E2656 – 図書館でのよりよい医療情報提供のあり方を考える<報告>

カレントアウェアネス-E

No.470 2023.12.14

 

 E2656

図書館でのよりよい医療情報提供のあり方を考える<報告>

国立がん研究センター・岡本裕樹(おかもとひろき)、八巻知香子(やまきちかこ)、若尾文彦(わかおふみひこ)

 

  2023年11月2日、国立がん研究センターがん対策研究所主催の講演会「図書館でのよりよい医療情報提供のあり方を考える~市民の課題を解決する図書館であるために~」を、オンラインで実施した。図書館の自由、国民の知る権利の保障という理念と、市民が適切な医療を受けられるよう支援することを両立させるような医療情報提供のあり方について、共通理解を深めることを企図したものである。図書館、医療機関、行政機関の関係者など208人の参加があった。

  まず、医療機関の立場から、国立がん研究センターがん対策情報センター本部副本部長の若尾文彦が、「医療機関・医療者が望む(がん)医療情報提供のあり方」について講演した。2023年の内閣府世論調査では、回答者の約半数(49%)が「がんに関する情報源」としてインターネットを挙げた。しかし医学雑誌Journal of Medical Internet Researchに掲載された2018年の論文では、ネット検索で上位に掲出されるもののうち、科学的根拠に基づく情報は約1割に留まるとされている。がんになる前から、身近な場で確かな情報に接することが重要である。国立がん研究センターでは、公共図書館(室)に確かながん情報を普及させるために、がん情報が掲載された冊子の寄贈を行う「がん情報ギフト」プロジェクト(E1958 参照)を行っている。第4期がん対策推進基本計画が掲げる「誰一人取り残さないがん対策」の実現のためにも、より一層プロジェクトを推進していきたい旨を語った。

  続いて医学図書館の立場から、東邦大学医学メディアセンター大橋病院図書室の牛澤典子氏が、「公共図書館で医療情報を提供するには~難しさ、工夫、できること~」と題し講演した。図書館での健康情報の収集提供方針は日米で大きく異なり、米国における健康コレクションの中核はオンライン情報とされているが、日本では必要な情報を網羅するウェブサイトが不足している。ただ、がんについては国立がん研究センターが運営するウェブサイト「がん情報サービス」が十分にその役割を果たしているとした。また図書館では科学的根拠に基づく健康分野の蔵書をもつことが重要であるとし、健康情報資料の選書基準として「著者の資格」「参考文献資料をきちんと備えた資料」などといった9項目を紹介した。

  その後、公共図書館での具体的な情報発信の実践例として、名古屋市志段味図書館長の藤坂康司氏、がん哲学外来メディカルカフェ・シャチホコ記念代表の彦田かな子氏から、志段味図書館における協働の取組が紹介された。2021年度からはじめたがん関連資料の企画展示は、2022年度から「みんなのがん教室」として、彦田氏をはじめとするシャチホコ記念の全面的な協力を得て、月一回、定員30人の継続的なイベントとして実施されるようになった。このイベントのスタートに際して講演を行ったのが彦田氏である。以来、「図書館」と「患者会」が協働し、幅広い世代に向けてがんの正しい情報を発信する取組を展開し、毎回がん当事者や専門家などによる講演と参加者同士の交流会を実施している。共催のメリットを生かしたがん教室の取組は、地元の書店、県外の図書館にも活動が広がっているとのことである。

  パネルディスカッションでは、若尾から「図書館での医療情報提供には医療スタッフとの協力が有用である」、藤坂氏から「全国のがん情報ギフトセット寄贈館が各々地域のがん患者会と繋がり、活動を展開させていければ」などの意見が出された。また、参加者からの質問に答える形で、牛澤氏が「闘病記は同じ病気の方にとって貴重な資料だが、その評価には時間と労力を要する。民間療法資料は、出版点数は多いが患者図書室の資料として適切なものはきわめて少ない」と述べた。また、若尾から、「もし、不適切な補完代替療法の資料のリクエストがあった際には、がん情報サービスのウェブサイトをプリントアウトして一緒に添えるなど、確かな情報と併せて提供することはできないか。闘病記にも、科学的根拠のない治療法やサプリメントを勧めるものが紛れており、選書の際には留意が必要」という認識が語られた。

  終了後のアンケートには、「公共図書館の医療情報提供の具体例を知ることができた」「公共図書館は医療情報提供の役割を担っていると再認識した」などの感想が多数寄せられた。国立がん研究センターとしては、今後も信頼できるがん情報の作成、発信、普及に取り組むと共に、「がん情報ギフト」がさらに多くの図書館において活用されることで、全ての人が必要な時に信頼できるがん情報を得られる社会を目指したい。

  「がん情報ギフト」プロジェクトでは資料の寄贈を受け入れる図書館を募集しており、図書館関係者向けの情報を国立がんセンターのウェブサイトに掲載している。また、講演会のアーカイブ動画と当日のスライド資料についても同ウェブサイトで公開されているので、視聴されたい。

Ref:
“講演会:「図書館でのよりよい医療情報提供のあり方を考える~市民の課題を解決する図書館であるために~」”. 国立がん研究センター.
https://www.ncc.go.jp/jp/d004/donation/ganjoho_gift/20220712101108.html
“つくるを支える 届けるを贈る『がん情報ギフト』 プロジェクト”. 国立がん研究センター.
https://www.ncc.go.jp/jp/d004/donation/ganjoho_gift/index.html
Ogasawara, R. et al. Reliability of Cancer Treatment Information on the Internet: Observational Study. JMIR Cancer. 2018, vol. 4, no. 2, e10031.
https://doi.org/10.2196/10031
“がん対策推進基本計画”. 厚生労働省.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000183313.html
がん情報サービス.
https://ganjoho.jp/public/index.html
“図書館関係者の皆さまへ”. 国立がん研究センター.
https://www.ncc.go.jp/jp/d004/donation/ganjoho_gift/050/index.html
八巻知香子, 高山智子. 国立がん研究センター「がん情報ギフト」プロジェクト. カレントアウェアネス-E. 2017, (334), E1958.
https://current.ndl.go.jp/e1958