カレントアウェアネス-E
No.466 2023.10.19
E2639
デジタルアーカイブフェス2023<報告>
内閣府知的財産戦略推進事務局・高津利浩(たかつとしひろ)
2023年8月25日、国立国会図書館(NDL)と内閣府知的財産戦略推進事務局の共催により、「デジタルアーカイブフェス2023~デジタルアーカイブで地域の価値を再発見する~」を開催した。今回は「地域」に焦点を当て、地域アーカイブの先進的な取組事例の共有や、デジタルアーカイブ活動の好事例の顕彰等を行った。
第1部では、「地域アーカイブの可能性―地域価値の再発見と活用―」をテーマに、先進的に地域のアーカイブ活動に取り組んでいる自治体の担当者とモデレーターの柴野京子氏(上智大学教授)によるパネルディスカッションを行った。
岐阜市の「みんなの森 ぎふメディアコスモス」(E2573参照)では、「本と情報がひととまちつなぐ」をコンセプトに、域内のコミュニティを創出し、文化交流や地域学習に取り組んでいる。同施設の中に、地域に存在するデジタルアーカイブを活用して地域文化を可視化し、ひと・情報を集積する拠点としてシビックプライドプレイスを開設し、市民協働で同施設のシビックプライドセンター化を目指している。
大分市の「大分市デジタルアーカイブ~おおいたの記憶~」では、資料館等の収蔵品のほか、伝統芸能や行事、自然や町並みも含めた地域の文化資源を、デジタル技術を用いて次世代へ継承するとともに、様々な分野で利活用することで、産業振興や地域活性化に取り組んでいる。
日置市(鹿児島県)の「ネオ日置計画」は、コロナ禍対策として始動した関係人口創出事業「ひおきとプロジェクト」の派生プロジェクトである。メタバース上に「ネオ日置」(バーチャル日置市)を創造し、行政だけでなく市民DIYで、デジタルアーカイブを活用した名所空間を構築している。その仮想空間内での市民交流等を通して同市の魅力を発信している。
討論を通して、モデレーターの柴野氏から、デジタル化の推進が地域のリアルを立ち上げる契機となること、地域やそこに関わっている人々の日常の経験を再構築することがアーカイブの本質であること、アーカイブ活動は様々なリソースをシェアすることが大切であること、そして、構築したアーカイブをいかに日常に落とし込むかが課題の一つであることが示唆された。
続いて、デジタルアーカイブの拡充や利活用に積極的に取り組んでいる機関・団体・個人の活動を広く社会に紹介する「デジタルアーカイブジャパン・アワード2023」の表彰式を行い、各分野から6機関が表彰された。
第2部では、ジャパンサーチの概要と連携方法についての説明の後、域内連携・分野連携等に積極的に取り組んでいる五つの機関から、事業の概要やジャパンサーチの活用事例について発表があった。
上田市(長野県)の「上田市デジタルアーカイブ」は、同市の様々な文化施設や市民から収集した貴重な地域の記録を、ジャパンサーチを活用することで、独自にポータルサイトを構築しなくても、一元的に検索・閲覧・活用できるようにしている。
縄文遺跡群世界遺産本部の「JOMON ARCHIVES」は、複数の自治体にまたがる世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」の情報を一元的に保存し、特色あるコンテンツを整理・発信している。
神戸大学附属図書館デジタルアーカイブの「新聞記事文庫」は、1911(明治44)年から1970(昭和45)年までの新聞記事を体系的に切り抜いた推計50万記事に上る貴重な資料のデジタル化と公開に取り組んでいる。
栃木県の「とちぎデジタルミュージアム SHUGYOKU」は、文化財・文化資源の一元的な情報発信により、文化観光来訪者を県内周遊ルートに誘導する取組を進めている。
福岡市の「福岡市デジタルアーカイブ」は、同市文化財活用課がつなぎ役となり、市内の博物館、美術館、図書館等の文化施設とジャパンサーチとの連携準備を進めている。連携実務を通してメリットや苦労を体験した中で、網羅的な公開・検索・閲覧・活用、ウェブ上での展覧会、利便性の向上、利用者の拡大、資料公開の促進に期待をしている。
第3部では、民間団体におけるデジタルアーカイブの地域振興活用事例が報告された。
