E1958 – 国立がん研究センター「がん情報ギフト」プロジェクト

カレントアウェアネス-E

No.334 2017.10.05

 

 E1958

国立がん研究センター「がん情報ギフト」プロジェクト

 

●はじめに

    がんは1981年以降,日本の死因の第一位であり,がん患者や家族からの声を受けて,がん対策基本法(2006年)やがん対策推進基本計画(2007年)が制定され,国,地方自治体,医療機関等において国民への情報提供の充実のための意識的な努力が行われるようになっている。そして,国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターが運営するインターネット「がん情報サービス」および各種資料と,がん医療の中核を担うために指定されている全国約400のがん診療連携拠点病院に設置されている「がん相談支援センター」が情報提供の担い手として取り組んできた。がん相談支援センターは,がんについての様々な相談を無料で受け付ける窓口であり,インターネットが使えない人等の情報弱者や,その病院を受診していない患者や家族らも含めて誰でも利用できる。しかし,がん相談支援センターが設置されているがん診療連携拠点病院は,専門的ながん医療の提供や支援の拠点となる一定規模以上の病院であることから,地方においても県庁所在地等,比較的人口が密集した地域に集中しがちであり,がんの情報提供や相談窓口に空白地帯が生じている。

   一方,医療の進歩による治療の選択肢の増加やインフォームドコンセントの普及による治療方法決定への患者の関与の度合いの増加によって患者自身が健康や医療に関する情報を入手し,理解し,活用する力を向上させることが求められるようになってきている。昨今,地域住民の課題解決を支援する情報拠点としての役割を強め,地域のすべての住民に開かれた情報拠点にもなっている公共図書館は,大規模な医療機関がない小さな市町村にも設置されており,信頼できるがん情報を全ての国民に届けていくための重要な拠点となりうると考えている。さらには図書館を設置していない小さな町村では公民館に図書室を備えている場合も多い。この公共図書館等を介したがん情報の普及を目指すのが今回の「届けるを贈る 届けるを支える がん情報ギフト」プロジェクトである。

●プロジェクトの概要

    がん対策情報センターでは,科学的根拠に基づくがん情報を,ウェブサイト「がん情報サービス」で提供するとともに,冊子やチラシの紙媒体でも情報普及活動を行ってきた。

   2017年7月31日に開始した,「届けるを贈る 届けるを支える がん情報ギフト」プロジェクトは,全国から寄付を募り,各都道府県への寄付金が3万円集まるごとに寄付時に指定した都道府県の公共図書館や公民館1館にがん対策情報センターが発行するがんに関する資料のセットを寄贈する取り組みである。居住地や出身地など,愛着を感じる地域を支援することを通じて,寄付者にもこのプロジェクトを身近に感じ,見守ってもらうことを意図している。

   各図書館等には,蔵書用冊子58種,配布用冊子8種(A4判1種20部,A5判7種各50部),ちらし1種(500部)をバインダーや配架用ラックにセットして寄贈する。各都道府県内における寄贈先については,都道府県立図書館に照会し,資料寄贈の優先度の高い図書館等から順次送付することを予定している。都道府県立図書館には,医療資源が少ない地域等地域のがん情報の必要度の高さや,各館の受け入れ態勢等についてご示唆,ご協力をお願いしたいと考えている。

   また,これらの資料だけでは患者や家族等の様々な悩みやニーズには応えられないことも多い。このプロジェクトの中では,必要に応じて図書館等から最寄りのがん相談支援センターへ相談者を紹介するような連携が構築できるよう,がん対策情報センターから働きかけることも予定している。

●公共図書館での先進事例と今後の展開

    これまでは,医療の専門性の高さや,行政上の管轄の違いもあり,医療機関と公共図書館との連携は自然発生的には生まれにくかった。しかし,「地域」をベースとした両機関の相互補完的な連携を促すことで,がんの情報を必要とする全ての人に向けた情報提供を進めることができると考えられる。

   本プロジェクトが発足する以前から,すでに複数の公共図書館ががん対策情報センターが発行する冊子等を活用してがんに関する情報の提供を行なっている。またいくつかの図書館では,地域のがん相談支援センターと連携し,講演会等のイベント開催や,地域の医療情報を掲載した案内の作成など,より広い連携を築いている地域もある。このような本プロジェクト発足までの試行事業の情報については国立がん研究センターがん対策情報センターのウェブサイト内の「がん情報普及のための医療・福祉・図書館の連携プロジェクト」のページに掲載されている。

   当センターでは,図書館の専門性と,医療機関の専門性が交差する情報コーナーが各地に広がることで,「誰でもどこでも必要ながん情報が届く社会」の実現を目指していきたいと考えている。公共図書館・公民館・医療機関の関係者のご協力をお願いする次第である。

国立がん研究センター・八巻知香子,高山智子

Ref:
http://ganjoho.jp
http://www.ncc.go.jp/jp/information/donation/donation_ganjoho.html
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/project/pub-pt-lib/index.html