E2298 – 南欧の国立図書館における複写貸出サービス

カレントアウェアネス-E

No.397 2020.09.03

 

 E2298

南欧の国立図書館における複写貸出サービス

関西館文献提供課・加藤大地(かとうだいち)

 

   2019年の晩秋,南欧4か国の国立図書館や大学図書館を実地に訪ね,利用者サービスについて調査を行う機会を得た。訪ねたのはポルトガル,スペイン,イタリアそしてギリシャの4か国である。本稿ではイタリア以外の3か国の国立図書館について職員へのインタビューによって得た見聞をもとに,複写および貸出サービスの実態を紹介したい。イタリアの国立図書館における複写サービスについては同僚の伊藤暁子が2018年にローマとフィレンツェの2館を訪問し(E2165参照),『国立国会図書館月報』第706号に豊富な写真つきでまとめている。イタリア以外の欧州の国立図書館についても知ることができる。ぜひ参照されたい。

●ポルトガル国立図書館

   では訪れた順番にまずはポルトガル国立図書館について紹介しよう。その複写サービスを一言で表せば,自写中心ということになるであろう。同館では特別な手続をすることなく無料で資料を自写することができる。自写というのは,利用者が自ら機器を持ち込んで資料を複写(多くは撮影)することであり,同館は各自がデジタルカメラやスマートフォン等で撮影することを認めている。著作権との関係を担当者に尋ねたところ,研究目的での複製は認められており,その法的責任はすべて利用者が負うとのことであった。資料の扱いや他の利用者に配慮するという基本的なルールのもと,どうやら自写が広く認められているようである。有料の複写サービスももちろん用意されており,その中にはデジタル撮影した画像を利用者に送信するというメニューもある。資料により,また目的により活用されていることは同館の活動報告からも分かるが,個人にとっては経済的な負担が大きく,また国内よりも国外からの申込みが多いことを担当者は話してくれた。

   次に貸出サービスについては,国内外の機関に対して貸出を行っているが,同一の資料を2部以上所蔵している場合に限っている点に特徴がある。また,先の活動報告の2019年版によれば,他機関の資料を同館に取り寄せることもできることになっているが,いずれにせよ活発に利用されている訳ではなく,両者を合わせて300件に満たない数である。

●スペイン国立図書館

   続いてスペイン国立図書館について紹介しよう。ここでも利用者は,事前に司書が確認すれば決められた場所で各自のカメラやスキャナを用いて自写することが許されている。担当者の話では,スペインの著作権法は1958年以降に出版された本なら1冊の20%までの私的複製を認めているようであるが,具体的に説明することを条件に研究目的で全部を複製することができる。また,いわゆる遠隔複写について聞くと,週に150件から200件程度の申込みがあること,そのうち3%くらいが何らかの理由で謝絶になること,複写は事前支払制であることなどを教えてくれた。

   貸出サービスはといえば,ポルトガル国立図書館よりもなお厳しく,同館が3部以上同じものをもっている場合にしか原本の貸出を認めていないが,一方でコピーしたものをデジタル形式で提供することもしている。貸出に関することは全てウェブ上のフォーマットを使って管理しており,図書館などの文化機関のみならず個人研究者向けにも貸出を行っている。担当者によれば週に30件から40件程度の利用があるとのことであった。

●ギリシャ国立図書館

   最後にギリシャ国立図書館を紹介しよう。先の2館とは毛色が違う。スタブロス・ニアルコス財団から巨額の援助を受けて海寄りの現在地に新館が開館したのが2017年である。訪問時も資料を旧館から移転中であり,訪れたときはまだ書架に資料が並ぶのを待っている閲覧室もあった。著作権について定めた国内法により,そもそも図書館に対しても極めて限られた目的でしか複製は認められておらず,そのため同館においてもいわゆる複写サービスは提供されていない。著作権の保護期間が満了した資料は利用者からの求めに応じてデジタル化し,電子ファイルを渡していると担当者は教えてくれた。

   貸出サービスは,経済危機による財源不足・人手不足を理由に行っていないとのことである。そうなると,遠隔地への資料提供サービスとしてはデジタルライブラリーがほぼ唯一となる。

   同じ南欧の国立図書館とはいえ,利用者サービスの実態は様々である。国が違えば当然だが,つい欧州一枚岩のように思いがちであった。今回の訪問は,それを正す良い機会となった。遠方からの訪問者を迎えて案内してくださった3館の方々に心から感謝申し上げたい。

Ref:
伊藤暁子. 欧州の国立図書館と複写サービス. 国立国会図書館月報. 2020, (706), p. 20-23.
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11437005_po_geppo2002.pdf?contentNo=1#page=22
“Informação de gestão”. Biblioteca Nacional de Portugal.
http://www.bnportugal.gov.pt/index.php?option=com_content&view=article&id=83&Itemid=92&lang=pt
“Faq”. National Library of Greece.
https://www.nlg.gr/faq/#633-2
伊藤暁子. 欧州の国立図書館における複写サービスの現状. カレントアウェアネス-E. 2019, (374), E2165.
https://current.ndl.go.jp/E2165