E2399 – 各国の著作権法を整理した国際出版連合(IPA)のレポート

カレントアウェアネス-E

No.415 2021.06.24

 

 E2399

各国の著作権法を整理した国際出版連合(IPA)のレポート

電子情報部電子情報企画課・藏所和輝(くらしょかずき)

 

   本稿では,2020年10月に公開された,世界の出版協会等が加盟する国際出版連合(IPA)のレポート“IPA Global Report on Copyright & Publishing”について紹介する。

   本レポートは,IPAのメンバーが所属する69か国を対象として,出版産業と関係する国家レベルの著作権法の特徴を明らかにするものである。IPAメンバーが自国の著作権政策の優先事項を評価する際の助けとなることや,他国が自国と同じ課題にどのように取組んでいるかについての情報源となることを目的としている。具体的には,次のような情報を提供している。

  • (1)世界知的所有権機関(WIPO)が管理する3つの著作権条約―ベルヌ条約,WIPO著作権条約,マラケシュ条約(CA1831参照)―に対する,各国の加入/批准や実施の状況。
  • (2)各国の著作権法によって保護される出版物の定義。
  • (3)出版物に与えられた排他的な経済的権利一式(著作者人格権の存在についても言及がある)。
  • (4)著作権の所有や移転,譲渡に適用される特別な条項や,出版契約に関する規制等。
  • (5)各国で利用できる(特にオンライン上での)法的な権利行使の仕組み。
  • (6)出版産業に影響を与える可能性がある著作権保護の例外や制限。特に,教育機関・図書館・公文書館や,視覚障害者,出版物へのアクセスまたは利用を制御する技術的保護手段(TPM)の回避,に適用されるもの。

   以下,本レポートの構成に従って内容を紹介する。

●Executive Summary

   本レポート冒頭の“Executive Summary”では,各国の分析結果を簡潔にまとめた記述や,前提知識となるような著作権保護に関する基本事項が記載されている。例えば,3つの著作権条約については,各条約の趣旨説明とともに,各国の加入/批准や国内実施の状況が一覧化されている。IPAのメンバーが所属する国における出版物に対する著作権保護についても総論的な記述があり,以下箇条書きで示すように,著作権そのものに対する理解を深めることができる内容となっている。

  • ほとんどの国において,著作権の保護はあらゆるフォーマット(電子図書,オーディオブック等を含む)に及んでいる。
  • 持続可能な出版を可能にするため,ほとんどの国の著作権法では出版者が一部の権利を保有する機能が整備されている。さらに,一定期間後に著作者が出版者に与えた権利を取り戻す権利が保障されている国もある。
  • ほとんどの国では排他的な権利に対する例外や制限が設けられており,このような例外や制限を逐一明文でリストアップする国と,フェアユースを採用する国等に分かれている。
  • ほとんどの国で著作権への侵害行為に対する権利行使の仕組みは整備されており,民事訴訟や刑事制裁,行政措置等の仕組みがある。一部の国ではオンライン上の権利侵害行為への対応を含む権利行使の仕組みを明文化している。

   この他にも,具体的な各国の著作権法のベストプラクティスも紹介されており,多くの国々でオンライン環境での著作権保護について対応が求められていること等を窺い知ることができる。

●Members Voice

   続く“Members Voice”では,執筆を担当したIPA著作権委員会委員たちのインタビューが記載されている。委員は各国の出版関係団体からの出向者であり,所属組織における著作権政策の優先事項,著作権法・政策に関して所属国の出版者が直面している主要な課題,所属国において出版業界の利益に沿うような著作権法・政策を形成する上で特に重要と感じる最近の働きかけ,の3つの質問に回答する形式でまとめられている。

●Country Reports

   そして,本レポートの多くを占める“Country Reports”では,調査の対象となった各国著作権法の機械翻訳や著作権委員会の委員の協力のもとに分析した各国の事情が3ページずつ記載されており,冒頭で紹介した(1)から(6)の6項目に対応するよう整理されている。例えば,“Japan”のページでは,以下のような事項がまとめられている。

  • 3つの著作権条約にはすべて加入しているが,地域的な知的所有権機関には加盟していないこと。
  • 職務上作成された著作物については,雇用契約で定められていない限り,著作権が雇用主に帰属すること。
  • 権利行使の手段としては民事訴訟や刑事制裁があり,TPMの回避にも適用できること。

   著作権に関しては日本をはじめ近年さまざまな動きが世界的に見られるが,本レポートは,主要国の著作権法の概要を横断的に把握することが可能な便利なテキストである。出版関係者に留まらず,図書館関係者を含む幅広い読者にとって,各国の著作権法の概要を知りたい場合の最初の手引き書としての使い方を期待できよう。

Ref:
IPA Global Report on Copyright & Publishing. IPA, 2020, 257p.
https://www.internationalpublishers.org/state-of-publishing-reports/ipa-global-report-on-copyright-publishing
野村美佐子. マラケシュ条約―視覚障害者等への情報アクセスの保障に向けたWIPOの取り組み. カレントアウェアネス. 2014, (321), CA1831, p. 18-21.
https://doi.org/10.11501/8752504