E2276 - 新しい公共空間を考える:オンラインフォーラムの試行と展望

カレントアウェアネス-E

No.394 2020.07.09

 

 E2276

新しい公共空間を考える:オンラインフォーラムの試行と展望

県立長野図書館・朝倉久美(あさくらくみ)

 

  県立長野図書館は2015年から5年間にわたって取り組んできた改革事業(CA1916参照)の集大成として,共知・共創をコンセプトとした「信州・学び創造ラボ」(以下「ラボ」;E2164参照)の設計と運営に乗り出した。さらに,2020年4月25日にはラボのオープン一周年記念事業として,これからの図書館や公共空間とは何かをあらためて問い直すオンラインフォーラム「こっそりごっそりとしょかんをかえよう-公共空間としての図書館をデザインする-」を企画した。これまで当館のフォーラムやワークショップに関わってきた人々(三浦丈典氏,李明喜氏,瀧内貫氏)と,前館長の平賀研也氏による対談イベントである。

   3月に入り,新型コロナウイルスの感染拡大防止のために集客型企画の延期または中止を余儀なくされる中,テレビ会議システムZoomを活用したオンラインイベントの開催を視野に入れ始めた。おそらく当面は事態の収束が見られないであろうということ,非常事態下においても図書館機能をできるだけ止めたくないという思いからの決断だったが,ウェブへの移行を決めた最大の理由は,インターネット空間もまた「新しい公共」を考える場のモデルになりうると考えたからである。

  まずはテストを兼ねて,3月29日に上記フォーラムのプレイベント(予告編)を配信した。話者の前向きな姿勢や参加者からのリアクションは,運営サイドにとってオンラインでの実施への大きな後押しとなった。続けてフォーラム本編もウェブ開催へと転換すべく,課題の洗い出しを行うとともに,スタッフ体制を見直すことにした。フォーラム全体の調整を担う職員2人に機材および制御担当の2人を加え,話者との打ち合わせや接続リハーサルを複数回設けながらシミュレーションを重ねていった。その中で新たな準備事項として,ウェブコミュニケーションを円滑にするためのゆるやかな決めごと(グランドルール)を参加者と共有すること,配信トラブル等に備えて録画映像を後日公開すること,途中参加者にも流れがわかるように対話記録をグラフィックレコーディングとして常時提示しておくことなどを追加した。

  当フォーラムの趣旨は,ウェブという空間にインタラクティブな場を成立させることであり,参加者は一方的な視聴者ではなく,Zoomを活用して共にコミュニティをつくる一員であるととらえている。とはいえ,最終的に申込者82人,パブリックビューイング参加者を含めると100人を超える規模となったため,事前質問をあらかじめメール募集するとともに,Zoomのチャット画面に書き込まれた質問をピックアップして回答するというシンプルなコミュニケーション方法へと切り替えた。申込の時点で参加者の属性は尋ねていないが,図書館関係者の割合はおよそ半数程度で,その他「公共空間」や「デザイン」というキーワードに興味を持った人が多いのではと感じた。

  本番は内容,配信ともにスムーズに進行し,常時70人程度が視聴状態にあった。参加者の反応も好評で,終了後には「話者の言葉から現場の実感や,リアルな公共空間が持つデザインの指針を受け止めた」などの感想メールも多数いただいた。また,参加者からの要望に応える形で,急遽アフターイベントも設定することとなった。

  このたびのフォーラム開催にあたり重視したのは,ウェブ対話という方式に意味を持たせることである。リアルな集客型イベントを単にバーチャルへ移行させるだけではなく,心地よいオンラインコミュニケーションのあり方を追求することを忘れてはならない。実際に,オンラインイベントを計画している図書館員から問い合わせや相談がいくつか寄せられているが,ウェブ開催は目的ではなくあくまでも手段だということを共有するようにしている。バーチャルかリアルかを問うのではなく,いかにして必要な情報を届けるかを考えた結果としてのウェブであり,よりよい方法を選択していくことが重要だろう。

  長野県は山間地が多く,実際に図書館へ足を運ぶのが困難な人も多い。県民が情報にアクセスできる手段を増やすべく,イベント配信を含め図書館サービスをデジタルシフトすることの意義は大きい。その反面,機器の導入やネットワークの敷設状況など,デジタル環境の有無が新たな経済格差や地域格差を生むことも確かである。あらゆる人に情報をつなぐために,デジタルツールを含めた様々な手法を考え,内容に合わせて活用できるいくつかの選択肢を持っておくことが,情報発信基地であるこれからの図書館および図書館員の責務であるといえよう。

Ref:
“こっそりごっそり図書館をかえよう”. YouTube. 2020-05-28.
https://www.youtube.com/watch?v=uymj1fYkyLk&t=985s
“【web開催】「こっそりごっそりとしょかんをかえよう」-公共空間としての図書館をデザインする-”. 県立長野図書館. 2020-04-28.
https://www.knowledge.pref.nagano.lg.jp/now/news/futurelibnagano_200425.html
“【Zoom配信】予告編:公共空間としての図書館をデザインする「“こっそりごっそりとしょかんをかえよう”の そのまえに」”. 県立長野図書館. 2020-03-19.
https://www.knowledge.pref.nagano.lg.jp/now/news/kannai_200329.html
“【Web Cross Talk!】“こっそりごっそりとしょかんをかえよう” の そのあとに”. Facebook.
https://www.facebook.com/events/716314339138200/
小澤多美子. 県立長野図書館「信州・学び創造ラボ」の整備と現状. カレントアウェアネス-E. 2019, (374), E2164.
https://current.ndl.go.jp/e2164
北原美和. 県立長野図書館の改革事業とネーミングライツ制度の導入. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1916, p. 4-7.
https://doi.org/10.11501/11062620