E2696 – フォーラム「東海地域の文化財保護体制を考える」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.479 2024.05.16

 

 E2696

フォーラム「東海地域の文化財保護体制を考える」<報告>

国立歴史民俗博物館・小野塚航一(おのづかこういち)

 

  2024年3月20日に、地域歴史文化大学フォーラム(以下「フォーラム」)がオンラインで開催された。フォーラムは、地域歴史資料の保全にかかわる大学や関係機関の取り組みを議論する場であり、大学共同利用機関法人人間文化研究機構ネットワーク型基幹研究プロジェクト「歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク事業」(前身事業を含め2017年度から続く。以下「ネットワーク事業」)が主催となり毎年開催している。

  今回のフォーラムでは「東海地域の文化財保護体制を考える」をテーマに掲げ、愛知、岐阜、静岡の各県で文化財の保存や防災に携わってきた関係者が、これまでの活動や課題について報告した。以下、各報告の概要を紹介する。

  愛知県からは、大塚英二氏(愛知県立大学名誉教授)より「東海歴史資料保全ネットワークの大学での活動」と題する報告が寄せられた。東海歴史資料保全ネットワークは、2019年に大学教員の有志によって発足した、東海地域の歴史資料の保存と継承を担うボランティア団体である。その代表委員も務める大塚氏は、文化財の重要性や資料レスキューの意義を学べるようになった愛知県立大学日本文化学部の授業カリキュラムの制定経緯や特徴を紹介した。そして、歴史文化や歴史資料に理解のある人材輩出こそが大学の役割であり、それが東海歴史資料保全ネットワークの活動基盤の強化や東海地域の文化財行政の拡充につながると論じた。また、愛知県の文化財保存活用大綱に記された「愛知県文化財防災ネットワーク」の設立構想にも触れ、そこでは研究室単位ではなく、大学単位での連携が肝要になると述べた。

  岐阜県からは、可児光生氏(美濃加茂市民ミュージアム)より「地域資料の保存と博物館協会:岐阜県博物館協会の事例」と題する報告が寄せられた。岐阜県博物館協会の下に組織される「もの部会」(E2678 参照)は、平時には資料保存にかかわる研修や調査研究を企画・実施し、災害時には加盟館の被災資料の搬出や修復を担当する。ただし、県内では地域資料の調査自体が進んでいない状況にあるため、博物館協会の「もの部会」を軸とした博物館同士の相互連携の強化と、大学や関係団体との協同による包括的な文化財保護の枠組みの構築が必要になると論じた。また、職場での取り組みをもとに、地域の博物館と住民との間で地域資料の価値を共有していくことが重要であると述べた。

  静岡県からは、木口亮氏(沼津市明治史料館)より「静岡県の文化財防災体制の経緯と現状」と題する報告が寄せられた。静岡県では、2012年発足の静岡県文化財等救済ネットワークが県内の文化財防災にかかわる連絡調整機関となっているものの、充分に機能していないことが問題視されており、新たな体制作りが求められているという。こうした状況を踏まえ、静岡県博物館協会では講習会等を通じて県内の文化財防災の問題を整理し、2023年からは全国の資料ネットの活動を参考に、「しずおか史料ネット」設立に向けた取り組みを開始したことが紹介された。今後の課題としては、県内各地で策定が進められている文化財保存活用地域計画における文化財防災の方針に目を配りつつ、必要となる活動をさらに検討していくことを挙げた。

  以上の報告の後、松下正和氏(神戸大学)から各報告者にコメントがあり、それに対する応答と参加者からの意見を得てフォーラムは閉会した。南海トラフ地震発生の切迫性が高まっている東海地域では、文化財防災のための連携や相互支援の方法を速やかに整備していく必要がある。この問題はネットワーク事業でも引き続き考えていきたい。

Ref:
“地域歴史文化大学フォーラム「東海地域の文化財保護体制を考える」”. 歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク事業.
https://pres-network.jp/post-022/
“歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク事業”. 大学共同利用機関法人人間文化研究機構.
https://www.nihu.jp/ja/research/rekishi
歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク事業.
https://pres-network.jp/
東海歴史資料保全ネットワーク.
https://tokaishiryonet.wixsite.com/website
岐阜県博物館協会.
https://www.gifu-museum.jp/
静岡県博物館協会.
https://www.shizuhaku.net/
“『地域歴史文化継承ガイドブック 付・全国資料ネット総覧』全文公開サイト”. 文学通信. 2022-03-01.
https://bungaku-report.com/pres-network.html
南本有紀. 図書館に学ぶ資料のデジタル化とデジタルアーカイブ<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (475), E2678.
https://current.ndl.go.jp/e2678