E1951 – 第三世代のマンガミュージアム:「合志マンガミュージアム」

カレントアウェアネス-E

No.333 2017.09.21

 

 E1951

第三世代のマンガミュージアム:「合志マンガミュージアム」

 

●はじめに

  現在,日本におけるマンガ関連施設は80を超え,その建設の動きは広がりを見せているが,これまでの施設の形態は主に2つの世代に分類できると考えられる。まず第一世代の施設とは,熊本県球磨郡湯前町の湯前まんが美術館(那須良輔記念館)のように,漫画家個人を顕彰する施設として20年程前から建設されるようになったものを言う。次に第二世代の施設とは,京都国際マンガミュージアムのように,ミュージアムという名称が使われるようになった大規模な施設で,大都市を中心に10年程前から建設されるようになったものを言う。そして,今回熊本県合志市にできた合志マンガミュージアムは,そのどちらにも属さない第三世代と呼ぶべき施設である。第三世代の施設とは,地方都市で地域密着を目的とし,また,既存施設の改修等で費用を抑えた小規模な施設を造ることを目指した施設と言える。
 

●合志マンガミュージアム設立の目的・経緯

    合志市は,2015年10月に策定した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の基本目標の一つである「稼げる地域産業をつくる」にもあるように,アニメ・マンガを活かしたまちづくりを進めている。これまでの取組として,次のような事例がある。

  • 合志町・西合志町合併記念の市歌『合志市音頭』を初音ミクが歌い踊る動画の制作公開(2011年)
  • 郷土歴史マンガ『カタルパの樹~合志義塾ものがたり~』の発刊(2015年熊日出版文化賞(熊本日日新聞社主催)受賞)
  • 合志市クリエイター塾の開講(2015年から)
   このような背景がある中で,2011年に当時の政策部長(現副市長)とNPO法人熊本マンガミュージアムプロジェクト(通称「クママン」)の代表が出会い,マンガ関連施設の設立に向けて動き始めた。ちょうどその頃,市には旧合志町の合志歴史資料館と旧西合志町の西合志郷土資料館があったが,合併から10年が経ったことによる来館者の減少により,資料館の一本化と施設の有効利用を考える必要が出てきていた。そこで,西合志郷土資料館は合志歴史資料館へ統合し,西合志郷土資料館をマンガ関連施設に改修することとした。2016年から地元企業・大学・市役所の産学官が連携し,どうすれば利用者がくつろぎながらマンガを読むことができる居心地のよい空間にできるか協議を重ねてきた。数回にわたって西合志図書館等で試験的にイベント「ミニ合志マンガミュージアム」を開催し,マンガの種類や配置,来場者の年代や滞在時間,会場内での動き方などを細かく研究し,より多くの世代が心地よく感じられる場所づくりができるよう取り組んできた。そして,2017年7月22日,西合志図書館隣に,合志マンガミュージアムは開館したのである。
 

●マンガミュージアムの概要・活動内容

   「マンガを読もう!観よう!!学ぼう!!!」をテーマとした合志マンガミュージアムの館内には,展示,閲覧エリアである「キューブゾーン」と休憩エリアである「フリーゾーン」がある。キューブゾーンでは,熊本の木材を使用し極力金具なしで造られた縁側風のユニークな立方体「キューブ」に座って,くつろぎながらマンガを楽しむことができる。中学生以上は入場料が必要である。フリーゾーンにはマンガ雑誌やコンビニ本と呼ばれる雑誌扱いの単行本等が棚に並んでおり,誰でも無料で利用できる。また,ドリンク自販機が設置されており,カフェのように利用することが可能である。

   マンガの歴史が一目で分かるよう1960年代から現在までのマンガを発行年の10年単位で時計回りに配架した約1万5,000冊のマンガ資料の閲覧(貸出し不可),戦前の紙芝居や1960年代のマンガなどマンガ史を語る上で重要かつ貴重なマンガ資料の展示,マンガ学を講義する合志マンガ義塾,マンガの描き方を指導するワークショップを行っている。その他,館内に収蔵されている約7万冊のマンガ資料の仕分け整理をした後,発行年・作家別の分類を行っている。さらに,文化庁作成のデータベースを利用したマンガのアーカイブ化を,国や他館と連携して進めている。施設の運営は,市からの業務委託によりクママンが行っている。

●NPO法人クママンの概要・連携の背景

    クママンとは,2011年に法人格を取得したNPO団体である。メンバーは大学等の教員,公務員,書店員,古本屋経営者,漫画家,マンガ研究者,図書館職員,マンガファン等で構成されている。会員は約30名で,代表は橋本博(合志マンガミュージアム館長),副代表は鈴木寛之(熊本大学文学部准教授)が務めている。活動内容は次のとおりである。

(1) 歴史に埋もれた郷土の偉人を紹介する地域紹介マンガの作成
  『カタルパの樹~合志義塾ものがたり~』(2015年,合志市),『山北幸物語~繋ぐ~』(2016年,湯前町),『蒼き石の伝説―下浦石工物語(仮題)』(作成中,熊本県天草市)
(2) 文化庁メディア芸術連携促進事業への参加(2014年から)
  文化庁が行っている「マンガ関連施設間の連携によるマンガ雑誌・単行本の共同保管事業」に参加。マンガ関連施設が所有するマンガ資料のうち収蔵が困難になったものを熊本で保管する事業を行っている。
(3) アーカイブ事業の推進
  クママンが以前から収集してきたマンガ資料と各地から集められた分を合わせた100万冊を収蔵するアーカイブ施設を熊本県内各地に設立して,それらをネットワーク化する事業の推進を行っている。

    このような活動を行ってきたことにより,クママンの事業と合志市の政策が合致したため,合志マンガミュージアムの運営を受託することとなった。

●今後のミュージアムの事業展開

    今後も地域の産業に関するマンガや食育に関するマンガの収集,郷土学習の支援を続けていく。また,図書館が隣接するマンガ関連施設は全国的に稀なケースであるため,その特徴を活かした事業として,

(1) 両館共通のテーマを決め,関連書籍を西合志図書館で,関連マンガを合志マンガミュージアムで配架するという共同企画展の開催
(2) 西合志図書館のイベント「秋の夜の図書館探検隊」の一環で,合志マンガミュージアムの収蔵庫内を探検してもらうという企画
(3) 西合志図書館屋上にある天文台と連携し,宇宙をテーマにした企画展の 開催

を予定している。また,他のマンガ関連施設との連携や,当館がハブ施設となり県内外の施設やイベントにマンガ資料を貸与する事業も考えている。こうして第三世代マンガミュージアム第一号を自負する合志マンガミュージアムだが,市民に愛される施設を目指すとともに,マンガを媒介とした3世代のコミュニケーションの場として利用される施設になることを願っている。

合志マンガミュージアム・橋本博

Ref:
http://www.city.koshi.lg.jp/life/pub/list.aspx?c_id=28&pg=1#91
http://www.city.koshi.lg.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=44&id=3522&sub_id=5&flid=10821
https://www.city.koshi.lg.jp/life/pub/Detail.aspx?c_id=28&id=2000&pg=1&type=list
http://koshi-creator.jp/
http://www.city.koshi.lg.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=11&id=185&dan_id=2&set_doc=1
http://www.city.koshi.lg.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=11&id=185&dan_id=2&set_doc=2
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