CA1920 – 熊本大学附属図書館「熊本地震ライブラリ」の取り組みについて / 柿原友紀,廣田 桂,米村達朗

PDFファイル

カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日

 

CA1920


 

熊本大学附属図書館「熊本地震ライブラリ」の取り組みについて


熊本大学附属図書館:柿原友紀(かきはらゆき)
熊本大学附属図書館:廣田 桂(ひろたけい)
熊本大学附属図書館:米村達朗(よねむらたつろう)

 

 「平成28年熊本地震」の発生以降、熊本県内では複数の図書館で震災関連資料の収集が行われている(E1886参照)。熊本大学附属図書館では、「熊本地震ライブラリ」として熊本地震に関する資料の収集・保存・公開を進めている。本稿では、地震発生から約1年8か月が経過するまでの当館の取り組みについて報告する。

 

1. 震災記録ワーキンググループの発足

 2016年4月14日以降に発生した一連の熊本地震により、当館では施設や蔵書に被害を受けた(1)。発災当初から館内の復旧を進めると共に、阪神・淡路大震災や東日本大震災等における各図書館の震災資料の収集と公開について調査を行った。2016年6月21日に震災記録ワーキンググループ(以下「震災記録WG」という。)を発足させた。震災記録WGは震災資料の収集・保存・公開に関する方針を策定し、通常業務とするまでの一時的な体制として、2016年度は図書館職員6人、2017年度は8人で活動を行っている。

 震災記録WGによる検討の結果、方針を「平成28年熊本地震に関連した各種資料を収集、保存し、公開することで、資料をご提供いただいた方と、将来それを必要とする方々との橋渡しをすること」とした。前震発生から3か月後の2016年7月14日に当館ウェブサイトで震災資料の提供を広く呼びかけた(2)。2016年10月14日には「熊本地震ライブラリ」として収集した資料の館内展示を行うと共に熊本地震関連リンク集として「熊本地震ライブラリweb版」(以下「web版」という。)を公開した(3)。館内展示点数の推移は表1、web版のリンク機関数の推移は表2のとおりである。

 

表1 館内展示数の推移

  開設時
2016/10/14
開設6か月後
2017/4/14
開設1年後
2017/10/14
図書・雑誌 11 45 299
広報誌等(パンフレット類) 54 154 205
視聴覚資料 0 1 2
新聞 0 0 16
65 200 522
出典:熊本地震ライブラリweb版より

 

表2 web版リンク機関数推移

  開設時
2016/10/14
開設6か月後
2017/4/14
開設1年後
2017/10/14
大学等教育研究の機関 37 73 74
国・県・市町村の機関等 13 35 72
企業・公益社団法人・NPO法人等 0 12 14
50 120 160
出典:熊本地震ライブラリweb版より

 

2. 震災資料の収集

 収集開始当初は、学内での周知活動や地元新聞に記事(4)が掲載されることにより、いくつかの論文や発表資料、近隣市町村の広報誌、個人の手記等の寄贈を受けた。熊本県内では複数の公共図書館で震災資料の収集を表明する動きが見られ、熊本県においても熊本地震に関するデジタルアーカイブ事業に着手することが発表された(5) (6)。大学図書館である当館では大学等の教育研究機関による学術的な資料を中心に収集し、並行して前述の広報誌や避難生活について書かれた実用書等の生活に関連した資料、チラシ、パンフレット類も収集することとした。

 発災直後は図書や論文等の冊子体資料の発行が少なかったが、ウェブ上では各機関による熊本地震に対する支援活動報告が多く見られた。そこで、全国の大学や地方公共団体のウェブサイトを中心とした情報収集を行い、熊本地震関連リンク集を作成することを計画した。熊本地震に関する記載があれば、各機関に対して当館でのリンク集作成とウェブページ保存の可否を照会した。また、館内展示用の資料として、冊子体資料があれば寄贈を依頼し、ない場合は当館によるウェブページの印刷と館内での提供の可否について照会した。このリンク集を上述のweb版として公開した。

 web版の作成と並行して、当館で契約している新聞記事データベース、他館のOPAC、書店のウェブサイト、地元書店の店頭等を調査し、震災資料の発行情報を得て積極的に震災資料の収集を行った。雑誌等の市販の定期刊行物については、熊本地震が特集されている号を中心に購入したが、既に品切れとなり入手できていないものもある。新聞は、従来から購入していたものを、当館で定める通常の保存期間を超えて、震災資料として保存することとした。

 2016年8月に熊本県内の地方公共団体および公共図書館に郵送による資料提供依頼を行い、広報誌等の寄贈を受けた。2016年10月から11月にかけて、本学学生へ向けて学内メールシステムおよびTwitterを活用して震災資料収集について周知を行った。また、同時期に開催された本学の学園祭では熊本地震に関連した企画が多く見られたため、各ブースへ足を運び震災資料の提供を依頼した。それらの活動の結果、本学学生が撮影した写真のデータや、震災体験記のマンガのデータ等の寄贈を受けた。

 資料の寄贈依頼は震災記録WGのメンバーで分担して行い、重複して依頼することがないよう発行元ごとの一覧表を作成し、管理している。震災資料収集の趣旨に理解を示し、快く寄贈してもらうことが多く、感謝している。図書館職員が公共施設等に出向いた際にも、配布されているチラシやパンフレット等を震災資料として収集するようにしている。

 2017年7月10日の「図書館総合展2017フォーラムin熊本」(E1940参照)での講演によると、発災から1年を経過した時点が、二次資料が発行されるピークであるという(7)。そのため、現在も引き続き資料の収集に力を入れている。

 

