E2678 – 図書館に学ぶ資料のデジタル化とデジタルアーカイブ<報告>

カレントアウェアネス-E

No.475 2024.03.07

 

 E2678

図書館に学ぶ資料のデジタル化とデジタルアーカイブ<報告>

岐阜県博物館/岐阜県博物館協会・南本有紀(みなみもとゆき)

 

●はじめに

  最近、博物館では「デジタルアーカイブ」が話題である。2022年の改正博物館法で博物館事業の一つと明記され、喫緊の課題となっているためだ。

  2019年度の調査によると、ウェブサイト上で目録を公開している博物館は12%であった。また、別の2020年度の調査によると、博物館の72%は収蔵品をオンラインで公開しておらず、デジタルアーカイブの整備は24%に過ぎず、かつ半数が実施の予定はないとしていた。こうした現場に、改正博物館法は大きな衝撃を与えたのである。

  この状況を踏まえ、2024年1月17日、岐阜県博物館協会(県博協)もの部会では、デジタルアーカイブ研修「図書館に学ぶ資料のデジタル化とデジタルアーカイブ」を開催した。本稿ではこの研修について概報する。

●研修企画の経緯

  実は、改正博物館法関連の研修は各地で盛んに実施されている。しかし、管見ではほとんどが個々の事例紹介で、全体動向を把握する必要を感じていたところ、愛荘町立愛知川図書館(滋賀県)のイベント「読書のまち・愛荘町でMLAの未来を考える 新たなデジタルの時代と図書館」(E2635参照)に参加する機会を得た。同イベントでは、国立国会図書館(NDL)から同館電子図書館サービス、デジタルアーカイブの全国的な動向、各都道府県における情報交換会の実施計画が紹介された。それらは博物館でも共有されるべき情報であり、県内施設の情報交換も促進したいと考え、本研修を企画した。

  研修に先立って実施した登壇者等との事前打ち合わせでは、図書館・博物館・美術館のデジタルアーカイブ像の相違が浮き彫りになり、個別の事例報告を並べるだけでは現状や課題の把握はできないと鋭い指摘もあった。このため、講演・報告の前に本研修の趣旨説明を追加することにした。

●当日の様子

  申込者47人(図書館関係者23人、博物館関係者10人ほか)で、参加は当日受付の博物館関係者を加えて56人(対面24人、オンライン32人)であった。研修前半はNDLの講演と岐阜県図書館(県図)・県博協の事例報告2件、後半は情報交換会と質疑応答とし、事前質問5件、当日の質問票3件、チャットからの質問1件があった。

  本研修の趣旨説明の後、NDL関西館電子図書館課・岡本常将氏から、①デジタルアーカイブ構築に関する外部環境、②岐阜県内のデジタルアーカイブ事情概観、③国立国会図書館デジタルコレクション及びジャパンサーチ、④デジタルアーカイブの構築パターン及び他県の事例、⑤デジタルアーカイブ構築における論点について講演があった。

  岡本氏は、図書館におけるデジタル化とは保存と利用の両立が目的で、必ずしもデジタル化=インターネット公開ではないことを説明した。その上で、まずは自館のみが所蔵する地域資料を保存のためにデジタル化し、館内利用に供することから開始してはという提案があった。また、市町村の図書館のデジタルアーカイブは地域資料をデジタル化したPDFを図書館のウェブサイトに掲載することがスタートとなると考えられるが、博物館の場合は目録のデジタル化をスタートラインとすべきかどうかも含め、博物館のデジタルアーカイブのスタートとゴールは明示しにくいとした。インターネット上の展覧会のようなストーリー性があるコンテンツは活用されやすく、博物館におけるデジタルアーカイブのあり方の一つとなり得るのではないかと述べた。

  続いて、県図サービス課・綛井淳子氏が「岐阜県図書館のデジタル化関連事業について」、県博協からは「博物館資料とデジタルアーカイブ、デジタル化」と題して、羽島市不二竹鼻町屋ギャラリー・土居万莉奈氏、美濃加茂市民ミュージアム・藤村俊氏が事例報告を行った。

  綛井氏からは、図書館資料は利用が前提であり、目録はその便のために作成されること、岐阜県図書館ではデジタルアーカイブ公開によって資料の活用が誘発された事例が紹介された。インターネット公開によって資料の存在が周知され、原本を見るために足を運ぶ好循環が生まれたと考えられる。

  土居・藤村両氏は、県博協事前アンケート調査によって判明した県内博物館のデジタルアーカイブ整備・公開状況を示した。それによると整備が進まない反面、オンラインプログラム「おうちミュージアム」について2020年以降報告が相次ぐ等、博物館のオンライン公開状況が振り返りの時期を迎えて、3Dデータやウェブミュージアム等新たな試みも見られる現状が総括された。筆者は、多くの博物館で公開・活用の方針が曖昧であることは重要な指摘であると考える。資料の利用を前提とする図書館・文書館では利用審査等の仕組みが確立しており、博物館は図書館から学ぶべきであろう。

●おわりに

  参加者アンケートの結果は、「よかった」56%と「まあよかった」24%で合わせて8割となった。自由記述欄への記述が多く、例えば「博物館と図書館で資料やデジタルアーカイブの捉え方に差異があることが分かった」「デジタルアーカイブの事例が整理されてわかりやすかった」という感想が寄せられ、一定の成果は上げられたと考えている。

  最後に、筆者の所感を述べて筆をおくこととする。想定はしていたが、博物館側の図書館やデジタルアーカイブへの理解未だしの感を強くした。逆もまた然りと想像する。改正博物館法を機に、博物館と図書館の情報共有・連携が一層進むことを期待したい。

Ref:
“岐阜県博物館協会もの部会・デジタルアーカイブ研修「図書館に学ぶ資料のデジタル化とデジタルアーカイブ」”. 岐阜県博物館.
https://www.gifu-kenpaku.jp/event/0117/
日本博物館協会.令和元年度日本の博物館総合調査報告書. 2020, 11, 294, 51p.
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/R2sougoutyousa.pdf
みずほ総合研究所株式会社. 令和2年度「博物館ネットワークによる未来へのレガシー継承・発信事業」における「博物館の機能強化に関する調査」事業実績報告書. 2021, 133p.
https://www.mizuho-rt.co.jp/case/research/pdf/museum2020_01.pdf
“博物館に関する研修”. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/kenshu/
“2022年度 岐阜県博物館協会 全体研修会”. 岐阜県博物館協会.
https://www.gifu-museum.jp/archives/assoinfo/assoinfo-2050
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大関みのり. コロナ禍における「おうちミュージアム」の取り組み. 切手の博物館研究紀要. 2020, p. 134-136.