カレントアウェアネス-E
No.394 2020.07.09
E2275
あっちこっち れはっち!:ウィキペディアタウンに連れてって
ちーむれはっち・野津拓也(のづたくや)
●はじめに
2019年11月9日,および,12月7日の2日間にわたって,国立国会図書館関西館にてデジタル素材を用いたアイディア出し(アイデアソン)とプロトタイプ検証の場(ハッカソン)が設けられた。これは一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会等が主催するコンテスト「アーバンデータチャレンジ2019」の中の1つのイベント(E2235参照)として行われたものである。本稿では筆者がちーむれはっちのメンバーとして参加し,2020年3月14日の最終審査会において,日本全国で実施されたイベントの中で国立国会図書館賞として選出された「あっちこっち れはっち!」プロジェクトについて紹介する。
●アーバンデータチャレンジを活用した地域課題解決
アーバンデータチャレンジや当日の様子に関する詳細な説明は他稿(E1709,E2235参照)に譲るが,筆者の勝手な解釈では自分たちの街の,自分たちの困りごとを,自分たちの手でオープンデータ等を用いて解決する取り組みであり,新たに知り合った仲間とコンテストという期限に向かってプロトタイプ検証を行う場と捉えている。また,この期限は単なるマイルストーンの1つであり,その後もスクラップ&ビルドを繰り返しながら自分たちの街で自分たちにとって本当に役に立つサービスを作り出す取り組みと考えている。講評による第三者視点や表彰によるモチベーションも与えられ,地域課題の解決においては日本で最高峰の取り組みの1つと思っている。
●レファレンス協同データベースを用いた,「あっちこっち れはっち!」プロジェクト
「あっちこっち れはっち!」とは,Wikipedia編集やウィキペディアタウン(CA1847参照)の活動を支援するサービスである。
Wikipediaの編集者にとっての最大の課題は,(1)未整備のWikipediaの記事を見つけること(2)編集は文献に基づく必要があるため良質な参考文献を見つけ出すこと,である。そこで本プロジェクトではこの2点の課題を下記の方法で解決することを狙った。
れはっちとは,ご存知の通り国立国会図書館が全国の図書館等と協同で構築している調べ物のためのデータベース「レファレンス協同データベース(レファ協)」のイメージキャラクターである。このかわいい「れはっち」がバーチャルな図書館員としてWikipediaに項目が存在していない地名・施設名や未整備のWikipediaの記事を見つけアドバイスをしてくれるサービスが「あっちこっち れはっち!」である。
このれはっちは,ロボット形態で音声によりアドバイスしてくれるものや,デジタル形態でスマートフォンのLINEアプリの中の一部として存在しているものもあり,「嵐山に来たよ」等と話しかけることで,地名などのキーワードをヒントに,Wikipediaに記事を書きたくなるような色々なお役立ち情報を提供してくれる。現状は,ユーザーがれはっちに問いかけた時に応答する形態のみであるが,街歩き中に活躍してもらうため,将来的には現在自分がいる場所に応じて自発的にアドバイスするような形態も取り入れていきたい。
お役立ち情報の出典には全国の図書館員の英知の結集であるレファ協掲載のレファレンス事例を利用している。良質な文献を基にした素晴らしいレファレンス事例が多数ありこれを利用しない手は無いと考えたからである(情報源を増やしていく予定だが現状はレファ協のみ)。将来的には図書館関係者がレファ協に入力した内容が今よりもWikipediaに利用されていることだろう。今後もレファ協を充実させていくことを通じて各自の街に,そして世界に貢献していって欲しい。
●図書館発のオープンソースプロジェクト
本サービスは,今後,日本の図書館発のオープンソースプロジェクトとして広く開発者,協力者を募り,実施していければと考えている。LINEアプリ版の「あっちこっち れはっち!」を実際に操作し,感想,改善提案,協力の申し出,等入力頂けると幸いである(例:【コメント】●●のようなアイディアはどうか)。
●おわりに
このかわいい「れはっち」を連れて,あっちこっち散策して,Wikipediaに地域のことを発信して街を盛り上げよう!
Ref:
“アーバンデータチャレンジ2019において国立国会図書館賞が授与されました”. 国立国会図書館. 2020-03-16.
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2019/200316_02.html
NDL Lab. “データ活用例の紹介 あっちこっち れはっち!”. 国立国会図書館.
https://lab.ndl.go.jp/data_set/usecase/
Urban Data Challenge. “2019イベントレポート”. 一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会.
https://urbandata-challenge.jp/category/2019/event19
瀬戸寿一. 地域課題解決に向けた空間情報の活用‐UDC2015本格始動!. カレントアウェアネス-E. 2015, (288), E1709.
https://current.ndl.go.jp/e1709
青木和人. 2019アーバンデータチャレンジ京都 in NDL関西館<報告>. カレントアウェアネス-E. 2020, (386), E2235.
https://current.ndl.go.jp/e2235
是住久美子. ライブラリアンによるWikipedia Townへの支援. カレントアウェアネス. 2015, (324), CA1847, p. 2-4.
https://doi.org/10.11501/9396322