3. 震災資料の整理と公開

 先に述べたとおり、2016年10月14日に当館の中央館2階に「熊本地震ライブラリ」館内展示コーナーを設置した(8)。震災資料の収集について周知するため利用者の動線上に配置し、資料の収集状況にあわせて展示内容を随時更新している。上述の学生が撮影した写真のデータは印刷し、震災体験記のマンガはパネルにして展示している。資料の増加に伴い、2017年4月14日には中央館1階に移設し、展示パネルを増設した(9)

 冊子体の図書や雑誌は日本十進分類法(NDC)による分類を行い、図書館システムに書誌情報を作成し、所蔵情報を登録して熊本大学附属図書館のOPACで検索できるようにしている(10)。雑誌のタイトルや特集名だけでは震災資料と分からないようなものは、該当記事のタイトルを書誌データに採録している。いつでも図書館内で閲覧できるように、また末永く保存・公開するために、登録した資料は貸出を行っていない。

 パンフレット類は図書館システムへの登録を行わずリストを作成し、発行元ごとにパンフレットボックスに入れて配架している。チラシ等の1枚ものの資料は分類・整理方法の確定後に公開していく予定である。資料の形態を問わず、実際の利用につなげていくために、書誌データの作成や資料提供の方法を検討する必要がある。

 

4. 熊本地震ライブラリの効果

 熊本大学では、震災後に「熊本復興支援プロジェクト」(11)が設置され、本学に所属する多くの研究者が地域復興に取り組んでいる。本学の研究者が関係する熊本地震関連のシンポジウムや講演会が学内外で多数開催されると共に、著作や論文として多くの研究成果が発表されている。当館では、従来から本学に所属する研究者の研究成果を収集し、熊本大学学術リポジトリ(以下「リポジトリ」という。)上で広く公開している。震災資料収集の過程で発行が確認された本学研究者による著作については、重点的にリポジトリへの登録を行っている。「熊本地震ライブラリ」の構築を進めることが、本学の研究成果を発信することにもつながっている。

 

5. 今後に向けて

 今後も震災資料の収集を長く継続していくために、業務マニュアル等の整備を進め、できるだけ早期に通常業務として位置づける予定である。また、当館単独の収集のみならず、熊本大学内、熊本県内の各機関、震災資料の収集を実施している県外の機関と情報交換を行い、今後の収集と利活用について検討したい(12)。「熊本地震ライブラリ」の認知度を高め、教育や研究に活用してもらい、その成果物を再び震災資料として収集し、必要とする人へ提供できるような循環を作っていきたい。

 

(1)澤田敬. 「平成28年熊本地震」業務記録. 熊本大学附属図書館, 2017, 87p.
http://hdl.handle.net/2298/36463, (参照 2017-12-21).

(2)“「平成28年熊本地震」に関する資料のご提供について(お願い)”. 熊本大学附属図書館. 2016-07-14.
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/news/2075, (参照 2017-12-21).

(3)熊本地震ライブラリweb版.
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/local/kjl/index.html, (参照 2017-12-21).

(4)地震関連資料 寄贈を 熊本大図書館 呼び掛け. 熊本日日新聞. 2016-07-16, 朝刊, p. 27.

(5)熊本地震の記録 デジタル保存 公開へ 県、本年度から新事業 防災教育に活用. 熊本日日新聞. 2016-09-09, 朝刊, p. 4.

(6) 2017年4月19日に「熊本地震デジタルアーカイブ」が公開された。
“「熊本地震デジタルアーカイブ」サイトを公開します。”. 熊本県. 2017-04-19.
http://www.pref.kumamoto.jp/common/UploadFileOutput.ashx?c_id=3&id=19487&sub_id=1&flid=104096, (参照 2018-02-01).
熊本地震デジタルアーカイブ.
http://www.kumamoto-archive.jp/, (参照2018-01-25).

(7)堀田弥生. “「災害の記録を防災の糧に」~災害アーカイブの在り方~”. 図書館総合展運営委員会. 2017. p. 2.
http://dil.bosai.go.jp/link/archive/pdf/20170710_libfair_hotta.pdf, (参照 2017-12-21).

(8)“「熊本地震ライブラリ」を公開しました”. 熊本大学附属図書館.
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/news/2168, (参照2017-12-21).

(9)“「熊本地震ライブラリ」館内展示を移設しました”. 熊本大学附属図書館.
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/news/2288, (参照2017-12-21).

(10)「熊本大学」の項目では、「熊本地震ライブラリ」コーナーに設置している資料を一括検索できるリンクと、熊本大学学術リポジトリに登録されている熊本地震に関連する資料を一括検索できるリンクを紹介している。
“熊本大学”. 熊本地震ライブラリ.
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/local/kjl/1/109006.html, (参照 2017-12-21).

(11)“熊本復興支援プロジェクト始動~平成28年(2016年)熊本地震からの復興のために熊大ができること~”. 熊本大学.
http://www.kumamoto-u.ac.jp/syakairenkei/sangakukan/fukkosienproject/fukkoproject, (参照 2017-12-21).

(12)当館は2017年4月14日に、国立研究開発法人防災科学技術研究所総合防災情報センター自然災害情報室が運営する「災害資料アーカイブを構築する機関のためのメーリングリスト」に参加した。
“災害資料アーカイブ機関の連携”. 国立研究開発法人 防災科学技術研究所 自然災害情報室.
http://dil.bosai.go.jp/link/archive/index.html, (参照2017-12-21).

 

[受理:2018-02-05]

 


柿原友紀, 廣田 桂, 米村達朗. 熊本大学附属図書館「熊本地震ライブラリ」の取り組みについて. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1920, p. 17-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1920
DOI:
https://doi.org/10.11501/11062624

Kakihara Yuki, Hirota Kei, Yonemura Tatsurou
Activities on the Kumamoto Earthquake Materials Collection of Kumamoto University Library