E2655 – 「「デジタルアーカイブ活動」のためのガイドライン」の思想

カレントアウェアネス-E

No.470 2023.12.14

 

 E2655

「「デジタルアーカイブ活動」のためのガイドライン」の思想

人間文化研究機構国立歴史民俗博物館・後藤真(ごとうまこと)

 

  2023年9月、デジタルアーカイブジャパン推進委員会実務者検討委員会(以下「委員会」)が「「デジタルアーカイブ活動」のためのガイドライン」(以下「新ガイドライン」)を公開した。あわせて、デジタルアーカイブアセスメントツール(ver. 3.0)、用語集、よくある質問、標準・マニュアル・手引き等、事例集も公開している。このガイドラインは、2017年4月に公開された「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」(以下「旧ガイドライン」)の後継として議論・作成されたものであり、2023年段階における「デジタルアーカイブ活動」の目指すべきあり方を示すものである。その内容や全体像については、容易に掴めるものも存在するので、ここでは多くを触れず、公開までの議論の経過や背景、大きな狙いなどについて説明を行う。

●旧ガイドラインの公開とその後

  まず、新ガイドラインが公開されるまでの経緯について簡単に触れたい。2017年、ジャパンサーチ(E2176E2317参照)構築に向けて、そのあるべき姿を議論し、新たな時代のデジタルアーカイブとはどのようにあるべきかを検討していく中で、旧ガイドラインは作成された(E1932参照)。旧ガイドラインにおいては、アーカイブ機関とジャパンサーチ、そして両者の橋渡しをする分野・地域ごとの「つなぎ役」という連携体制を作り上げ、日本のデジタルアーカイブの構築を大きく促進させることが狙いであった。かつその中でデジタルアーカイブをオープンで、多くの人と共有可能なものとしていくことが目指された。

  近年の情報技術の目覚ましい進展と、デジタルアーカイブそのものの増加、ジャパンサーチとの連携機関の大幅な増加、そして2018年の著作権法改正などにより、旧ガイドラインではデジタルアーカイブに関わるさまざまな社会の進展に追い付かない部分が生まれてきた。

●新ガイドラインの作成・公開へ

  こうした状況を踏まえ、新ガイドラインについて、2022年から委員会で議論されることになった(第14~16回実務者検討委員会)。議論の詳細は14回以降の議事録等にゆずるが、全体として「デジタルアーカイブは単に文化的なもののデジタル化を指すだけのものではない」という視点が貫かれていたと考えている。

  2021年のジャパンサーチ戦略方針策定時の議論において、委員会の中で特に共有されていた方向性は「デジタルアーカイブは社会の中に日常的に溶け込んだ存在であるべき」というものであった。新ガイドライン作成にあたっては、この議論を受け継ぐ方向性で議論を進めた。それは「デジタルアーカイブ」という言葉で示すものが、単にデータベースそのものやそれを構築している主体のみならず、より多様なものとして捉えなければならないというものである。その考え方を明確に示すべく、ガイドライン全体を貫く考え方を示す用語として、「デジタルアーカイブ活動」を用いることにした。これにより、ガイドライン全体がアーカイブ機関による構築や連携を超えた、「個人の日常の活動」までをその対象とすることを目指したのである。新ガイドラインは、デジタルアーカイブが日常の中でどのように活用できるのかを示し、その上で、その活用を可能にするデジタルアーカイブシステムとはどのようなものかを考える構成とした。第I章では特にデジタルアーカイブ活動デザインに着目した説明を中心とし、第II章ではデジタルアーカイブの構築・連携・活用の詳細を説明する構成となっている。第II章は、本ガイドラインと併せて大幅に改定されたデジタルアーカイブアセスメントツールとセットで活用されることが意図されている。

  さらに5年後の2028年の社会では、この新ガイドラインも追い越した、「デジタルアーカイブ活動」が日常となった社会ができていることが、最も望まれていることであろう。デジタル化やその結果として生まれたデータそのものを特別なものとしてとらえることなく、社会の中に普通にあり、その活用を通して人間社会をよりよいものにしていく、それこそが「デジタルアーカイブ活動」に込められたメッセージである。

Ref:
デジタルアーカイブジャパン推進委員会実務者検討委員会. 「デジタルアーカイブ活動」のためのガイドライン. 2023, 78p.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/pdf/guideline_2023.pdf
デジタルアーカイブジャパン推進委員会実務者検討委員会. 「デジタルアーカイブ活動」のためのガイドライン(概要版). 2023, 22p.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/pdf/guideline_gaiyou_2023.pdf
“デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会”. 首相官邸.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/index.html
デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン. 2017, 43p.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/guideline.pdf
デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン―概要―. 2017, 6p.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/jitumusya/dai14/sankou2-1.pdf
実務者検討委員会(第14回) 議事概要. 2022, 3p.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/jitumusya/dai14/gijigaiyou.pdf
実務者検討委員会(第15回) 議事概要. 2023, 5p.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/jitumusya/dai15/gijigaiyou.pdf
実務者検討委員会(第16回) 議事概要. 2023, 3p.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/jitumusya/dai16/gijigaiyou.pdf
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室. 国の分野横断統合ポータル ジャパンサーチ試験版公開後の動向. カレントアウェアネス-E. 2019, (376), E2176.
https://current.ndl.go.jp/e2176
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室. ジャパンサーチ正式版の機能紹介. カレントアウェアネス-E. 2020, (401), E2317.
https://current.ndl.go.jp/e2317
中川紗央里. 国立国会図書館の分野横断統合ポータルの構築に向けた取組. カレントアウェアネス-E. 2017, (328), E1932.
https://current.ndl.go.jp/e1932