カレントアウェアネス-E
No.374 2019.08.08
E2165
欧州の国立図書館における複写サービスの現状
利用者サービス部複写課・伊藤暁子(いとうあきこ)
筆者は2018年11月にイタリア,英国,デンマーク,スウェーデンの国立図書館を訪問し,複写サービスの現状について調査を行った。本稿では,その概要を報告する。
なお,今回訪問したのは,ローマ国立中央図書館,フィレンツェ国立中央図書館,英国図書館(BL),デンマーク王立図書館及びスウェーデン王立図書館であり,本稿の記述はすべて訪問時のヒアリングに基づく。
●図書館における複写サービス
複写サービスは,いずれの図書館でも日本と同様に,各国の著作権法等の法令及び各館の運用規則等に基づいて提供される。非商用利用(日本の著作権法でいう図書館等における複製の「調査研究の用」に相当)の場合,複写が可能な範囲は,イタリアでは市販資料は各著作物の15%まで,英国では図書は各著作物の5%まで,雑誌は掲載された一論文のみ,スウェーデンでは各著作物の25%までである。
また,図書館での複写サービスは,原則として,イタリアではSocietà Italiana degli Autori ed Editori(SIAE),英国ではCopyright Licensing Agency(CLA)などの著作権管理団体を通じた著作権料の支払に基づいて可能となっている。さらに,利用者は著作権法等に従って複写サービスを利用することが求められており,イタリアでは複写サービスを利用する際に著作権法等を順守する旨の申告が必要とされるほか,英国及びスウェーデンでは著作権法等を順守して複写サービスを利用するよう館内の掲示等で案内を行っている。
●複写物の電子的提供
各館では,非商用利用の場合,複写物を電子的に提供することが可能であるが,デンマークではパブリックドメインの資料のみを対象とすること,英国では暗号化して利用者だけが読めるようにするDRM Liteを用いて送付することなど,各館で一定の条件が設けられている。
いずれの図書館でも,来館サービスでは,利用者自身が閲覧室等に設置されたスキャナを用いてスキャンデータを作成している。作成したデータを各自のUSB等に保存,又はメールで送信することも可能である。また,遠隔サービスでは,申込時の利用者の指定によりPDF等の形式の電子ファイル又はそのリンクをメールで送付して提供することが可能である。
●利用者の持込みカメラによる撮影
デンマークではパブリックドメインの資料のみを対象とするなど各館により一定の条件が設けられているが,図書館における複写サービスの一つとして,非商用利用の場合,いずれの図書館でも利用者が持ち込んだカメラ,スマートフォン,タブレット等による撮影が可能である。なお,イタリアにおいては,博物館等で認められていた持込みカメラ等による撮影を図書館でも可能にする新しい法令が2017年に制定されたことで可能となった。
●デジタルスキャニングサービス及びデータの活用
非商用利用の場合,利用者の求めに応じて各館が所蔵資料をデジタル化してデータを利用者に提供するデジタルスキャニングサービスもいずれの図書館でも行われている。作成したデータは原則として消去するが,各館で必要と判断したデータは保存して活用する場合がある。例えば,スウェーデンでは高画質の地図,写真等のスキャンデータを保存して,次に申込みがあった場合に活用している。
また,データを活用する特徴的な取組として,英国では学位論文を対象にE-Theses Online Service(EThOS)において,デンマーク及びスウェーデンではパブリックドメインとなった資料を対象にeBooks on Demand(EOD)において,利用者の求めに応じてデジタル化し無料でデータを公開するサービスを行っている。その他にも,デンマークでは1701年から1918年に国内で刊行された図書を対象にDanish Books on Demand(DOD)において,スウェーデンでは1830年から1920年に刊行されたパブリックドメインの小冊子について,各館独自に同様の取組が行われている。
●著作権管理団体との協調
訪問した館においては,提供する複写サービスが,著作権管理団体を通じた著作権料の支払に基づいて可能となっているなど,著作権管理団体との協調が特徴的である。その他,デンマーク及びスウェーデンではLicense Agreementの積極的な活用が図られている。また,スウェーデンでは,著作権管理団体Bonus Copyright Access(BCA)の加盟団体との交渉を通じて2015年に新聞の原紙からのデジタル化事業を開始している。2018年11月現在,450タイトル以上の主要紙の館内閲覧及び複写が可能であり,今後もBCAの加盟団体との交渉を通じて,多様な資料のデジタル化を目指している。
Ref:
https://www.siae.it/it
https://www.cla.co.uk/
https://www.bl.uk/help/how-to-open-your-on-demand-order
https://www.gazzettaufficiale.it/eli/id/2014/5/31/14G00095/sg
https://www.gazzettaufficiale.it/eli/id/2017/08/14/17G00140/sg
https://ethos.bl.uk/Home.do
https://books2ebooks.eu/en
http://www.kb.dk/en/nb/samling/dod/index.html
https://www.bonuscopyright.se/