E2677 – 博物館DXと地域文化遺産シンポジウム石川2023<報告>

カレントアウェアネス-E

No.475 2024.03.07

 

 E2677

博物館DXと地域文化遺産シンポジウム石川2023<報告>

金沢大学資料館・松永篤知(まつながあつし)

 

  2023年12月17日、金沢大学資料館は、文化庁の令和5年度Innovate MUSEUM事業の一環で、「博物館DXと地域文化遺産シンポジウム石川2023」をハイブリッド形式で開催した。博物館DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、博物館資料や博物館業務のデジタル化による改革を指す。本シンポジウムは、石川県における博物館DXの試みとして構築した「石川デジタルミュージアムネットワーク」(IDMN)の公開を記念して開催された。対面114人、オンライン60人の参加があった。本稿では、その内容を紹介する。

  山岸雅子(金沢大学理事・副学長)からの開会挨拶の後、博物館DXに関する取組を紹介する五つの講演と、討論会が行われた。講演1から3の座長は筆者が、講演4と5の座長は吉永匡史(金沢大学資料館研究・調査部門長)が務めた。

●講演1「博物館DXと地域文化遺産-東京大学総合研究博物館の場合」

  西秋良宏氏(東京大学総合研究博物館長、大学博物館等協議会長)が、東京大学総合研究博物館における研究事例を紹介した。博物館DXに関する取組として、収蔵標本約46万点(2023年3月現在)の画像付きデータを公開しているデジタルアーカイブ「University Museum Database」(UMDB)を挙げた。また、地域文化遺産の活用に関する取組として、収蔵標本を館外に持ち出し市中に博物館空間を作る展示「モバイルミュージアム」を紹介した。これらは、博物館変革の時代における大学博物館のあるべき姿を考える材料として提示された。

●講演2「石川県西田幾多郎記念哲学館の取り組み」

  山名田沙智子氏(石川県西田幾多郎記念哲学館専門員)が、西田幾多郎記念哲学館におけるデジタルアーカイブ事業について紹介した。2015年に西田幾多郎の未公開ノート類が発見された。その修復・翻刻作業を経て、「西田幾多郎ノート類デジタルアーカイブ」として公開するまでのプロセスを詳述し、学術利用の成果と今後の課題について示した。

●講演3「野々市デジタル資料館の取り組み」

  腰地孝大氏(野々市市教育委員会生涯学習課主事)が、石川県内におけるデジタルミュージアムとして先駆的な事例である「野々市デジタル資料館」について、経緯や取組を紹介した。同ウェブサイトでは、重要文化財の石川県御経塚遺跡出土品をはじめ、野々市市内の様々な文化財を検索・閲覧できる。デジタル技術の急速な変化の中で、今後取り組むべき課題を指摘した。

●講演4「地域資料の早期公開に資する「逐次公開」型運用モデルの確立:奥州市での実践例」

  髙田良宏准教授(金沢大学学術メディア創成センター)が、オープンサイエンスの実践例として、地域資料の「逐次公開」型運用モデルについて紹介した。この運用モデルは、地域資料を調査途上の早期段階で公開し、その後の状況によって逐次充実させていくものである。運用モデルの実証のために、岩手県奥州市の地域資料を対象として整理作業の段階ごとにデジタル化を実施し、情報公開をした事例(「学校資料アーカイブ」など)を報告した。

●講演5「石川デジタルミュージアムネットワークの取り組み」

  筆者が、文化庁の令和5年度Innovate MUSEUM事業で構築したIDMNについて、その概要、構築方法、内容を紹介した。IDMNは、石川県内の地域博物館6館の代表的な所蔵資料を気軽に横断検索・閲覧できるウェブサイトであり、より効率の良い観光文化資源の利活用を実現することを目的としている。その構築および公開の意義を強調した。

●討論会「博物館DXと地域文化遺産」

  コーディネーターとして足立拓朗(金沢大学資料館館長)が、パネリストとして筆者を除く講演会講師と、竹上勉氏(石川県自然史資料館館長)、川畑誠氏(公益財団法人石川県埋蔵文化財センター所長)、中野知幸氏(羽咋市歴史民俗資料館学芸員)、佐無田光教授(金沢大学融合学域観光デザイン学類長)が登壇した。全国的に博物館DXが推進される中でのデジタル化(3Dデータ・動画含む)の活用と意義について各パネリストが意見を述べた。デジタル化された地域文化遺産を観光につなげるためには、デジタル公開されている資料を実際に見に行きたいと思うような、博物館横断的な学びの物語性(ストーリー)を演出することなどが必要であると論じられた。さらに、デジタルデータの活用や保存などについて、参加者からも積極的に質問が挙がり、非常に実りのある討論会となった。

  最後に、中村慎一(金沢大学理事・副学長)から挨拶があり、シンポジウムは閉会した。

  2023年4月1日に施行された改正博物館法には、博物館の事業として資料のデジタルアーカイブ化(電磁的記録の作成・公開)が追加され、他の博物館や地域の多様な主体との連携・協力による文化観光など、地域の活力の向上への寄与が努力義務化されている。博物館DXだけでなく、博物館連携による地域文化遺産の観光への利活用も進めていかなくてはならない。そのような中で、博物館DXと地域文化遺産をテーマとしたシンポジウムを開催したことには、大学博物館として大きな意味があったと言えよう。

  シンポジウムの資料集は、金沢大学学術情報リポジトリKURAで公開されているので、参照されたい。

Ref:
“博物館DXと地域文化遺産シンポジウム開催!(シンポジウムは終了しました)”. 金沢大学資料館. 2023-11-29.
https://museum.w3.kanazawa-u.ac.jp/news/4843/
“博物館DXと地域文化遺産シンポジウム石川2023の資料集をアップ!”. 金沢大学資料館. 2023-12-28.
https://museum.w3.kanazawa-u.ac.jp/news/4949/
東京大学総合研究博物館データベース.
https://www.um.u-tokyo.ac.jp/web_museum/database.html
西田幾多郎ノート類デジタルアーカイブ.
https://websites2.jmapps.ne.jp/nishidanote/
野々市デジタル資料館.
http://digitalmuseum.city.nonoichi.lg.jp/
“学校資料アーカイブ”. AMANE Archives.
https://ourarchives.amane-project.jp/gakko
石川デジタルミュージアムネットワーク.
https://idmn.w3.kanazawa-u.ac.jp/