E1662 – オンライン資料の納本制度の現在(2)スウェーデン

カレントアウェアネス-E

No.278 2015.03.26

 

 E1662

オンライン資料の納本制度の現在(2)スウェーデン

 

1. 電子出版物の納本制度の歴史

 電子出版物の収集・保存は,スウェーデンでも長年の懸案である。CDやDVDなどのパッケージ系電子出版物は1993年の法改正で納本対象となったが,インターネット等で公表されるネットワーク系電子出版物への対応には多くの時間を要した。

 この点に関して,ウェブ・アーカイビングで収集する国立図書館の実験事業「Kulturarw3」(CA1214CA1490E106参照)が注目される。しかし,同事業では,パスワードが必要なサイトなどは収集できない,特定のプログラムや技術的仕様に依存するサイトは収集したとしても長期的利用に困難があるなどの課題が指摘された。

 このような事業の一方で法整備も試みられた。1998年と2003年には専門家で構成される政府調査委員会が法制化を念頭に報告書を公表したが実現せず,2012年にようやく「電子資料の法定納本に関する法律」(以下「本法」という。)が制定された。本法は,試行のため,2012年7月から2014年12月まで主な出版社・新聞社等に納入義務者を限定して施行された後,2015年1月から完全施行された。

2. 民間の納入義務の概要

 本法は,「Kulturarw3」のようにウェブ・アーカイビングで収集するのではなく,紙の出版物と同様に発行者へ納入義務を課すことで収集する制度となっている。以下本稿では,民間の納入義務に絞って概観する。

・納入対象

 納入対象となるのは,次の要件を満たす電子出版物である。

 まず,国内の,(1)表現の自由に関する基本法第1章第6条または第9条第1項による保護を受ける新聞社,放送局など,(2)商業出版社・レコード会社などがインターネット等に公表し,国内でアクセス可能なものであることである。したがって,通常,個人が公表するブログなどは対象外である。

 次に,その目的に応じて提示されることをあらかじめ意図された電子ファイルであって,その内容がテキスト・音声・画像から構成され,固定されたものであることである。したがって,たとえば,個々のニュース記事や電子書籍,音楽ファイルは対象となり,プログラム,通常複数のファイルを含むウェブページ全体,継続的に更新されるWikipediaなどは対象外である。

 最後に,スウェーデンに関するもの,具体的には,(1)その大部分がスウェーデン語であること,(2)スウェーデン人著作者による著作物を含むこと,(3)スウェーデン国内向けの公表を意図していること,のいずれかに該当するものであることである。

 なお,以上の要件に合致する電子出版物であっても,(1)同一または本質的に同一の内容の紙の出版物またはパッケージ系・ネットワーク系電子出版物が納入済み,(2)その内容が,納入済みの紙の出版物またはパッケージ系・ネットワーク系電子出版物の抜粋,(3)ウェブページの飾り枠画像のように純粋に装飾目的のものなどのささいな内容のもの,(4)商業的な広告,のいずれかに該当する場合は対象外である。ただし(1)については,紙の出版物やパッケージ系電子出版物として発行したか否かの区別が困難なことを理由に,納入しても差し支えないとする運用である。

・フォーマット

 電子出版物は,実際に公表されたフォーマットで納入し,公表されたフォーマットが複数ある場合は,長期保存に最適のフォーマットで納入する。また,DRM(技術的保護手段)が付されている場合は,それが付されていないものを納入する。

・メタデータ等

 納入に当たっては,電子出版物本体とともに,(1)公表されたウェブサイト等の情報と公表時期,(2)フォーマットに関する情報,(3)(その利用に必要な場合)パスワード,(4)(同一または本質的に同一の内容の紙の出版物またはパッケージ系・ネットワーク系電子出版物を納入済みの場合)その納入済みの出版物に関する情報,以上を併せて提供する。

・納入方法

 法律上は,公表から3か月以内に媒体に複製して国立図書館に送付することを原則としているが,運用上は,納入点数が多い場合はFTP送信またはRSSによる自動収集を,少ない場合は国立図書館サーバへのアップロードを納入方法として想定している。なお,納入は無償で行われる。

3. 今後の課題

 現時点で,(1)本法には収集された電子出版物の利用に関する規定がないので法整備が必要であること,(2)本法により収集されるのはウェブサイトを構成する個々のコンテンツなので,ウェブサイト全体の収集にはウェブ・アーカイビングでの収集との連携が必要であること,などが課題とされている。

収集書誌部収集・書誌調整課・間柴泰治

注:本法の全訳と詳しい解説が,国立国会図書館調査及び立法考査局の刊行する『外国の立法』264号に掲載予定である。

Ref:
http://www.ifla.org/files/assets/newspapers/Geneva_2014/s6-nilsson-en.pdf
http://www.kb.se/dokument/Pliktleverans/Eplikt_enskilda_eng140917.pdf
http://slq.nu/?article=volume-47-no-2-2014-7
http://www.riksdagen.se/sv/Dokument-Lagar/Lagar/Svenskforfattningssamling/Lag-2012492-om-pliktexempla_sfs-2012-492/
https://e-plikt.kb.se/
CA1214
CA1490
E106