E2164 – 県立長野図書館「信州・学び創造ラボ」の整備と現状

カレントアウェアネス-E

No.374 2019.08.08

 

 E2165

県立長野図書館「信州・学び創造ラボ」の整備と現状

県立長野図書館・小澤多美子(おざわたみこ)

 

   2019年4月6日,県立長野図書館の3階に「信州・学び創造ラボ(以下「ラボ」)」がオープンした。ラボは「共知・共創(共に知り,共に創る)」をコンセプトに掲げた「これからの図書館や公共空間のあり方」を考えるための実験室である。

   当館は1979年に現在の地に移転新築され,ここ15年ほどは1階が児童図書室,2階が一般図書室,3階に会議室や閲覧室(自習室)という構成だったのだが,このたび3階フロアのおよそ半分強におよぶ約900平方メートルをリノベーションし,様々なアウトプットやインプットを促すタッチポイントを埋め込んだラボとして整備したのである。例えば,3Dプリンターやレーザーカッターなどを備えた「ものづくりゾーン」や簡易キッチン,グループミーティングが可能なブース,そのほか,約110年前の創設時に収蔵していた資料群を収めた「信州情報探索ゾーン」などがある。ここは,人と人がつながり共に学び合いながら,新たな社会的価値を生み出していくためのモデル空間を目指している。

●図書館における「空間としての可能性」

   当館は「これからの図書館」のあり方として,知識基盤社会に不可欠な「情報基盤」や,地域に根ざし未来を創っていくための「学びの核」となる機能をもつこと,役割を果たす場になることを重視しており,それを実現するために2015年度から「人・情報・空間」の変革を柱とする大小さまざまな改革事業を進めてきた(CA1916参照)。

   こうしたプロセスを経たことで,「学びと自治」をすべての政策の推進エンジンに据えた『長野県総合5か年計画:しあわせ信州創造プラン2.0』や『第3次長野県教育振興基本計画』(いずれも2018年度スタート)においても,長野県における政策的重点課題に関連して,図書館がもつ「空間としての可能性」とその「整備の必要性」が初めて明記されたのである。

●みんなでつくる「公共」

   ラボが「新たな社会的価値を創造する場」となるためには,行政が用意したハコとサービスを利用者が一方的に消費するという関係性ではなく,自立した市民が主体的に運営に関わり続けていくことが必要である。そこでラボにおいては,整備段階からオープンに至るまでに何度もワークショップを重ね,県内外から延べ300人を超える「これからの図書館や公共空間のあり方」に関心のある方々に参加いただきながら,空間デザインコンセプトや運営の方法等について意見を出し合ってきた。

   こうした機会はラボがオープンした現在も継続して開催しており,場ができたことで見えてきた,より具体的なテーマや運営の課題について毎回意見が交わされている。みんなで対話し公共空間を創り上げていくこのプロセス自体が,ラボのコンセプトである「共知・共創」を体現するものであり,「これからの図書館」が持つべき「人と人をつなぐ」機能として大切なことではないかと考える。

   現在オープンして4か月が経つが,個人やグループ利用のほか,週末の土日はほぼ毎週ワークショップスペースを使った多人数の企画が行われている。目立つのは,既存の組織・団体である県の様々な部局や商工団体による対話の場や創業支援のワークショップといった利用だが,それとは別に,NPO法人主催の教育映画の上映会やICT関係の社会人による自主勉強会等も自由に行われており,ラボを起点に新たなつながりをうみ,多様な交流を実現している人も徐々に現れ始めていることがうかがえる。興味深いのは,既存の組織が行う定例の企画ですら,誰もが自由に利用できる「開かれた場」というラボの特性を意識することにより,フラットで対話的な工夫が自然となされているように感じられることである。多様な人たちがそれぞれのやりたいことを通じて「公共の場」としてのラボを形作ることに関わっているといえるのではないだろうか。

●「コミュニティ」は創れるのか

   このように,関心を持った人たちがはじめの一歩を踏み出し,自立的な運営がなされるコミュニティが創られていくための基盤づくりとして,いくつかの外部機関との連携も進めている。例えば3Dプリンターなどが設置されている「ものづくりラボ」の活用を図りつつ長野県における創造的な学びのプロセスを整えることを目的とした,信州大学教育学部附属次世代型学び研究開発センター・Fablab長野および株式会社アソビズムとの三者による覚書締結や,「「本」を巡る新しいサービスの実現」を目指した株式会社バリューブックスとの連携協定である。

   こうした取り組みはすべて「どうしたら人と人がつながりあうことができるのか=コミュニティは創れるのか」を模索するための公共の場における実験であるが,それはこのラボで実現させることだけが目的ではなく,県立図書館の役割として,「人・情報・空間」のつながり方に関する実験結果を県内の市町村立図書館に向けて発信し,「これからの図書館」づくりのヒントとして受け取ってもらうことが目指すところである。

   そうしたことを通じて,信州の各図書館がそれぞれの地域の中で,これからの情報基盤社会においてより一層必要とされる拠点として進化することを期待している。

Ref:
http://www.library.pref.nagano.jp/category/学び創造ラボ
https://www.pref.nagano.lg.jp/kikaku/kensei/soshiki/shingikai/ichiran/sogokeikaku/keikakuan.html
https://www.pref.nagano.lg.jp/kyoiku/kyoiku02/gyose/zenpan/keikaku/keikaku-3.html
http://www.library.pref.nagano.jp/futurelibnagano_180505
CA1916