E2277 – 文化庁長官裁定制度による明治期地方紙のインターネット公開

カレントアウェアネス-E

No.394 2020.07.09

 

 E2277

文化庁長官裁定制度による明治期地方紙のインターネット公開

福井県文書館(福井県立図書館兼)・長野栄俊(ながのえいしゅん)
福井県文書館・田川雄一(たがわゆういち)

 

●はじめに

   2020年4月10日,福井県文書館では明治15年から明治24年(1882年から1891年)の地方紙約1,800日分について,約7,200件の画像データのインターネット公開を開始した。地方紙は当該地方の近代史研究にとって高い有用性を持つため,世界各国の図書館等で画像のインターネット公開が進んでいるが(CA1577,CA1750参照),日本ではこうした取組みはほとんど見られない。

   本取組みは,著作権保護期間が満了した記事だけでなく,著作権者不明等の記事も文化庁長官裁定制度(CA1873参照)を用いて公開するものであり,これだけまとまった量の一括公開は全国的にみても初めてのものと言えよう。以下,公開までの手順を紹介したい。

●「デジタルアーカイブ福井」と公開対象の地方紙

   福井県文書館・福井県立図書館等が運営する「デジタルアーカイブ福井」では,2020年3月末時点で古文書・古典籍・歴史的公文書・写真・デジタル資料(行政刊行物PDF)等の目録データを約37万2,000件公開しており,一部については画像データもインターネットで公開していた(約41万7,000画像)。このうち新聞については,日付等で検索できる目録データ約4万1,000件,記事データ約3万1,000件をインターネット公開していたが,画像データは館内端末のみでの公開であった。

   今回,新たに画像のインターネット公開を始めた「福井新聞(第1次)」「福井新報」「福井新聞(第2次)」は,宮内庁書陵部所蔵の原紙を過去にマイクロフィルムに撮影したもので,それをさらにモノクロ2値でデジタル化している。この原紙は国立国会図書館に移管されているため,同館に公開の可否を問い合わせたところ,利用申請等は不要との回答を得た。また「福井新聞(第1次・第2次)」は,現在発刊中の同名紙とは直接的な資本等の関係を有していないことも確認している。

   以下,利用方法を簡略に示す。まず,デジタルアーカイブ福井の詳細検索画面から「新聞」を選択する。ラジオボタンの「新聞」をチェックすると,新聞名や年月日で検索でき,また「添付ファイル種別」を「画像あり」とすることで画像公開している号が表示される。一方,ラジオボタンで「新聞記事」をチェックすると,記事内容からの検索が可能であるが,記事名は網羅的に付与したものではなく,また画像へのリンクが張られていない点は注意が必要である。

●公開までの作業手順

   発刊から100年以上経過した新聞記事のほとんどは著作権の保護期間が満了しているとも思われたが,適法に利用するため万全を期し,文化庁長官裁定制度を利用して公開することにした。

1.署名記事の抽出と分類
   1967年以前に公表された無署名記事は2018年の著作権法改正の影響を受けないため,すでに保護期間が満了しているが,署名記事は未了のものが含まれる可能性があった。そのため,2019年11月末から約2週間をかけて,職員12人が本務の合間に複製本を1ページずつめくって署名記事を抽出した。
次に署名記事を本名と変名とに分類した。本人特定できない変名による署名記事も無署名と同様,保護期間が満了していることからそのまま公開した。一方,本名による署名記事のうち,人名辞典等により没年が明らかになったものは,すべて1967年以前だったことから満了が確認できた。

2.権利者捜索のための「相当な努力」
   署名記事のうち権利者不明のものの公開について,文化庁長官裁定制度を受けることにした。その際,文化庁の「裁定の手引き」を参照し,2020年1月上旬から同庁担当者に相談しながら作業を進めた。2人の職員が権利者捜索のために必要な「相当な努力」として,以下の手順を踏んでいる(角カッコ内は「相当な努力」に要した期間)。

  • a.各種名簿・名鑑(著作権台帳,日本紳士録,福井県大百科事典)の閲覧[1月15日から31日]
  • b.サーチエンジンでの検索[1月15日から31日]
  • c.公益社団法人日本複製権センターの管理著作物データベースでの検索[2月4日から7日]
  • d.当該著作物について識見を有する者を主たる構成員とする団体への照会(福井県郷土誌懇談会)[2月12日から14日]
  • e.当館ウェブサイトに情報提供を求める記事を掲載,あわせて公益社団法人著作権情報センターのウェブサイト内「権利者を捜しています」に概要記事と当館サイトへのリンク掲載(掲載料金8,250円)[2月24日から3月6日]

3.裁定制度の申請
   3か月に及ぶ調査・捜索の結果,174人分471件の署名記事が「著作権者不明」にあたることが判明した。裁定申請に必要な補償金額は,日本複製権センターに依頼して1万362円(記事単価4円×471件分×5年分+消費税)と算定された(ただし2019年から地方公共団体は補償金の事前供託が不要)。2020年3月28日付で申請書と添付資料を文化庁へ送付し(申請手数料6,900円),3月30日付で受理され,4月10日に公開を開始した(受理時点で公開可能)。

●おわりに

   先行する事例がないため,手探りでの作業による公開となったが,非来館型サービスの需要の高まりを受け,まずは好評をもって迎えられたように思う。地方紙は,地域史にとって有用であるだけでなく,時代相を伝えるまたとない資料であるため文書館資料を読解する上でも有益である。明治後期分以降の新規公開や公開画像の画質向上,記事検索との連動などは今後の課題である。

Ref:
“文書館における新たな資料公開について事前説明を行います”. 福井県. 2020-04-06.
http://www2.pref.fukui.jp/press/view.php?cod=b7481S158556841086
デジタルアーカイブ福井.
https://www.library-archives.pref.fukui.lg.jp/archive/
“詳細検索”. デジタルアーカイブ福井.
https://www.library-archives.pref.fukui.lg.jp/archive/da/search?ctlg=030
“情報提供のお願い”. 福井県文書館.
https://www.library-archives.pref.fukui.lg.jp/bunsho/category/syuzoushiryou/22980.html
文化庁著作権課, 裁定の手引き~権利者が不明な著作物等の利用について~. 第8版. 文化庁, 2020, 66p.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/pdf/saiteinotebiki.pdf
“権利者を捜しています”. 公益社団法人著作権情報センター.
https://www.cric.or.jp/c_search/index.cgi
“JRRC管理著作物の検索”. 日本複製権センター.
https://system.jrrc.or.jp/bibliography/search/
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https://doi.org/10.11501/287091
佐々木美穂. 英国とオランダの国立図書館にみる新聞資料デジタル化プロジェクト. カレントアウェアネス. 2011, (309), CA1750, p. 2-5.
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星川明江. 権利者不明著作物の活用促進について. カレントアウェアネス. 2016, (328), CA1873, p. 4-6.
https://doi.org/10.11501/10020598