一般社団法人アニメツーリズム協会は、アニメ聖地巡礼事業「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」を活動の柱としている。その中で、「アニメ」「マンガ」というデジタルアーカイブを地域振興に活用した岐阜県多治見市の事例が紹介された。同市では、地域活性化を目的に、伝統産業として盛んな陶芸に打ち込む女子高生のマンガを制作し、それが地元企業の協力によりテレビアニメ化が実現。そのアニメ素材を使いつつ、同市の実写素材も加えたPR動画を作成し、地域の情報発信に活用している。
また、近年、美術品としての価値も注目されているマンガ原画の保存・デジタル化・利活用の取組事例として、秋田県横手市の増田まんが美術館が紹介された。2013年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された蔵の町である増田町で、漫画原画を保存し、そのデジタルアーカイブを公開・活用することがシビックプライドにもつながっていくという報告があった。
ANA NEO株式会社からは、メタバースにおける地域アーカイブの活用と地域創生の取組事例として、バーチャルトラベルプラットフォーム「ANA GranWhale」事業から、バーチャル旅行体験サービス「V-TRIP」が紹介された。メタバース空間を3Dグラフィックではなく、現地の放送局等が保有する映像アーカイブ等も活用しながら、実写データで生成しており、よりリアルに近い空間を再現していることが大きな特徴である。バーチャルな旅体験を基軸にリアルな旅行につなげることを目指している。
同社はまた、各自治体と協力しながら、世界遺産や歴史建造物、自然環境等もリアルに近い空間で生成し、文化遺産の継承と利活用にも注力している。さらには、各地の金融機関とのパートナーシップにより、ビジネスマッチングを行うなど、地方創生にも取り組んでいる。
本イベント全体を通して、日本各地に存在する様々なアーカイブをデジタル化し、他のアーカイブと結びつけ、横断的な利活用を可能にすることで、より多くの新たな価値の創出が可能となることが、実感されたのではないだろうか。今回のプログラムが、国内のデジタルアーカイブの拡充、相互連携、利活用促進の一助になることを願っている。
Ref:
“デジタルアーカイブフェス2023~デジタルアーカイブで地域の価値を再発見する~”. 首相官邸.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/forum/index.html
“デジタルアーカイブジャパン・アワード(DAJアワード)2023”. ジャパンサーチ.
https://jpsearch.go.jp/daj-award-2023
みんなの森 ぎふメディアコスモス.
https://g-mediacosmos.jp/
大分市デジタルアーカイブ~おおいたの記憶~.
https://www.city.oita.oita.jp/o204/degitalarchive.html
ネオ日置.
https://neohioki.hiokito.jp/
上田市デジタルアーカイブ横断検索.
https://jpsearch.go.jp/organization/UedaUMIC
JOMON ARCHIVES.
https://jomon-japan.jp/archives#/
“新聞記事文庫”. 神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ.
https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/np/
とちぎデジタルミュージアム SHUGYOKU(珠玉).
https://www.digitalmuseum.pref.tochigi.lg.jp/
“訪れてみたい日本のアニメ聖地88 2023年版 発表”. アニメツーリズム協会.
https://animetourism88.com/ja/enquete-2
横手市増田まんが美術館.
https://manga-museum.com/
ANA GranWhale.
https://www.ana-granwhale.com/
吉成信夫. ぎふメディアコスモスは屋根のついた公園である. カレントアウェアネス-E. 2023, (451), E2573.
https://current.ndl.go.jp/e2573
高津利浩. デジタルアーカイブフェス2022-ジャパンサーチ・デイ<報告>, カレントアウェアネス-E. 2022, (445), E2547.
https://current.ndl.go.jp/e2547