E1952 – 豊中市の知的探究合戦「めざせ!図書館の達人」

カレントアウェアネス-E

No.333 2017.09.21

 

 E1952

豊中市の知的探究合戦「めざせ!図書館の達人」

 

    豊中市(大阪府)は,2017年7月末に知的探究合戦「めざせ!図書館の達人」を開催した。本事業は,市立図書館で小中学生がグループ単位で調べ学習を体験するものである。4時間半という長時間の行事にもかかわらず,今年も夢中で館内を駆け回る生き生きとした児童生徒の姿が見られた。

●開催までの経緯

    本市は2010年に「とよなかブックプラネット事業」を立ち上げ,児童生徒の読書環境整備に取り組んできた。学校長や学校司書,司書教諭等の意見を伺う中で,「学校図書館は読書をするだけの場所ではない,「学習情報センター」としての役割も子ども達に見せていかねば!」と,当時の読書振興課指導主事と市立図書館司書が考案,2012年に本事業が誕生した。学校図書館を活用した授業モデルとしても提示すべく,活動内容や事業で用いるワークシートについて学校司書や司書教諭等に相談を重ね,開催当日の運営も,司書教諭ら教員,学校司書,市立図書館司書が協働で担い,児童生徒を支援している。学校教育課や学校長,読書振興課等,課を横断して組織された「とよなかブックプラネット事業推進委員会」が本事業の主催者であることで,異職種間の連携が図りやすくなっている。2011年より学校司書と市立図書館司書が読書振興課という同じ部署の所属となったことで,司書同士の連携もさらに進んだ。
 

●2017年の開催概要

   参加対象は,学校でも調べ学習をある程度体験したであろう小学4年生から中学3年生までとしている。4名までのグループ単位で申し込んでもらう。毎年応募多数のため抽選を行っている。2017年は4会場で5回開催し,申込総数84グループ281名のうち抽選で37グループが当選,111名(うち小学生92名,中学生19名)が参加した。参加者は市立図書館の常連利用者とは限らず,小学生は4年生から6年生までまんべんなく申込がある。中学生は小学生時代に本事業へ参加した子のリピート参戦が非常に多い。

    開催時期は,児童生徒,学校司書,司書教諭等が集まりやすい小中学校の夏休み期間としているが,これは市立図書館の繁忙期でもあり,開催枠に限りがあることが課題である。これまでは館内整理日等に開催しており,休館日の図書館をフルに活用して,他の利用者を気にすることなくのびのび調べられることが利点の一つだったが,土日しか保護者が引率できない家庭へも配慮し,2017年は小学生を対象とした1回のみ,日曜日も通常開館しながら開催した。

   当日は,設定されたテーマについて,図書館の資料で調べ,グループで話し合いながら整理し発表までおこなう。2017年は「ダンゴムシ」「城」「ノーベル賞」など,会場毎に8から11種類のテーマを市立図書館司書等支援者側が用意し,くじ引き順に好きなテーマを選び,調べてもらった。調べる活動を始める前には館内の資料やOPAC,ワークシートの使い方を説明し,活動の間は個別にアドバイスも行う。発表は,実物投影機を使用して資料の参照箇所を映写しながら1グループ5分間で行い,その後質疑応答も行う。発表後には参加グループと支援者の投票で,最も素晴らしいと思った調査・発表のグループを「図書館の達人」に選出する。選出にあたっては,調べるプロセスを重視し,「テーマからどのように問いを立てたか」「複数の多様な資料にあたって調べることができたか」等を投票の基準とする。そのため,当日は,テーマを絞り込んだり広げたりするための「イメージマップ」,調べたことを書きとめる「情報カード」,発表原稿をまとめる「発表用シート」と3種類のワークシートを配布し,それらを順番に使うことで調査が進められるよう,児童生徒達の活動を支援している。また,「達人」を選出するだけでなく,グループ毎の活動について支援者が素晴らしいと感じた点を「本をしっかり読みこんでいたで賞」「情報カードがじょうずで賞」等,各賞として考案・発表し,半日の活動を称え表彰状を手渡している。各回で「達人」に選ばれたグループには,後日改めて発表の場を設け,表彰式もおこなう予定である。

●成果と課題

   グループで手分けしながら進められること,ワークシートや支援者の助言を得て進められること,半日の間にすべてをやりきれることで,「調べ学習の一連の流れがよく理解できた」「図書館の使い方が分かった」とアンケートで答える児童生徒の数は多い。「楽しかった」「また参加したい」といった感想も多く(リピート参加率も実際高い),楽しみながらスキルを身につけられている。

   市立図書館にとっては,本を手渡すだけでなく児童生徒が主体的に情報を得て活用する力を身につける支援ができる機会となっている。教員らと協働する中で,学校でどのような授業・指導をしているのかが垣間見え,連携促進と学校へのより良い資料提供にもつながる。日曜日に通常開館しながらの開催が混乱なく実施できたことで,開催の候補日が広がった。

   学校では,参観した教員が「ミニ図書館の達人」を校内で実施したりワークシートを授業で活用したりするなどの動きが広がっている。学校図書館の中には,参加者が活動に使ったワークシートを用い,調べ学習の流れを解説した展示を行うところもある。また,教職員を対象として教育委員会が主催する「学校図書館活用研修」でも,「やってみよう!図書館の達人」と題した研修を昨年より開催している。図書館での調べ学習において児童生徒がつまずきやすいポイントを知る,教員自身が資料の特性を知り調べ学習を体感する,などのねらいがある。

    当日支援者の人員確保,申込数増への対応等の課題もあるが,図書館や資料を活用して問題解決する楽しさを子ども達が実感し,情報活用に前向きなイメージと自信を持ってもらうため,そして毎年楽しみにしてくれている児童生徒達のためにも,今後も本事業を継続して実施していきたい。

豊中市教育委員会事務局読書振興課・磯上千恵

Ref:
https://www.city.toyonaka.osaka.jp/jinken_gakushu/toshokan/event/toshokantatujin2017.html
https://www.lib.toyonaka.osaka.jp/information/bookplanet2014_2.html
https://www.lib.toyonaka.osaka.jp/management/toyonaka_bookplanet.html