp/e2674
山口美季. 第88回IFLA年次大会目録分科会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (472), E2663.
https://current.ndl.go.jp/e2663