E2398 – 日本初のジャパンサーチ・タウンをオンラインで開催<報告>

カレントアウェアネス-E

No.415 2021.06.24

 

 E2398

日本初のジャパンサーチ・タウンをオンラインで開催<報告>

アーバンデータチャレンジ2020京都府ブロック/Code for 山城・青木和人(あおきかずと)

 

●はじめに

   地域課題解決のために市民がITを活用して,社会課題を解決するシビックテックが日本でも盛んになりつつある。オープンデータを用いた地域課題解決コンテストであるアーバンデータチャレンジ(UDC)の地域拠点の1つUDC京都府ブロックと,市民のIT技術を使って地域を元気にする活動をしているCode for 山城は,このシビックテック活動を京都にて展開している。2019年には,国立国会図書館(NDL)との共催で,地方公共団体のオープンデータや,NDLなどが公開する国内の美術館・図書館・公文書館・博物館(GLAM)分野のデータを用いたアイデアソン,ハッカソンを,けいはんな学研都市に所在するNDL関西館を会場として行った(UDC京都2019;E2235参照)。

   2020年度は,2020年8月にジャパンサーチが正式公開されたことから(E2317参照),NDLとの共催により,日本初となるジャパンサーチを用いたシビックテック「ジャパンサーチ・タウン」のvol.1を2020年10月31日,vol.2を12月5日と2日間,コロナ禍を考慮してオンラインで開催した。ジャパンサーチ・タウンでは,地域活性化のため,ジャパンサーチが連携するGLAMデータ内の地域に関連する情報をキュレーションした作品やアプリケーション作品が,市民主体で作成された。

●ジャパンサーチ・タウンの様子

   vol.1には,けいはんな学研都市地域の住民や全国各地からの企業・行政・図書館関係者,大学院生・大学生など約30人が集まった。午前は天理大学教授の古賀崇氏によるジャパンサーチの教育・学習面への期待・要望に関する講演の後,ゼノン・リミテッド・パートナーズの神崎正英氏によるAPI(SPARQLエンドポイント)の解説と,ジャパンサーチのコンテンツをキュレーションするワークスペース機能の紹介があった。午後は,参加者のチームビルディングを行い,4つのチームが編成された。各チームではコンテンツのキュレーションテーマやAPIを使用したアプリケーションのアイデアを出しあった。

   vol.2では,各アイデアをチームとしてブラッシュアップし,終日,ジャパンサーチのワークスペース機能によるキュレーション作品の作成やAPI利用によるアプリケーションの開発が行われた。最後に各チームの発表にて成果が披露された。

●各チームの成果

  • COVID-19チーム
       結核・天然痘・コレラ・ペスト等といった感染症に関する資料のキュレーションを通じて,さまざまな時代・地域の人々の様相と現代社会の比較を試みたキュレーション作品やCOVID-19の流行に伴う公共図書館の休館に関する資料を集めた作品が紹介された。
  • 竹チーム
      「けいはんな・かんさい『竹』風土記」と題して,けいはんな地域における工業,食,工芸,民話,イベントと竹との関係を,ジャパンサーチのワークスペース機能を使用し,美術・工芸品,映像資料等を通じて紹介するキュレーション作品が紹介された。
  • 偉人チーム
      「けいはんな学研都市先人の足跡」と題して,けいはんな地域の先人である「橘諸兄」に関する情報がキュレーションされた。ジャパンサーチのデータだけでなく,vol.1とvol.2の間にチームメンバーが独自に,現地視察や関西館等での文献調査を行い,撮影した写真を用いたWikipediaの新規記事の作成や既存の記事の加筆を行った。また,「uMap」(地図の表示や作成を行えるオープンソースのウェブサービス)を使用した地図やワークスペース機能による年譜も合わせたキュレーション作品が作成された。
  • API開発チーム
       SPARQL APIを使用して美術品等のサムネイル画像を取得し,作者・年代・所蔵機関等の共通点を持つ資料の組み合わせを神経衰弱の要領で探しながら学習するゲームアプリのデモンストレーション版を開発した。

●おわりに

   本取組では,地域課題解決のため,地域に関連するコンテンツを市民主体でまとめるツールとしてのジャパンサーチの活用ができた。その成果は,NDLにおいてジャパンサーチの教育,学術・研究における成果とともに,地域活性化事例として評価されている。

   また,本取組ではコロナ禍でリアルなイベント開催が難しい状況の中,特に関西館周辺のけいはんな学研都市に関心を寄せる市民を主体としつつ,他にも多様な参加者が全国各地からオンラインで集まり,地域に関連するコンテンツを作成することができた。それが実現できたのは,さまざまな機関のデジタルアーカイブコンテンツをオンライン上で閲覧・利用可能なジャパンサーチが公開されたからこそであった。

   今回の取組は「ジャパンサーチ・タウン」という名称を冠した日本初のイベントとして,その在り方を模索した企画でもある。ジャパンサーチを砂場として,ジャパンサーチコンテンツ,その他GLAMデータや行政オープンデータという砂を,WikipediaやuMapのようなツール,いわばスコップや熊手で,掘り返し,自由に組み合わせ,多様な人材が新しいキュレーション作品を創り出した。そして,その活動を通じて,新たなコミュニティが形成され,イベント後には,各個人の地域活動へとつながっていくものともなった。それにより,ジャパンサーチのコンテンツを既存概念だけに留めることなく,自由な形に造形し,それを通じてバーチャルな「タウン」が形成されるという,一つのモデルを作ることができたと考えている。

   2021年度も,引き続き猛威を振るうコロナ禍で日本全国が意気消沈している状況の中,上記の成果を踏まえてオンラインでのジャパンサーチ・タウンを各地で開催し,地域コンテンツをキュレーションすることで,全国を大いに盛り上げていきたい。

Ref:
“2020”. Urban Data Challenge.
https://urbandata-challenge.jp/category/2020
Code for 山城.
https://ujigis.wordpress.com/
“2020UDC京都 in NDL関西館 ジャパンサーチ・タウン(オンライン開催)”. connpass.
https://udc-kyoto.connpass.com/event/191672/
“2020アーバンデータチャレンジ京都:ジャパンサーチ・タウン”. NDLラボ.
https://lab.ndl.go.jp/event/udc2020/
国立国会図書館. “資料2 ジャパンサーチ正式版公開後の状況報告”. 全体戦略ワーキンググループ・ジャパンサーチワーキンググループ(第1回合同). 2020-10-29. 知的財産戦略本部.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/zentaiwg/dai1/siryou2.pdf
青木和人. 2019アーバンデータチャレンジ京都 in NDL関西館<報告>. カレントアウェアネス-E. 2020, (386), E2235.
https://current.ndl.go.jp/e2235
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室. ジャパンサーチ正式版の機能紹介. カレントアウェアネス-E. 2020, (401), E2317.
https://current.ndl.go.jp/e2317