カレントアウェアネス-E
No.493 2024.12.19
E2757
「とちぎデジタルミュージアム“SHUGYOKU”(珠玉)」の役割
栃木県生活文化スポーツ部文化振興課・和久征夫(わくゆきお)
「とちぎデジタルミュージアム“SHUGYOKU”(珠玉)」(以下“SHUGYOKU”)は、県立博物館・美術館、日光二社一寺(二荒山神社・東照宮・輪王寺)をはじめ、市町村・民間所有問わず県内一円の代表的な文化資源の情報・画像を一元的に管理・発信するウェブサイトである。文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律(以下「文化観光推進法」)に基づき、2022年度に国の認定を受けた「栃木県立博物館文化観光拠点計画」(以下「拠点計画」)の核となるものである。2023年3月の開設から約1年半と歴史は浅いものの、その目的や取組が評価され、2024年8月にデジタルアーカイブジャパン・アワード2024を受賞した。本稿では“SHUGYOKU”開設の経緯と概要、今後の展望について紹介する。
●事業立案の背景・目的
栃木県(以下「県」)には、世界遺産「日光の社寺」をはじめ、貴重な文化資源が多数所在しているが、一部を除いてその認知度は低く、また、知名度が高い文化資源であってもそれぞれが県内各地に点在し、各施設のウェブサイト等でしか情報発信が行われていないことから、誘客効果が限定的なものも多い。
そこで、所有者・分野を問わず県内の主要文化資源の情報を県が一元的に管理する「とちぎ文化芸術デジタルアーカイブシステム」(以下「アーカイブシステム」)を開発するとともに、その一部に分かりやすい解説・高精細画像を付して発信するウェブサイトとして“SHUGYOKU”を開設した。また、デジタルデータの作成(5,000万~1億画素による高精細撮影)にあたっては、所有者の費用負担なくデータを収集できる体制を整え、並行して、無形民俗文化財等の記録保存も実施している。
“SHUGYOKU”を通して、県を代表する文化資源を一元的に発信することにより、認知度向上や誘客の面でシナジー効果を発生させることが可能となった。なお、当事業は、拠点計画に基づき、国庫補助を得ながら進めている。
●システム構成
アーカイブシステムは県立博物館・美術館のデータベースを兼ねる構成とし、アーカイブシステム内に博物館DB、美術館DB、本庁管理DBを併存させている。“SHUGYOKU”は本庁管理DBの公開機能を活用したものであり、博物館DBと美術館DBから一部データの提供を受けている。
●文化観光を意識した取組
“SHUGYOKU”は、博物館法改正や文化観光推進法の趣旨を踏まえ、単なるデータベースの一部情報公開にとどまることなく、県民・インバウンドを含む観光客を意識したものとしている。
まず、一点目は、“SHUGYOKU”を初めて見る方がアクセスした際、画像や解説がないページを閲覧してしまうとリピーターになりにくいと考え、画像・解説が付されていないものは、貴重な文化資源であっても公開していない。また、“SHUGYOKU”に触れることにより、文化資源の存在や魅力を認識し、実際に現地に足を運ぶきっかけとなることも目的であることから、文化資源の公開に関する情報(公開時期等)は、適宜更新している。
二点目は、無形民俗文化財等の記録映像については、一般公開用のダイジェスト版をYouTubeと連動して公開し、あわせて、「日光の自然」「日光道中~聖地日光への道~」といった、特定のテーマに沿った映像を制作・公開している。これらは、学芸員による詳細な解説と、ドローン等を駆使した美麗な映像を鑑賞できるものとなっている。
三点目は、本県出身の著名声優である緑川光氏、古川登志夫氏等による県立博物館・美術館等の作品についての音声ガイドを作成・公開しており、一部コンテンツについては、栃木弁を選択することもできる。スマートフォン等からQRコードを読み込んでアクセスするスタイルで、汎用ブラウザで利用可能なものとしており、これまで博物館等を訪れたことのない新たな客層の開拓、来館者等の満足度向上を図るコンテンツである。実際、来館者アンケートやSNS等のコメントでも好評であり、アクセス分析からも効果が確認できている。
四点目は、インバウンドを意識し、ウェブサイトの多言語化(英語)に取り組んでおり、“SHUGYOKU”に掲載している文化資源のうち既に約500点の英訳した解説文を公開するとともに、記録映像等にも英語字幕を付している。
●今後の展開
高精細画像により、展示会において実物を肉眼で閲覧するよりも細かな点まではっきりと視認できることから、企画展のチラシや図録に“SHUGYOKU”のQRコードが掲載される等、活用の幅が広がりつつある。
2024年度中には、キュレーションサイトを公開するとともに、“SHUGYOKU”上で文化資源の3Dデータが閲覧できるよう、システム改修を行う予定であり、引き続き魅力的なコンテンツを増やすことにより、閲覧者数の増加や満足度向上を図りながら、県内各地に足を運んでいただくきっかけとなるよう、取組を進めていく。
Ref:
とちぎデジタルミュージアム“SHUGYOKU”(珠玉).
https://www.digitalmuseum.pref.tochigi.lg.jp/
栃木県立博物館文化観光拠点計画. 51p.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/pdf/93759901_02.pdf
“デジタルアーカイブジャパン・アワード(DAJアワード)2024”. JAPAN SEARCH.
https://jpsearch.go.jp/daj-award-2024
“栃木県”. JAPAN SEARCH.
https://jpsearch.go.jp/organization/TDMSHUGYOKU
“栃木県立博物館 音声ガイド”. 栃木県立博物館.
https://www.digitalmuseum.pref.tochigi.lg.jp/exh1/
“栃木県立美術館 所蔵作品紹介”. 栃木県立美術館.
https://www.digitalmuseum.pref.tochigi.lg.jp/exh2/
“とちぎデジタルミュージアム“SHUGYOKU””. YouTube.
https://www.youtube.com/@SHUGYOKU-kj8hc