E1661 – 諸外国の国立図書館におけるセルフ撮影サービスの導入動向

カレントアウェアネス-E

No.278 2015.03.26

 

 E1661

諸外国の国立図書館におけるセルフ撮影サービスの導入動向

 

 カメラ機能を有する携帯端末や手軽に持ち運びのできる高性能のデジタルカメラの普及によって,場所を選ばず誰もが容易に資料を複製できるようになった。それに伴い,利用者からは,複写に係る時間や費用を軽減し,高画質のデジタル複製画像を入手するため,利用者が持ち込んだデジタルカメラを閲覧室で使用し,所蔵資料を撮影することについて,許可を求める声が大きくなってきている。こうした現状を踏まえて,2010年2月,OCLCは,閲覧室での利用者によるデジタルカメラの使用に関する報告書を刊行し,その利点や推奨される実例を示した(E1027参照)。また,近年,新たに閲覧室でのデジタルカメラの使用を認める国立図書館が増えている。ドイツ国立図書館(DNB)は,2014年10月に利用規則を改正し,閲覧室でのデジタルカメラの使用を認めることとした。英国図書館(BL)でも同様の動きがあり,2015年1月から,段階的に閲覧室でのデジタルカメラの使用を認める決定を行った。スコットランド国立図書館(NLS)は,同様のサービスについて試験的な実施を検討している。本稿では,2014年秋に筆者がDNB,BL及びNLSで行った聞き取り調査等を基に閲覧室における利用者によるデジタルカメラの使用に係るサービスの動向と実例を紹介したい。

 ○サービス導入の経緯
 DNBが閲覧室でのデジタルカメラの使用を認めたのは,(1)利用者の便に資する,(2)従来の複写機と比較して資料への負担が少ない,という理由からである。

 BLでは,利用者から受ける主たる苦情の一つが,閲覧室でのカメラの使用禁止という規則に関するものであったという。今回のデジタルカメラを使用した複製サービスの導入は,利用者からの不満の声を減らすものと期待されている。また,BLの特に資料保存部門において,資料保存の観点からデジタルカメラの使用を歓迎する声が多い。

 ○サービス導入に当たっての諸課題
 閲覧室でのデジタルカメラを使用した資料の撮影を許可するに当たって,図書館が対応すべき主な課題として,(1)対象資料の選定,(2)閲覧室の良好な利用環境の確保,(3)閲覧室でのカメラの使用に係る法令遵守のための手続の整備,を挙げることができる。

 まず,図書館が始めに直面する課題は,膨大な所蔵資料群から撮影可能とする資料群を選定し,撮影の可否基準を決定することである。この点について,例えば,BLは,資料種別に応じてサービス導入を2段階に分けることとし,第1段階(2015年1月から)では,一般的な資料を取り扱う,人文資料,自然科学資料等の閲覧室でのみデジタルカメラの使用を認め,特別な資料を取り扱う閲覧室でのサービス開始は,第2段階として2015年3月以降に実施するとした。NLSは,BLとは異なり,まずは特別資料閲覧室でのサービス開始を検討している。フランス国立図書館(BnF)のように,デジタルカメラによる撮影対象資料を著作権保護期間が満了したものに限定している図書館もある。

 第二に,図書館が対応すべき課題は,他の利用者の静謐な利用環境の確保である。一般的な対応としては,フラッシュ機能の使用禁止やシャッター音の消去等の措置があり,DNBやBLも同様の利用条件を設けている。米国議会図書館(LC)の主閲覧室(Main reading room)では,フラッシュの使用禁止に加えて,他の利用者から離れた特定の場所でカメラを使用するよう利用者に求めている。なお,フラッシュの使用禁止については,資料への負担を考慮した措置でもある。

 最後に,閲覧室でのデジタルカメラの使用に係る法令遵守という課題である。図書館には,著作権法をはじめ,資料の利用に係る契約,データ保護,プライバシーに関する法律上の義務を利用者に遵守させることが求められる。

著作権法等の法令の遵守を担保するための手続は図書館によって様々であり,例えば,2005年からデジタルカメラの使用を認めているカナダ図書館公文書館(LAC)は,利用者にあらかじめ申請書の提出を求めるとともに,カメラ使用中は職員から承諾を得た申請書を机上に置くことを義務付けている。他方,DNBやBLは,デジタルカメラ使用に当たっての法律上の注意点について,口頭,文書又は映像を通じて,利用者に案内するだけで,特に申請書の提出を求めていない。利用者対応に係る職員の負担等を勘案し,比較的,簡便な手続でデジタルカメラの使用を許可している。

 ○おわりに 
 閲覧室でのデジタルカメラを使用した資料の複製サービスの導入は,図書館に,対象資料の選定,静謐な利用環境の維持,法令遵守,といった諸課題への対応を迫る一方で,利用者の複写に係る様々なコストを軽減し,研究効率を高めるとともに,所蔵資料の利活用を促進させるという利点が挙げられる。加えて,図書館から見ても,複写作業に係る職員や資料への負担の軽減が期待される。

 携帯端末等によるデジタル複製技術の進展とそれが図書館及び利用者にもたらす便益については,日本においても活発に議論されるべきテーマの一つであろう。

利用者サービス部複写課・奥村牧人

Ref:
http://britishlibrary.typepad.co.uk/living-knowledge/2014/12/self-service-photography-in-our-reading-rooms.html
http://www.bl.uk/reshelp/inrrooms/stp/copy/selfsrvcopy/reading_room_photography_guidelines_st_pancras.pdf
http://web.inxmail.com/dnb/dnb/dnb.jsp?mail=1546&c=display
http://www.dnb.de/SharedDocs/Downloads/DE/DNB/service/benutzungsordnung.pdf;jsessionid=F92D70782F272A44D0CEC4A05F12EA83.prod-worker3?__blob=publicationFile
http://www.bnf.fr/fr/collections_et_services/services_lecteurs/a.photocopies_impression_donnees.html
http://www.collectionscanada.gc.ca/005/005-4021-e.html
http://www.oclc.org/content/dam/research/publications/library/2010/2010-05.pdf?urlm=162939
E1027