E1960 – IFLAによる国立図書館の役割に関する現状調査

カレントアウェアネス-E

No.334 2017.10.05

 

 E1960

IFLAによる国立図書館の役割に関する現状調査

 

    2017年8月に開催された世界図書館情報会議(WLIC):第83回国際図書館連盟(IFLA)年次大会では,国立図書館の役割に関する現状調査の結果を概観し,図書館・情報政策に与える影響について議論するラウンドテーブルが行われた。本稿では,調査を担当し,ラウンドテーブルのモデレータも務めたスイス国立図書館のPatrice Landry氏の予稿に基づき,調査結果の概要を紹介する。

●調査の概要

    調査は,2012年のIFLA国立図書館分科会において,国立図書館の役割に関するガイドラインの更新について議論されたことに遡る。2016年4月の同分科会常任委員18館を対象とした予備調査を経て,2016年10月から12月にかけて本調査は行われた。調査を担当したのは,オランダ王立図書館(KB)とスイス国立図書館である。調査票は,国立図書館長会議(CDNL)のメーリングリストを通じ,CDNLの全会員館に送付された。回答は,予備調査とあわせて,45か国46館から得られた。地域別回答数は,欧州27館(58%),アジア・オセアニア9館(20%),中南米・カリブ海地域4館(9%),アフリカ4館(9%),北米2館(4%)となっている。

●蔵書構築

    その国に関する著作物の収集(CA1883参照)は国立図書館の基本的な役割の1つである。法定納本制度に基づく収集がほとんどで(93.5%)あるが,出版社との寄贈契約(4.3%)により収集している館もある。対象資料は国により異なるが,全ての館で冊子体が収集されているほか,録音資料や楽譜・ポスターといった音楽関連資料は,各々67.4%から78.2%の館で収集されている。以下,地図資料(58.7%),写真(48%),視聴覚資料(32%),絵葉書(23.9%)と続く。電子資料は,71.7%の館が収集対象としており,うち63%が法定納本制度(E1836ほか参照),8.7%が寄贈契約に基づく。収集される電子資料は電子書籍(電子資料収集館の90.9%。以下同じ。)・電子雑誌(81.8%)が多く,ウェブサイト(63.6%;CA1893参照),電子新聞(60.6%)が続く。ソーシャルメディア(E1815参照)やブログ,動画配信サービスを収集する館は21%に留まる。

●蔵書管理/書誌情報

    OPACや全国書誌を通じて速やかに書誌情報を提供することも重要な役割である。全館で目録・分類作業が行われ,87%の館で全国書誌が作成されているが,書誌情報を購入している館(34.7%),他機関作成の書誌情報を利用する館(21.7%)もあり,主題分類の自動付与(CA1894参照)の傾向も見られる(15.2%)。書誌情報のオープンデータ化(67.4%)も近年の傾向である。

●保存・修復

    多くの館に保存・修復の担当部門がある(67.4%)。そのうち95.5%の館に管理された資料保存設備があり,一般的な修復作業(88.8%),中性紙保存箱の使用(84.4%),脱酸処理(57.7%)も行われている。劣化の進む資料の媒体変換を実施する館も多い。全館のうち,71.1%の館で防災計画が策定され,86.9%の館が他機関に保存・修復に関する情報を提供している(CA1891参照)。

    電子資料の保存(E1933参照)では,67.4%の館でデジタル保存システムが構築されているが,アジア・アフリカに未構築・構築中の館が多く,支援の必要性が指摘されている。45.7%の館が電子資料の保存計画を策定・公開し,36.9%の館が信頼性の高い電子資料保存に関する基準を採用し,保存政策の質を担保している。

●蔵書の利用促進

    ISBN,ISSN,ISNI(E1773参照)等の管理を担う館が多い(80.5%)。58.7%の館が全国総合目録を構築し,47.8%の館が相互貸借の調整を行なっている。ウェブサイトにおけるレスポンシブウェブデザインの採用(56.5%)や,障害者用ウェブサイトの構築(52.2%)などの取組もみられる。FlickrやWikimediaを通じ,コレクションを公開する館もある(67.3%)。

●アウトリーチ

    多くの館が展示会を実施している(95.6%)ほか,講演会や読書振興に関するイベントを開催している(91.3%)。オンライン展示,館内ツアー,オープンデー(一般公開日),ワークショップを開催する館もある。ハッカソン開催は近年の傾向であるが,実施館は28.2%で,主に欧米での開催である。出版物やグッズ(CA1742参照)を販売している館も存在する(67.4%)。

●連携・協力

    他館種と連携・協力し,サービスを開発・調整することも役割である。公共・大学図書館,博物館との連携・協力館は80%,視聴覚資料や研究データの保存機関との連携・協力館は50%を超える。公文書館,議会・政府図書館や研究機関との連携・協力もある。国の図書館・情報政策の策定(91.3%)や国際協力(86.9%)も主要な役割である。

●国立図書館固有の役割/新しい役割

    2015年に12館を対象に実施した試験調査で判明した国立図書館固有の10の役割のうち,多くの館で担われている役割の特定を試みたところ,「図書館に関する標準の開発」「読書振興・リテラシーの向上」が該当する結果となった。また,近年のデジタル環境に対応した新しい役割が求められるようになっており,欧州の大規模館を中心に,デジタル人文学分野での大学との連携(47.8%),公共図書館のデジタルサービスの支援(45.6%),Linked Data化による館内外のコレクションの相互接続(43.4%)が行われている。今後5年間で必要となる業務に関する質問には,デジタル化,保存・修復センター,オープンアクセス,Linked Open Data,電子情報保存,デジタルコレクションの普及,自費出版物の収集,オンライン上での図書館ネットワーク,人材育成,ビッグデータに関する研究,テキストやデータのマイニング・キュレーションといった回答が寄せられている。

    Landry氏は,これまで策定・参照されてきたユネスコ(UNESCO)等によるガイドラインで言及される国立図書館の中核的な役割は,その文脈は異なるものの現在でも変わっていないと指摘する。そして,今後も議論を重ね,IFLA国立図書館分科会常任委員会において,新しい技術環境という文脈に相応しいガイドラインへの更新を検討しなければならないと述べ,報告を締めくくっている。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://library.ifla.org/view/conferences/2017/2017-08-24/817.html
http://library.ifla.org/1722/
http://library.ifla.org/1722/1/223-landry-en.pdf
http://national-library-functions-v3.silk.co/
https://doi.org/10.1177/0955749016653031
http://unesdoc.unesco.org/images/0007/000761/076173eb.pdf
http://unesdoc.unesco.org/images/0010/001095/109568eo.pdf
E1836
E1815
E1933
E1773
CA1883
CA1893
CA1894
CA1891
CA1742