E2318 – 第4回デジタルアーカイブ産学官フォーラム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.401 2020.10.29

 

 E2318

第4回デジタルアーカイブ産学官フォーラム<報告>

早稲田大学坪内博士記念演劇博物館・中西智範(なかにしとものり)

 

   2020年9月10日,内閣府知的財産戦略推進事務局と国立国会図書館(NDL)の主催により「デジタルアーカイブ産学官フォーラム(第4回) ジャパンサーチの挑戦 ~ポストコロナ社会とデジタルアーカイブ~」が開催された。ジャパンサーチの正式版(以下「JPS」;E2317参照)が,2020年8月25日に公開されたことを受けてのイベント開催である。コロナ禍の影響をうけ,オンライン形式で開催されたが,国内外600人を超える参加となり,JPSへの関心の高さがうかがえる。

   本イベントは,平将明氏(内閣府副大臣(当時))および高野明彦氏(国立情報学研究所)両名の挨拶に続き,2部構成でイベントが進められた。

●第1部 ジャパンサーチ正式版の紹介

   田渕エルガ氏(内閣府知的財産戦略推進事務局)は「知的財産推進計画2020」が求めるデジタルアーカイブ社会の実現に向け,JPSの果たす役割や,様々な分野でのデジタルコンテンツの利活用へ繋げる期待等を説明した。JPSが単に検索ツールとしての利用だけでなく,コンテンツ・クリエーション・エコシステムの中核として機能し,日本の知的財産戦略の一環として位置づけられるということが強調された。

   続く向井紀子氏(NDL)は,JPSの機能を「探す」「楽しむ」「活かす」の観点で分類し,それぞれの特徴を説明した。文化資産は教育や学術・研究,観光・地域活性化等の様々な分野での利活用が期待されるため,正式版では「活かす」部分での特徴的な機能が多く加わっていることが注目できる。

●第2部 パネルディスカッション

   モデレータの吉見俊哉氏(東京大学大学院情報学環)は,デジタルアーカイブが果たす役割や期待,JPSの意義や役割について議論したいと,パネルディスカッションの主旨を述べた。これに続き,JPSを利用する立場として登壇した4人のパネリストは,JPSとの関わり等について,専門分野に照らしたエピソード等を語った。以下はその要約である。

   テッサ・モリス=スズキ氏(オーストラリア国立大学)は,JPSを利用して文献を調べる過程で,例えば公文書館から博物館へとシームレスに移動しながら利用できることのメリットを感じた体験を述べ,新機能「ワークスペース」は,研究者の国際連携に対して新たな発展の可能性を持つと語った。

   真喜屋力氏(沖縄アーカイブ研究所)は,沖縄に残る8mmフィルムのアーカイブ活動の成果とJPSを連携させることにより,地域連携による情報交換の場として機能することが期待でき,新機能「プロジェクト」は,オーファンワークス(CA1873参照)の調査用ツールとして活用できる可能性を持つと語った。

   チェン・ドミニク氏(NPO法人コモンスフィア)は,JPSが提供するAPIを用いて,新しいアプリケーションの開発が可能な状態であることは特に評価できると述べた。その上で,ライセンス表記等,二次利用のためのユーザビリティの対応状況は各連携機関で差があることを指摘し,ユーザビリティ向上に向けた連携機関全体の取組の底上げを期待したいと語った。

   岡室美奈子氏(早稲田大学坪内博士記念演劇博物館)は,JPSはアーカイブ機関が所蔵する知的資産のシェアと利活用を推進し,社会へより開かれた状態にするための舵取り役として機能しうると述べた。また,フラットな情報の集合体は,横断検索によって新たな出会いを生み出すこと,さらには,知的資産が広く一般利用者に「あそぶ」ように利用されることで新たな価値が加えられることを指摘した。

   続くディスカッションでは,田中久徳氏(NDL)およびJPSの開発に関わる高野氏の意見を交え,知的資産やデジタルコンテンツを社会の中で循環させるための,コンテンツ・クリエーション・エコシステムに注目した議論が交わされた。地域・人・時間・価値観等の境界を超えてボーダーレスに知的資産を利用できることの価値や,デジタル技術のもつ予測不可能性が,知的資産に新たな価値を与えることが期待できるという意見等が出た。議論の中で高野氏は,デジタルアーカイブにおける世界の動向を俯瞰すると,代表的なプラットフォームがそろいつつあり,世界中の人々の意識が,(岡室氏の表現を用い)社会に対し開きはじめた状況であると指摘した。知的資産の利用可能性が向上し,シェアすることの価値意識が広く浸透することによって,様々な情報やコンテンツの公開が増えるという流れに繋がっていくことへの期待を語った。また,田中氏が述べていたように,JPS正式版公開はあくまでもスタートラインであり,これからの発展には連携機関の拡充や各機関の継続的努力が必須と言えるだろう。

   最後に,連携機関としての立場から,筆者の意見を加えたい。国内のデジタルアーカイブの今後の発展には,連携機関同士のつながりを強めるためのイベントや取組の実施が期待される。例えば,各アーカイブ機関間の調整を担う「つなぎ役」が理想通りに機能しているかの検証と議論や,デジタルアーカイブを下支えするための「長期アクセス保証」についての具体的なアクション等が挙げられるだろう。

Ref:
“デジタルアーカイブ産学官フォーラム(第4回)ジャパンサーチの挑戦 ~ポストコロナ社会とデジタルアーカイブ~”. 首相官邸.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/forum/index.html
“デジタルアーカイブ産学官フォーラム(第4回)議事次第”. 首相官邸.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/forum/2020/gijisidai.html
“デジタルアーカイブ産学官フォーラム(第4回)ジャパンサーチの挑戦~ポストコロナ社会とデジタルアーカイブ~”. YouTube.
https://youtu.be/lxiNyPeeqZY
ジャパンサーチ.
https://jpsearch.go.jp/
沖縄アーカイブ研究所.
https://okinawa-archives-labo.com/
ジャパンサーチついに正式版公開へ!. 国立国会図書館月報. 2020, (711/712), p. 7-9.
https://doi.org/10.11501/11516814
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室. ジャパンサーチ正式版の機能紹介. カレントアウェアネス-E, 2020, (401), E2317.
https://current.ndl.go.jp/e2317
星川明江. 権利者不明著作物の活用促進について. カレントアウェアネス, 2016, (328), CA1873, p. 4-6.
https://doi.org/10.11501/10020598