E2297 – 韓国国立中央図書館の新型コロナウイルス対応

カレントアウェアネス-E

No.397 2020.09.03

 

 E2297

韓国国立中央図書館の新型コロナウイルス対応

利用者サービス部政治史料課・河村真澄(かわむらますみ)

 

●はじめに

   2020年1月以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって,韓国国立中央図書館は同年 2月下旬から7月下旬まで,約5か月間の臨時休館となり,その間様々な対応に迫られた。

   本稿では7月31日までの情報を基に,国立中央図書館(本館)およびその付属図書館である国立障害者図書館(同館は6月4日に文化体育観光部直属に移管),国立子ども青少年図書館,国立世宗図書館の取り組みを紹介する。

●国立中央図書館(本館)

   国立中央図書館(本館)では臨時休館中,来館利用者向けの対面サービスを休止する代わりに,自宅で利用できるデジタル資料の提供を拡充した。4月以降,従来からの27種類に加え,韓国の主要学術誌2,000タイトル以上を提供する学術論文データベースDBpiaなど,国内外10種類の民間学術データベースを自宅からも利用可能なサービスに追加した(期間限定)。6月からは,米国の大学・研究図書館協会(ACRL)が発行する書評専門誌に掲載された学術図書等,海外の電子書籍1,352点を追加購入し,計4,057点が館外から利用できるようになった。

   一方で,同館がデジタル化した資料約133万点のうち,オンライン公開されている資料は約21万5,000点にとどまる(2019年12月末時点)。残りの約110万点の資料を対象に,今回のような国家的災害時には一時的に館外からも利用できるよう許諾を求める著作権利用同意キャンペーンを5月6日から展開し,著作権者の協力を仰いでいる。

   また,ウェブ資源アーカイブOASIS(E457参照)の一環として構築している災害アーカイブのテーマに新型コロナウイルス感染症を加え,関連するウェブサイトや画像・文書ファイルを収集,公開している(7月31日現在3,251件)。収集対象には政府機関のほか,報道機関,医療機関のウェブサイト等が含まれている。

   このほか,同館は国内唯一の司書職専門教育訓練機関として,全国の公共・学校図書館等の職員を対象に司書教育プログラムを実施してきたが,今回,対面での集合研修が延期されたことを受け,その影響を最小化するため,eラーニングの課程を増設して参加定員を拡大するなどの対策をとっている。

   加えて,同館が開催し,今年で14回目を迎える「図書館の革新的アイデアおよび優秀実践事例」公募展では,応募テーマに新型コロナウイルス感染症以後の変化した図書館の政策方針とサービスが加えられた。9月に審査が行われ,優秀作は資料集にまとめられて全国図書館に配布される予定である。

●国立障害者図書館

   国立障害者図書館では,2013年から聴覚障害者向け手話読書プログラムを運営してきた。今年は対面でのグループ講座に代えて,4月14日から6月23日まで全10回にわたり,課題図書(手話映像図書)に関連する講義動画を同館ウェブサイトで公開した。

   このほか,同館を所管する文化体育観光部は7月23日,2020年度第3次補正予算に基づき,障害者の非対面学習の受講が増加したことに対応するため,国立障害者図書館による障害者用代替資料の製作事業に13億ウォン余りを投じることを発表している。

●国立子ども青少年図書館

   国立子ども青少年図書館でも,対面型のイベントをオンラインイベントに切り替えて実施している。

   まず,同館のメイカースペース「未夢所(未来の夢・希望創作所)」で行われていたプログラムを活用したオンラインイベント「挑戦!未夢所」が,3月から5月にかけて第4弾まで開催された。同イベントでは,図書の推薦文や工作などの課題をInstagramやFacebookに投稿した参加者に対して,先着順や選考の結果に応じてアイスクリームやギフトカードなどをプレゼントした。

   また,5月5日のこどもの日には,同館ウェブサイト上でオンラインイベントを開催し,サンドアニメーションを交えながら韓国の昔話の読み聞かせをする朗読会,読書感想文や読書写真のコンクール等を実施している。

●国立世宗図書館

   国立世宗図書館は公務員の政策立案業務に関する情報支援を目的とする専門図書館である(E2274参照)。同館では1月1日から3月12日までの電子書籍の利用者数が前年同期比で30.5%増加したとされ,4月以降,オンラインで利用できる国内外の電子書籍の提供拡大を期間限定で実施した。対象には,約2,000種類の韓国学,人文教養コンテンツを提供するKRpiaのほか,英語の原書を提供するOverDrive等が含まれる。

   また,新型コロナウイルス感染症関連の情報提供も行っている。同館が発行する政策情報専門誌『政策と図書館』6月号では,「ポスト・コロナ,危機のなかの新たな機会を探す」というテーマで特集を組んでいる。専門家の対談記事のほか,韓国・国土交通部による新型コロナウイルス疫学調査支援システムの開発に関する紹介記事などを掲載した。このほか,同館が運営する政策情報ポータルサイトPOINTでは,「ポスト・コロナ」をテーマに,国内外機関の報告書やウェブサイトのリンク等をまとめて紹介している。

●おわりに

   上述のように,韓国国立中央図書館では新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う対面サービスの休止を受けて,サービスのオンライン化やデジタル資料の提供拡大が積極的に進められた。

   また,韓国・企画財政部は7月14日,ポスト・コロナ時代を見据えた国家発展戦略「韓国版ニューディール総合計画」を発表した。そのなかで国立中央図書館・国会図書館所蔵の学術誌・図書等のデジタル化(年間で国立中央図書館20万点,国会図書館105万点)を実施する計画案を示すなど,関心はポスト・コロナ時代に向かいつつある。

   新型コロナウイルス感染症による影響の長期化が予想されるなか,韓国国立中央図書館がどのような取り組みを見せるのか,今後の動向が注目される。

   なお,韓国国立中央図書館(国立障害者図書館,国立子ども青少年図書館,国立世宗図書館含む)は,館内での感染者発生,および韓国政府による社会的距離確保の措置強化に伴い,8月中旬以降,順次再休館となっている。

Ref:
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[인터뷰 | 서혜란 국립중앙도서관장] “서비스 패러다임, 디지털로 … 리터러시 교육 강화돼야” 민간 업체 협조로 관외 학술DB 확대 … 코로나19 계기로 저작권 관련 논의 이뤄지길. 내일신문. 2020-05-04.
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“국립중앙도서관, ‘코로나19’재난 아카이브 컬렉션 구축 추진”. 국립중앙도서관. 2020-03-10.
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