カレントアウェアネス-E
No.396 2020.08.20
E2287
城西大学水田記念図書館の利用者支援RPG『TOSHOKAN QUEST』
城西大学水田記念図書館/日本アスペクトコア株式会社・近藤倫史(こんどうともふみ)
城西大学水田記念図書館のウェブサイト上で2020年5月11日から公開している『TOSHOKAN QUEST』は,新入生オリエンテーションの1コンテンツとして制作した,ブラウザ上でプレイできる図書館紹介ゲームである。
本学の新入生オリエンテーションでは,2018年度までは資料とパワーポイントによる解説,2019年度には学生アドバイザーによる館内ツアー動画を加えるなど,当館の事を分かりやすく伝える工夫をこれまで続けてきた。2020年度の実施にあたり更に良い方法がないか模索していたところ,当館を模したゲームを作ってツアーを疑似体験できるようにしたらどうだろうか,というアイデアを思い付いたことから制作に至った。
バーチャル・リアリティー(VR)による当館の案内も検討したが,コスト面に加えてオンライン上での負荷が大きすぎるため,採用は見送った。代わりに,株式会社KADOKAWAが販売するロールプレイングゲーム(RPG)作成用ツール『RPGツクールMV』を筆者が個人的に所有していたことから,これを使った企画を提案し,検討することとなった。当館は9階建てという大きさであるため,階層の多い迷宮に見立てた探索形式で紹介するのに適していたことも,RPGの形式を選択した理由の一つである。
制作にあたっては,2月頃にまず1階のみのサンプルゲームを用意して大学側に提案し,承認を得たうえで本格的に制作を開始した。折しも新型コロナウイルス感染症の影響による休館で在宅勤務となったため,通常の業務と並行して約一か月で作り上げることができた。制作期間が比較的短くできたのは,前作である『RPGツクールVXAce』から使用経験が筆者にあり,ツールの扱いに慣れていたことにもよる。
当初は図書館機能の中心である3階までの公開予定だった。しかし,新型コロナウイルス感染症対策で新入生オリエンテーションがオンラインでの実施となり,学生も当面の間通学することができなくなってしまった。そこで全フロアのマップを作成し,貸出返却や学生アドバイザー制度,自由に移動できる机などのサービスをゲーム上で解説する仕様に変えて制作することとなった。
RPGはプレイヤー,つまり利用者が主体であり,情報取得のタイミングと順序はプレイヤー自身が決定できることが特徴である。すなわち,プレイにおいて「メッセージを読む」ことは,キャラクターを移動させ,情報源を選択するという行為が付随するため「情報を取得するために行動している」という能動的な意味を伴う。さらに,ゲーム内イベントのメッセージも単なる解説ではなく,キャラクター性を持たせることによって「読む」から「体験」へと昇華され,プレイヤーは情報を得る以上の楽しさを感じることができる。このことを念頭に置き,本編中のテキストやイベントにはコメディタッチを取り入れたり,クイズを出題するなどして当館への親しみが増すよう心掛けた。また,当館には就職支援図書コーナーや闘病記文庫をはじめとする様々な特集コーナーがあるため,ゲーム内でも位置関係を含めてできる限り再現に努めている。公開前のテストプレイは当館職員全員で行い,表記ゆれの修正などを行った。
完成した『TOSHOKAN QUEST』は,5月11日の公開直後からTwitterを中心に取り上げられ,大きな反響があった。学内でも薬学部医療栄養学科の新入生を対象としたフレッシュマンセミナーで利用されるなど,実際に授業に取り入れた事例もある。これには学内の講義がオンライン授業主体となったことで,PCを使用していない授業に比べて学生に勧めやすかったことも要因としてあったのではないかと思われる。プレイした学生からは「ゲームの中だけではなく本物の図書館に行くのが楽しみ」「楽しくゲームをする感覚で図書館がどういう感じなのかわかってよかった」など好評を得ており,ゲームを通じて広く図書館の取り組みを知ってもらうことができたと感じている。
新型コロナウイルス感染症対策で対人接触に大きな制限がある現在の状況では,ブラウザゲーム上で図書館を紹介するという試みは,様々な可能性を秘めていると感じた。今後は検索方法やデータベースの使い方など,教員の要望で実施している図書館ガイダンスの内容をフィードバックし,ゲーム内イベントでも紹介していきたいと考えている。
Ref:
TOSHOKAN QUEST. 城西大学水田記念図書館.
https://libopac.josai.ac.jp/rpg/rpglogin.html