E2631 – フランス人の読書文化と余暇:読書習慣に関する調査から

カレントアウェアネス-E

No.465 2023.10.05

 

 E2631

フランス人の読書文化と余暇:読書習慣に関する調査から

宮城学院女子大学一般教育部・間瀬幸江(ませゆきえ)

 

  2023年4月12日、フランス国立書籍センター(CNL)は、2023年版の「フランス人の読書習慣に関する調査」(Les Français et la lecture)の結果を発表した。この調査は、フランス人の本や読書に関する習慣や認識を把握し、活字離れにテコ入れすることを目的として、2015年以降2年ごとに、15歳以上の人口を代表する約1,000人を対象に、電話インタビューで実施されている。報告書は大きく「フランス人は本を読んでいるか」「どのように読んでいるか」「何を読んでいるか」「新刊・古書、買う・借りる」「読まないのはなぜか」「読もうと思う理由」の6つのテーマに区分されており、さらに世代別、ジェンダー別などに占める割合が算出されている。以下にその概要を紹介する。

●読書文化全般―フランス人は「読む」人々―

  本を読んでいると申告した人は全体の86%で、前回調査時の2021年に比べて5ポイント上昇し、コロナ禍以前の水準に戻った。過去1年以内に実際に1冊以上読んだ人(以下「読書人口」)は89%であった。紙媒体と電子書籍を合わせた読書冊数平均は22冊に及んでいる。また、電子書籍を読んだ人は15歳から24歳までの若年層では52%、65歳以上のシニア層では13%と、電子書籍利用の状況・普及率には世代間でばらつきがある。若年層の読書習慣には、電子書籍の普及が関係しているといえる。また、新たな読書スタイルとしての「聴く読書」を30%がすでに経験していることや、幼少時の読書体験の重要性を認める人が61%と、フランス人は総じて、「読む文化」に肯定的である。

●どのように、何を読んでいるか

  読書の目的は「まず楽しみとして」と答えたのが読書人口の79%である。また、自覚的に時間を取って読む人は68%(内訳は「寝る前」や「バカンス中」など)で、フランス人は読むことを余暇や趣味として楽しんでいることがわかる。また、読む場所としては自宅が97%と最も多いが、自宅以外も81%に上り、コロナ禍を経て特に若年層で場所が多様化傾向にある(学校、図書館、喫茶店など)。ジャンルは生活文化などの実用書が多く、バンド・デシネ(フランス風のコマ割りマンガ)は世代を超えて好まれている。なお、男性やシニア層は歴史ものを、女性は実用書が多いなど、世代・ジェンダー間で有意差が認められる。日本風のマンガが若年層の約半数に読まれるなど強く支持されているのが目を引く。

●新刊・古書、買う・借りる

  電子書籍が特に若年層の支持を得る一方、49歳までの比較的若い層全般で、紙媒体の本の購入率は新刊・古書ともに高い水準にある。新刊本を自分のために買った人は読書人口全体の81%で、古書は40%であった。さらに、本の借用や贈答があったと答えたのは読書人口の82%で過去最高となった。読書文化の推進力としての購買意欲は複合的であり、本の入手経路とその主体性のあり方は多様である。なお、インターネット通販使用率は書籍購入者の49%と2021年比で10ポイント増となった。いずれにしても、本は借りるより買いたい志向が強く、読書人口の73%が図書館は利用しなかったと回答した。

●読書文化の好敵手:モニタ文化とスポーツ

  国民性全般として読書文化には肯定的でありながらも、スマホやPCなどモニタ画面を見て過ごす時間は一日平均3時間14分、読書に費やす時間は41分(電子書籍を読む時間を含む)と、モニタ文化はもはや読書文化を圧倒している。この傾向は若年層にさらに顕著となる。また、時間があったら一番やりたいことはスポーツで、読書は4位(2位は友人と出かけること、3位が文化施設に行くこと)にとどまっている。こうした要因があってなお、本をもっと読みたいと思っていると回答した人は全体の68%でかつ増加傾向にあることは特筆すべきであろう。読むことはよいことである、メリットがあると93%の人々が考えている。読むこともスポーツも好きだという国民性をうかがい知るのに、インドア・アウトドア、文化系・スポーツ系というカテゴリ分けはまったく意味をなさないと感じた。また、25歳を境に、勉強としての読書から自律的な楽しみとしての読書へと、読書の意義の重心が移っているのも興味深い。

●最後に

  読書人口が減少傾向にあった2021年に比して、2023年は、コロナ禍以前の2019年の数字への戻りが認められる一方、電子書籍の普及やSNSでの本のレビュー、インフルエンサーによる本の推薦など、選書や読書習慣に関する情報の間口が広がり、フランスの読書文化は変容の過程にある。読むことが単に自分のために紙の本を店で買って読むということだけではなくなった今日、読書文化を多角的にとらえ直すこのアンケートの視座のとりかたは、「活字離れ」をひと括りにせずに、本と人との関わりの個別性・多面性を丁寧に問題提起していて刺激的である。

Ref:
“Baromètre “Les Français et la lecture” | 2023”. CNL. 2023-04-11.
https://centrenationaldulivre.fr/actualites/barometre-les-francais-et-la-lecture-2023
間瀬幸江. 「本」は心の食べ物であり,生活必需品である:コロナ禍が可視化したフランスの読書文化の自律性. キリスト教文化研究所研究年報 : 民族と宗教. 2022, 55, p. 55-76.
https://www.mgu.ac.jp/miyagaku_cms/wp-content/uploads/2022/04/55-i.pdf