E2547 – デジタルアーカイブフェス2022-ジャパンサーチ・デイ<報告>

カレントアウェアネス-E

No.445 2022.10.13

 

 E2547

デジタルアーカイブフェス2022-ジャパンサーチ・デイ<報告>

内閣府知的財産戦略推進事務局・高津利浩(たかつとしひろ)

 

  2022年8月25日,国立国会図書館(NDL)と内閣府知的財産戦略推進事務局の共催により,デジタルアーカイブ産学官フォーラム(第6回)を「デジタルアーカイブフェス2022-ジャパンサーチ・デイ」として,リニューアル開催した。「『デジタルアーカイブを日常にする』アーカイブ機関の新たな活動の展開」をテーマに,基調講演をはじめ各機関の先進事例の共有や好事例の顕彰など,もりだくさんの内容となり,また,オンライン開催の効果も相重なって,全国各地から約700人の参加があった。

  第1部では,歴史家の国際日本文化研究センター・磯田道史教授より,「アナログ歴史家とデジタルアーカイブの出会い-ジャパンサーチへの期待」と題して,災害,識字率,忍者の研究事例から,アナログな調査活動とデジタル化された情報が結びつくことの威力,知の交流・交換や融通が,社会の発展・国の発展の原動力となるという興味深い講演がなされた。

  続いて,内閣府より国のデジタルアーカイブ政策についての案内の後,2022年から新たに創設された「デジタルアーカイブジャパン・アワード」の表彰式を行った。当アワードは,デジタルアーカイブの拡充や利活用に積極的に取り組んでいる機関・団体・個人を顕彰し,その活動を広く社会に紹介することで,デジタルアーカイブが日常に溶け込んだ豊かな創造的社会の実現を目指して創設されたもの。2022年度は,各分野から6機関1個人が表彰された。

  第2部では,「ジャパンサーチ戦略方針」の実行計画である「ジャパンサーチ・アクションプラン」について,この1年の動きを交えてNDLより報告を行った。続けて,ジャパンサーチ(E2176E2317参照)の概要と連携方法についての説明の後,実際にジャパンサーチと連携したアーカイブ機関から,連携のメリットやジャパンサーチの活用事例について発表をいただいた。

  第3部では,「産業界におけるデジタルアーカイブ活動の活性化と利活用の拡大に向けて」というテーマで,民間企業のデジタルアーカイブ活動について,異業種の3社から発表をいただいた。参加者アンケートからも関心の高さが感じられたところ,それぞれの取組について報告をしたい。

●デジタルアーカイブでつながる建築資料:企業アーカイブと公的アーカイブの連携の可能性と課題(清水建設株式会社)

  講師の松本隆史主任研究員は,九州大学協力研究員の肩書も併せ持つ。その立場から,産(清水建設等の建築資料アーカイブ)と学(同大学文書館アーカイブ)のアーカイブ連携の事例として,同大学の歴史的建造物にある鳥型装飾等の特徴的な建築装飾の来歴調査の紹介があった。そのうえで,清水建設のアーカイブに関係する3つの活動(コーポレートアーカイブ・建築史研究・デジタル施工)の概要と課題に触れつつ,公的アーカイブと民間アーカイブのデジタル連携によって収蔵品の関係性等から双方のコンテンツの価値が上がることへの期待,ボーンデジタルで作られる産業データのアーカイブ化の必要性,デジタル技術の活用により情報利用の効率化が進むことの社会的意義について論及がなされた。

●漫画原画のデジタルアーカイブ化による文化の保存とビジネス活用(株式会社集英社)

  集英社は,漫画作品が持つアートとしての可能性に着目し,長期保存を前提としていない劣化の激しい漫画原画を,デジタル技術により作画当時のクオリティでデジタル化。そのデジタルデータを「集英社マンガアートヘリテージ」(越境ECサイト)に展開して事業化している。当事業は,デジタルアーカイブとアートプリントを結び付け,「アート品質のプリントの提供」「ブロックチェーンに連携した販売証明書の発行」「公的機関と連携した漫画原画の保存についての研究」の3つの約束を掲げている。今後も当事業を拡大し,日本の伝統工芸技術と新しいデジタル技術の融合を推し進め,文化としての漫画原画を後世に伝えつつ,日本のアートマーケットの拡大を目指している。

●文化財VR・デジタルアーカイブとその活用について(凸版印刷株式会社)

  凸版印刷は,事業で蓄積してきた高精細な画像加工技術を含めた印刷テクノロジーを生かして,文化財VRを核とした事業を展開している。例えば,非接触で3次元データを取得する技術を使って,鑑賞が難しい対象(国宝及びその空間等)や簡単には訪れることができない場所(世界遺産の立入禁止エリア等),また現存していない文化財(江戸城天守等)も資料や図面から,デジタルアーカイブ化。さらに付加価値をつけてコンテンツ化し,文化財VRとして,セミナーやバーチャルツアー等を開催し収益化している。これらの活動を通して,文化財の「保存・資源化・公開」サイクルの構築という文化財保護の正循環を目指している。

  本イベントでは,上記ウェビナーの他にも,ジャパンサーチ上において,共同でギャラリーを制作する体験型ワークショップを開催。多くのユニークなギャラリーが作成された。

  最後に,以上のプログラムが,全ての関係者のアーカイブ活動のヒントとなり,デジタルアーカイブの構築・拡充,相互連携,利活用がより一層促進されることを切に願う。

Ref:
“デジタルアーカイブフェス2022-ジャパンサーチ・デイ-”. 首相官邸.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/forum/index.html
ジャパンサーチ.
https://jpsearch.go.jp/
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室. 国の分野横断統合ポータル ジャパンサーチ試験版公開後の動向. カレントアウェアネス-E. 2019, (376), E2176.
https://current.ndl.go.jp/e2176
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室. ジャパンサーチ正式版の機能紹介. カレントアウェアネス-E. 2020, (401), E2317.
https://current.ndl.go.jp/e2317
中西智範. 第4回デジタルアーカイブ産学官フォーラム<報告>. カレントアウェアネス-E. 2020, (401), E2318.
https://current.ndl.go.jp/e2318