E2450 – 2020・2021年VIAF評議会会議<報告>

カレントアウェアネス-E

No.425 2021.11.25

 

 E2450

2020・2021年VIAF評議会会議<報告>

収集書誌部収集・書誌調整課・石澤文(いしざわあや)

 

   国立国会図書館(NDL)は2012年からバーチャル国際典拠ファイル(VIAF)に参加し,2012年はオブザーバとして,2013年からは正式な参加機関として毎年同評議会会議(VIAF Council meeting)に出席している。VIAFは,各国の国立図書館等から名称典拠レコードの提供を受けて,同一の個人・団体等の実体に対する典拠レコードを機械的に同定し,相互にリンクさせるサービスである。評議会の目的はVIAF事業の方針,実践,運営に関する重要事項への助言・指導を行うこととされている。例年,評議会会議は世界図書館・情報会議(WLIC):国際図書館連盟(IFLA)年次大会の期間にあわせて開催されていたが,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により,2020年,2021年はウェビナー形式での開催となった。本稿では,2年分の会議の内容について報告する。

●2020年評議会会議

   2020年は欧米・中東地域,アジア地域の2回に分けて開催され,当館は9月18日に行われたアジア地域の会議に参加した。

   議長は1年任期で,原則として,前年の会議で選出された議長候補が正式にその年の会議で承認される。2019/2020年度議長はブレ(Vincent Boulet)氏(フランス国立図書館)で,前年に議長候補として選出されたオスマン(Rania Osman)氏(エジプト・アレクサンドリア図書館)が2020/2021年度議長として承認された。しかし,2021/2022年度議長候補は候補者の応募がなく,選出されなかった。

   VIAFを維持管理しているOCLCからは過去1年間の統計が報告された。2020年9月時点の参加機関数は56機関で前年と変わらず,書誌レコード数は約1億7,289万件(前年比約760万件増),典拠レコード数は約8,726万件(前年比約1,048万件増),参加機関が提供した典拠レコードを同一の個人・団体等の実体を機械的に判別し,まとめたクラスターの数は約3,366万件(前年比約172万件増)であった。言語別の典拠数は,英語,フランス語,ドイツ語の順に多かった。西部スイス図書館ネットワーク(Réseau des bibliothèques de Suisse occidentale:RERO)とカナダ国立図書館・文書館のファイルの大幅な追加があったため,前年3位だったフランス語が2位のドイツ語を抜いた。日本語の典拠は約292万件で5番目に多かった。VIAFへの国別アクセス数の上位10か国は欧米中心で,アジアからは唯一日本が5位に入った。

   また,最近のOCLCの活動として,Shared entity management infrastructure(SEMI)が紹介された。SEMIは,図書館および学術コミュニティにおけるLinked Data管理の取組を支援するためのプロジェクトであり,VIAF,WorldCat,Wikidata等から提供されたデータを元に,永続的で一元的な基盤として,信頼できる著作と個人の実体の記述を公開することが想定されている。また,VIAFと国際標準名称識別子(ISNI;E1773参照)との間でデータ品質向上のためのデータ相互利用がされていたが,運営やサービスの在り方が議論中であり,2016年以降中断しているVIAFからISNIへのデータロードの再開時期は未定とのことであった。

   参加機関による発表として,REROのクラベル(Thierry Clavel)氏から,オープンソースのクラウド統合図書館システム(ILS)サービスRERO ILSについて発表が行われた。RERO ILSではフランス語,ドイツ語等で作成された書誌・典拠データをまとめて多言語目録を構築している。典拠データは,VIAFのクラスターを経由して各国語の典拠ファイルをまとめ,同一の実体の典拠を複数の言語で切り替えて表示することができる。

●2021年評議会会議

   2021年は,地域を分けず8月20日に開催された。2021/22年度議長は,候補者の応募がなかったため,引き続きメールで候補者の募集を行うことになった。

   OCLCの報告によれば,2020/21年度は国際音楽文献目録委員会(RILM),アラブ首長国連邦大学の2機関が新規加入した一方,モロッコ王国王立図書館が脱退し,57機関(前年比1増)となった。2021年6月現在の書誌レコード数は約1億7,387万件(前年比約98万件増),典拠レコード数は約8,730万件(前年比約4万件増),クラスター数は約3,560万件(前年比約194万件増)である。言語別の典拠数の上位10位は2020年と変わらず,日本語は5番目である。VIAFへの国別アクセス数の上位10か国は2020年から大きく変動し,中国6位,日本8位,韓国10位とアジアから3か国が10位以内に入った。OCLCの活動報告では,SEMIについて具体的な成果の報告は2022年以降となる見込みとの報告があった。

   参加機関による発表では,レバノン国立図書館(LNL)のディマシュク(Ghada Dimashk)氏がVIAFにおけるLNLの名称典拠について紹介した。LNLでは2010年からMARC21フォーマットで名称典拠を作成しており,2013年からアラビア語に適合させたRDA(CA1766CA1767参照)を適用している。団体名,地名等の典拠も作成しているが,VIAFには個人名典拠のみを提供している。LNLにはオンラインの典拠データベースがないため,公的で信頼性の高いレバノン人の著者情報の国際的な提供にVIAFが大きな役割を果たしている。

   ウェビナー形式は参加の負担が少ないが,参加者の発言が制限されるため,活発な議論を要する議事の場合には開催方法の工夫が必要と思われる。2022年の開催方式は未定であるが,オスマン議長からは対面での開催を望む発言があった。

Ref:
VIAF.
http://viaf.org/
村上一恵. 世界図書館・情報会議(第85回IFLA大会)・VIAF評議会会議報告. NDL書誌情報ニュースレター. 2020, 2020(1)(52).
https://www.ndl.go.jp/jp/data/bib_newsletter/2020_1/article_01.html
OCLC. “Shared entity management infrastructure”.
https://www.oclc.org/en/worldcat/oclc-and-linked-data/shared-entity-management-infrastructure.html
RERO ILS.
https://ils.test.rero.ch/
ことばの壁をこえる典拠―バーチャル国際典拠ファイル(VIAF)への参加. 国立国会図書館月報. 2013, (623).
https://doi.org/10.11501/7795106
福山樹里.識別子の架け橋:国際標準名称識別子ISNI.カレントアウェアネス-E. 2016, (299), E1773.
https://current.ndl.go.jp/e1773
和中幹雄.RDA:ウェブの世界に乗り出す目録規則(解説).カレントアウェアネス.2012, (311), CA1766, p. 16-17.
https://doi.org/10.11501/3487219
バーバラ B. ティレット. 『RDA』:図書館をセマンティック・ウェブに適したものに. カレントアウェアネス. 大柴忠彦ほか訳. 2012, (311), CA1767, p. 17-23.
https://doi.org/10.11501/3487220