E2368 – 「次世代のメタデータへの移行」に関する報告書

カレントアウェアネス-E

No.410 2021.03.25

 

 E2368

「次世代のメタデータへの移行」に関する報告書

収集書誌部国内資料課・髙橋玲奈(たかはしれいな)

 

   2020年9月,OCLC Researchは,次世代のメタデータへの移行に関する報告書,“Transitioning to the Next Generation of Metadata” を公開した。本報告は,メタデータ・マネジメントに関する意見交換等の活動を行う“OCLC Research Library Partners Metadata Managers Focus Group” による,2015年から2020年にかけての議論や次世代のメタデータに関わる予測の集大成であり,近年のメタデータの展開の概観と,次世代のメタデータへの移行が図書館サービスに与える影響の検討を行っている。

   報告書では,「なぜメタデータに変化が起きているのか」「メタデータ作成プロセスはどのように変化しているか」「メタデータ自体はどのように変化しているのか」「これらの変化は図書館員の要件にどのような影響を与えるか,また図書館はどのように準備できるのか」という問いに基づき,以下の4つのテーマが詳述された。

●個別資料に基づく記述からLinked Data(CA1746参照)と識別子への移行

   対象を示す言語によらずに「実体」(entity)を表現できる識別子は,文脈を重視し構造化されたデータで成り立つLinked Dataの実現に不可欠な要素である。識別子は,従来の文字列で記述された典拠・目録レコード等のメタデータ・マネジメントが抱える,変更への対応や機関間での作業重複といった課題に有効であり,ユーザーエクスペリエンスや発見可能性の向上,新たな図書館サービスの提供を可能にし得るとされ,以下の3点が特記された。

   第一に,既存のメタデータを将来にわたり活用する上で,時間の経過やデジタル資料の所在に左右されない永続的識別子の使用拡大が重要となる。

   第二に,「実体」の識別化と「実体」間の関連の確立による「ID管理」は,現行の典拠コントロールに代わり,各種メタデータに対する横断的な名寄せを可能にする。そして,それを実現する識別子は,MARC環境と非MARC環境,そして,図書館領域外のリソースをつなぐものであり,目録作成時の手間を減らすことができる。

   第三に,永続的識別子の導入は,文脈に応じた多様な名称の使い分け,さらに件名標目等の検索語の柔軟な更新をも可能にするため,更新を通じた情報検索分野における公平・多様性・包摂性の実現にも有効である。

●“inside-out”かつ“facilitated”なコレクションの記述

   コレクション構築と利活用における図書館の重点は,“inside-out”―各機関におけるリソースの作成,キュレーション,およびその発見可能性を支援し,館内のリソースを外部と共有することと,“facilitated”―利用者ニーズに基づき機関内外や共有のリソースへのアクセスを提供し利活用を促進することへと転換しつつある。メタデータはこうしたコレクションの利活用の実現に不可欠な基盤である。本項では,典拠コントロールが行われていない等,記述・管理に現状課題のあるリソース群として,アーカイブコレクション,ウェブアーカイブ,視聴覚コレクション,画像コレクション,研究データの5つが挙げられた。

●「サービスとしてのメタデータ」の展開

   今後の図書館サービスでは,メタデータ作成へのかかわり方がさらに増え,メタデータを活用し新たな価値を生むサービスの形が見込まれる。例えば,利用指標のコレクション構築・管理・評価等への活用,新たなアプリケーションへの活用,Social Networks and Archival Context(SNAC)等のメタデータのセマンティックインデックスへの転用が挙げられる。

   また,メタデータの提供自体が価値を持つことが想定される。これに関して,デジタル人文学等の研究プロジェクトへのコンサルティング,それに伴うメタデータ専門の図書館員への需要の高まり,図書館メタデータを用いた計量書誌学研究の支援とその成果が紹介された。

●将来の図書館員に必要となること

   情報技術の革新や人員の縮減傾向という背景を踏まえ,新たに参入する他分野の専門家と熟練した目録担当者の両方に必要なスキルと,その涵養のためのアプローチについて提言が行われた。

   まず,書誌作成のみにとどまらず,メタデータ整備作業への新たなアプローチを学び探求し試みる機会を重んじることへの文化の転換が必要である。次に,文化の転換の促進に必要な継続的・効率的な学習の機会を生む工夫として,チーム内で新たなスキルを習得する適性を持った人員を特定し,その学習内容を全体と共有し学びあう場を日常的に持つこと等が挙げられた。また,今後職員に望まれるスキルとして,問題解決力,新たなことに挑戦する意欲,研究者のニーズへの理解,アドヴォカシー能力等が挙げられた。最後に,多くの目録作成の役割と記述に対し,今後は刷新・再構築が必要となりうることが述べられている。そして,現状の再考は必要であるものの,メタデータの専門家が今後も永続的に担うであろう役割に,マネジメント,新たな動向の調査,戦略策定,新たな国際標準への参加,変革の主導と実行,全体像の検討等を挙げている。

   報告書では,結論として,次世代のメタデータが「実体」にさらに焦点を当てたものとなり,コレクションの記述の方法,「サービスとしてのメタデータ」の提供,将来の図書館員に必要とされるスキル等に影響を与えると予測している。同グループは,報告書を通して,図書館サービスの基盤たるメタデータ,それを支える人的資源の育成・確保の課題を図書館界共通のものとして喚起する。現場の図書館員と図書館管理者,いずれの立場にも関わる示唆に富んだ報告である。

Ref:
Smith-Yoshimura, Karen. Transitioning to the Next Generation of Metadata. OCLC Research, 2020, 46p.
https://doi.org/10.25333/rqgd-b343
Dempsey, Lorcan. “A new information management landscape”. New roles for the road ahead: Essays commissioned for ACRL’s 75th anniversary. Allen, Nancy.; Wilson, Betsy eds. ACRL, 2015, p. 50–55.
http://www.ala.org/acrl/sites/ala.org.acrl/files/content/publications/whitepapers/new_roles_75th.pdf
Dempsey, Lorcan. Library Collections in the Life of the User: Two Directions. LIBER Quarterly, 2016, 26(4), p. 338–359.
http://doi.org/10.18352/lq.10170
和中幹雄, 古川肇, 永田治樹. 書誌レコードの機能要件:IFLA書誌レコード機能要件研究グループ最終報告(IFLA目録部会常任委員会承認). 日本図書館協会, 2004年, p. 121.
https://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbr/frbr-ja.pdf
武田英明. Linked Dataの動向. カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1746, p. 8-11.
https://doi.org/10.11501/3192158