E2864 – 欧州の国立図書館におけるデジタル複写サービス

カレントアウェアネス-E

No.518 2026.02.12

 

 E2864

欧州の国立図書館におけるデジタル複写サービス

国立国会図書館利用者サービス部複写課・五百藏謙(いおろいけん)

 

●はじめに

  筆者は、2025年の10月から11月にかけて、フィンランド国立図書館(NLF)、ドイツ国立図書館(DNB)、オランダ国立図書館(KB)、英国図書館(BL)、スコットランド国立図書館(NLS)を訪問し、電子ファイルにより複写物を提供するサービス(以下「デジタル複写サービス」)の現状についての調査を行った。

  日本では、2021(令和3)年の著作権法改正(E2412参照)によって、一定の条件のもとで、図書館資料の複写物を電子メール等で送信すること(図書館等公衆送信サービス)が可能になり、併せて著作権者の正当な利益の保護を図るために、補償金制度が導入された。法改正によって設置された「図書館等公衆送信サービスに関する関係者協議会」での合意をうけ、国立国会図書館(NDL)では、「遠隔複写(PDFダウンロード)」として、2025年2月からサービスを提供している。

  日本における図書館等公衆送信サービスの開始から約1年が経過し、サービスを行う公共図書館、大学図書館等も増加している一方で、著作権法上の制約や補償金制度への理解をどう広げていくかなど、課題も抱えている。

  欧州各国の国立図書館の多くでは、日本よりも先んじてデジタル複写サービスを導入しており(E2165E2298参照)、今回訪問した各館も同様である。本稿では、各館で行ったインタビューをもとに、調査結果の概要を、遠隔と来館の二つの側面から紹介する。

●遠隔によるデジタル複写サービス

  まずは、来館せずに申し込み、複写物を受け取ることができる遠隔でのサービスについて紹介する。今回訪問した各館では、利用者は公共図書館や大学図書館などの機関を経由して、あるいは本人が直接、遠隔でのデジタル複写サービスに申し込むことができる。いずれも紙での提供よりも電子ファイルでの提供の方が利用されているとのことだった。ただし、2025年11月現在、BLは2023年10月に発生したサイバー攻撃(E2700参照)の影響で、個人の利用者からの申込み受付を休止している。

  申込み方法は、電子メール(NLF、DNB)や、申込みフォーム(NLF、KB、NLS)と各館で異なっているが、いずれも電子的に受け付けている。またNLFとKBでは、申込みフォームに加えて、資料検索サービス(NLFではFinna.fi、KBではWorldCat)から申込みをすることができる。複写物の提供は、各館とも電子ファイルへのリンクを電子メールで送信している。NLFではファイルサイズが小さい場合に限り、電子メールに添付して送信している。

  複写は著作権法上の制約の下で行われるため、一冊の全てを複写することはできない。ただし、フィンランドや英国では、図書館協力の枠組みで電子ファイルでの複写物の提供を行っており、機関経由の場合は著作権の制約を受けることなく利用することができる。

  また、オランダ以外では日本の補償金制度に類似した制度がある。フィンランドでは、出版物の種別や分野ごとに個別に結ばれる協定に基づいてデジタル送信の可否が定められており、新聞や一部のジャーナルは補償金を支払うことでデジタル送信が可能だが、それら以外の著作権保護期間内の資料は著作権者の許諾なく送信することができない。

●来館でのデジタル複写サービス

  続いて、来館して複写物を持ち帰る形のデジタル複写サービスについて紹介する。各館の館内には、利用者用のスキャナが設置されている。スキャンは、DNB、KB、NLSでは有料、NLFでは無料である。BLでは、サイバー攻撃以前は有料だったが、サイバー攻撃の影響でシステムによる決済ができなくなったことを機に、無料で提供するようになった。いずれも利用者は自身で持ち込んだUSBメモリに保存したり、電子メールで自身のアドレスに送信したりすることができる。著作権については職員が逐一確認することはなく、利用者の自己責任に委ねている。例えばNLSでは、スキャナにログインした際に著作権の案内が画面上に表示されるようになっている。

  また、各館とも私的使用に限り、利用者自身のスマートフォン等で資料を撮影することも可能である。こちらも著作権等については自己責任であるほか、館によって制約がある。例えばNLFでは、古い資料が収められている特別閲覧室の資料は撮影できず、職員しか複写できない。またNLSでは、カウンターで許可を得て「撮影可」の札を貰う必要がある。

  なお、NDLでは一部の古典籍資料を除き、来館複写での電子ファイルによる提供は行っておらず、利用者自身のスマートフォン等で撮影することも認めていない。

●おわりに

  調査の結果、今回訪問した各国の国立図書館では、個人利用だけでなく公共図書館等も遠隔サービスの対象になっていたり、来館してスキャンしたものをUSBメモリに保存したり、スマートフォンでの撮影が可能であったりするなど、広くデジタル複写サービスが行われていることが確認できた。日本においても、利便性の高いデジタル複写のニーズは今後も高まることが予測される。引き続き海外の動向を注視していきたい。

Ref:
“Reprographic service”. Kansalliskirjasto.
https://www.kansalliskirjasto.fi/en/services/reprographic-service
“Digitisation service on demand”. DNB.
https://www.dnb.de/EN/Benutzung/DoD/digitalisierungsservice_node.html
“Ordering scans”. KB.
https://www.kb.nl/en/visitors-members/order-scans
British Library.
https://www.bl.uk/
“Get copies or reproductions”. National Library of Scotland.
https://www.nls.uk/tools-for-research/copying-services/
村井麻衣子. 令和3年著作権法改正:図書館関係の権利制限規定の見直し. カレントアウェアネス-E. 2021, (418), E2412.
https://current.ndl.go.jp/e2412
伊藤暁子. 欧州の国立図書館における複写サービスの現状. カレントアウェアネス-E. 2019, (374), E2165.
https://current.ndl.go.jp/e2165
加藤大地. 南欧の国立図書館における複写貸出サービス. カレントアウェアネス-E. 2020, (397), E2298.
https://current.ndl.go.jp/e2298
岡本史也. 英国図書館へのサイバー攻撃に関する報告書. カレントアウェアネス-E. 2024, (480), E2700.
https://current.ndl.go.jp/e2700