E1959 – 近畿大学アカデミックシアター:“知の実験劇場”の取組み

カレントアウェアネス-E

No.334 2017.10.05

 

 E1959

近畿大学アカデミックシアター:“知の実験劇場”の取組み

 

    近畿大学アカデミックシアターは,近畿大学(近大)の建学精神である「実学教育」と「人格の陶冶」を礎に,人間のあらゆる知的好奇心を揺り動かす“知の実験劇場”として2017年4月に開館した。そのコンセプトは「文理の垣根を越えて,社会の諸問題を解決に導くための学術拠点」「従来の大学図書館にない,まったく新しい考えをもった図書館の創出」である。本稿では,アカデミックシアターの建物構成や主な取組みについて述べる。

    アカデミックシアターは1号館から5号館が融合した建物となっている。1号館には語学関連のエリアがあり,TOEIC等の語学試験対策のための資料や多読本を約1万4,000冊,映画などのDVDを約2,000点配架している。また留学生と文化や語学の交流が可能なインターナショナルラウンジも設けた。2号館には,文理融合・企業連携イベントを実施する350人収容可能な実学ホールのほか,キャリアセンターや社会連携推進センターが活動するオープン・キャリアフィールドを設置した。3号館には,専用アプリからの座席予約が可能な24時間自習室を備え,学生がいつでも利用できる自習環境を提供する。4号館には国内の大学では初出店となるCNN Caféがあり,店内で常時放送されるCNNニュースに触れることで,学生は国際情勢をリアルタイムで学ぶことができる。

    そして5号館(ビブリオシアター)は約7万冊の図書と42室のガラス張りの小部屋ACT(アクト)からなる学びの空間となっている。1階のNOAH33(ノア33)は,編集工学研究所所長の松岡正剛氏が監修した近大独自の「近大INDEX」による約3万冊の図書で構成された空間である。「近大INDEX」は日本十進分類法(NDC)を下敷きにしつつ,今までの大学図書館にない実学的・文理融合的なリベラルアーツ的感覚による選書や分類がなされており,学生が新たな切り口で本と出会う場を目指している。2階のDONDEN(ドンデン)は,マンガ・新書・文庫からなる約4万冊の図書を32のテーマに区分し配架している。マンガ2万2,000冊をきっかけに学生の知的好奇心を刺激し,関連する新書・文庫,さらには,専門書へと関心を深めることで,知の繋がりを感じ,知の奥へ向かうための「知のどんでん返し」が起こることを狙いとする。ACT内には可動式の机・椅子があり,学生や企業,地域が連携し,社会の諸問題を解決に導くための様々なプロジェクトを行っている。ACTでの活動を可視化することで,見る側・見られる側が互いに刺激を受け合っている。このビブリオシアターをアカデミックシアターの中心に位置づけることで,多様な学部の学生たちが交錯する,総合大学である近大ならではの「実学教育」が実現する学習空間を目指している。

    アカデミックシアターでは学内の各部署による多岐に亘る取組みがなされているが,ここでは図書館に関する活動を挙げる。

  • 人工知能(AI)を用いた診断コンテンツ
    「偶発的な本との出会い」の創造には,リアルな書棚だけでなくICTも活用している。公式ウェブサイト上にAIによる本のマッチングサービスを展開し,TwitterまたはFacebookのアカウントと連携することで,AIが「外向性」「誠実性」等の5つの角度から投稿内容を分析し,個々の潜在意識に最も合致する本を推薦するというサービスである。これを実現するために,ビブリオシアターに配架された約7万冊の図書の情報について同様の指標を用いて分析しており,各人の特性分布値と最も近い本を抽出している。
  • 図書館ボランティアAPRICOT CONCIERGEの活動
    学生の図書館ボランティア団体APRICOT CONCIERGEが,書架に隣接する黒板に,その書架から選んだ図書のフレーズやイラストを黒板アートとして描くことで,通りかかる学生の興味を惹き寄せている。その他,DONDEN内にある全マンガの全登場人物を対象とした「マンガイケメン総選挙」等のイベントの企画・運営を行っている。
  • 学修サポートデスクの開設
    大学院生のティーチングアシスタント(TA)による学部生のレポート・卒論執筆支援をACTの一室で展開している。開室中,学生は自由にTAへ学修相談することが可能であり,物理・数学などの基礎科目の補修指導(リメディアル教育)のニーズも高い。前期開講期には102件の利用があり,学修サポートデスクの利用を通じて,学部生の学習意欲向上や大学院生TAの教育・研究指導力の向上につなげたいと考えている。

    2017年4月の開館以降,アカデミックシアターの入館者数は4か月で70万人に達した。従来の中央図書館には静寂な学習環境を求める学生,アカデミックシアターには活発なグループワークを目的とする学生,といった棲み分けが見受けられ,開講期はどちらも座席がほぼ満席の状態である。また,近大INDEXの導入で図書の貸出も増加している。マンガの貸出が多いことは当初の想定通りだが,マンガを除いた貸出冊数を算出しても,中央図書館とビブリオシアターで合わせて2016年と比べて約1.2倍に増加しており,学生が本に触れる機会や興味を持つきっかけを創出できていると考えられる。

    アカデミックシアターは開館からまだ数か月しか経過しておらず,その教育効果を測定・評価することは現時点では難しい。しかし,図書館に足を運び,本に触れ,互いに学び合う学生が増えていることを日々実感している。今後も本学の学術活動を支える拠点として,アカデミックシアターという施設の魅力が色褪せないよう,学生のニーズと大学業界の動向を掴み,様々な知的実験を仕掛けていきたい。

近畿大学中央図書館・國見唯

Ref:
https://act.kindai.ac.jp/
http://www.clib.kindai.ac.jp/
http://kindaipicks.com/article/001172
https://act.kindai.ac.jp/personality_test/
http://kindaipicks.com/article/001185