E2449 – 国際会議National Libraries Now 2021<報告>

カレントアウェアネス-E

No.425 2021.11.25

 

 E2449

国際会議National Libraries Now 2021<報告>

電子情報部電子情報企画課・奥村牧人(おくむらまきと)

 

   2021年9月16日から17日にかけて,国立図書館のキュレーションに関する国際会議“National Libraries Now 2021”(以下「NLN2021」)がオンラインで開催された。本稿では,筆者がパネリストとして参加したパネル13「スポットライト:デジタルツールによる課題解決」の内容を中心に報告する。

●会議の概要・目的

   NLN2021は,英国図書館(BL),ベルギー王立図書館(KBR),ジャマイカ国立図書館のキュレーション担当職員によって企画され,欧州国立図書館員会議(CENL)からの助成を受けて開催された。

   NLN2021の目的は,国立図書館のコレクションに直接携わる図書館関係者を集めて,キュレーターとしての現在の実践と新しいアプローチを共有すること,そして,国際連携につながる長期的なネットワークを構築することである。

   NLN2021では19のパネルが設置され,各パネルでは統一テーマを掲げて,発表およびディスカッションが行われた。パネルのテーマには,納本制度,パンデミックにおける図書館運営,持続可能性,コミュニティとの協力,資料保存,デジタルツールによる課題解決など,キュレーションに関するテーマにとどまらず,国立図書館が現在直面するさまざまなテーマが掲げられた。

●パネル13「スポットライト:デジタルツールによる課題解決」

  同パネルは,タイトルが示すとおり,課題解決に資する各館のデジタルツールについて,パネリスト3人が紹介するものである。ひと言に「デジタルツール」といっても,各パネリストの報告は多様であった。例えば,筆者は,様々な分野のデジタルアーカイブを検索・閲覧・活用するためのプラットフォームであるジャパンサーチ(E2317参照)について報告し,KBRからは,16世紀の銅板の表面構造を可視化し共有するためのデジタル技術について,ドイツ国立図書館(DNB)からは,典拠データファイルを分析・抽出するツールについて,それぞれ報告があった。報告するデジタルツールの対象,事業規模などはさまざまであり,「デジタルツール」以外の共通点がないように見受けられたが,モデレーターを務めるBLのマクレガー(Nora McGregor)氏が「デジタルツールを開発した理由は何か。当該ツールによって解決する可能性のある課題は何か。」と,パネリストに投げかけた質問によって,共通する課題が浮き彫りになった。

  マクレガー氏の質問に対し,KBRは,銅板のデジタル化の直接的なきっかけは同館内の地図室からの依頼であったが,当該取り組みによりCOVID-19下において利用者同士が自宅の端末で双方向的にやりとりをしながら調査・研究することができたと報告した。また,DNBは,典拠ファイル分析ツールの開発のきっかけは典拠ファイルユーザーのコミュニティからの要請であったが,膨大な典拠ファイルを抽出し,フィルタリングできる機能を持つデジタルツールは,ユーザーコミュニティを超えて,レファレンスなどさまざまな利活用が期待されると報告した。筆者は,ジャパンサーチの開発について,日本の貴重な文化財に容易にアクセスできるようにし,それらさまざまな文化財の一層の活用を促す(E2398参照)ことが開発の背景にある旨を報告した。

   KBRとDNBのデジタルツールは,共に一部の部署やユーザーからの依頼を端緒として取り組みを始めたものだが,その効用は一部にとどまらず,多くのユーザーが受益する可能性を持っていると感じた。両ツールには,これまで十分に認知されてこなかった情報を可視化し,共有することで,多くのユーザーによる情報の利活用を促すという共通点がある。さらに,報告の中では,情報の利活用を促進するだけでなく,新たな価値を生み出す側面も持つといった趣旨の発言があった。例えば,DNBの典拠ファイル分析ツールは,ツールのコードをオープンソースにするなど創造的な利活用を可能にしている,とのことである。データの集約とオープン化を創造的な活動に結び付ける好事例といえる。情報の可視化と共有,さらにオープン化は,ジャパンサーチのメタデータ連携が目指す方向性でもある。ジャパンサーチについては,フロアから,ジャパンサーチ上で閲覧できるコンテンツをどのようにアップロードしているのかとの質問があった。質問に対し,ジャパンサーチは,トップのスライド画像等を除き,コンテンツそのものを収集しておらず,サムネイル画像URLやコンテンツURLをメタデータとして収集し,ジャパンサーチ上で表示させている旨回答した。

  デジタル化された情報がツールの効果的な活用によって,課題解決に資するだけでなく,当該情報に関与するユーザーの裾野を広げ,創造的な活動に寄与する可能性を見せてくれた国際会議であった。オンライン会議の普及により,国際会議への参加のハードルが低くなっている。館の事業を誰もが理解しやすい表現で説明し,さまざまな意見や質問に触れることは,国際社会における自らの立ち位置を知る上でも非常に有意義である。

Ref:
National Libraries Now 2021 Digital Conference.
https://nln2021conference.wordpress.com/
“New dimensions take a deeper look at heritage”. heritage-visualisation.org.
https://www.heritage-visualisation.org/news_presstext_english.html
“METADATA SERVICES”. German National Library.
https://www.dnb.de/EN/Professionell/Metadatendienste/metadatendienste_node.html
ジャパンサーチ.
https://jpsearch.go.jp/
ジャパンサーチ正式版の機能紹介. カレントアウェアネス-E. 2020, (401), E2317.
https://current.ndl.go.jp/e2317
青木和人. 日本初のジャパンサーチ・タウンをオンラインで開催<報告>, カレントアウェアネス-E. 2021, (415), E2398.
https://current.ndl.go.jp/e2398