E2448 – 英・UKRIの新オープンアクセス(OA)ポリシー公開について

カレントアウェアネス-E

No.425 2021.11.25

 

 E2447

英・UKRIの新オープンアクセス(OA)ポリシー公開について

国立情報学研究所・脇谷史織(わきやしおり)

 

●はじめに

  英国研究・イノベーション機構(UKRI)は,2021年8月,新しいオープンアクセス(OA)ポリシーを発表した。本稿では,各ステークホルダーの反応についても触れながら一連の動向をまとめていく。

●UKRIの新ポリシー

   UKRIは,研究助成を行う7つの分野別研究会議,主に産業界や企業におけるイノベーションの活動支援をするInnovate UK,および,イングランドの高等教育機関における研究支援を担当するResearch Englandが単一の法人組織としてまとめられ,2018年4月に発足した,英国最大の公的助成機関である。新ポリシーは,既存ポリシーを見直し,UKRI全体で単一のOAポリシーを決定することを目的とし,2018年秋から2021年夏にかけて実施された「UKRI Open Access Review」の成果である。

  また,年間約80億ポンド(約1兆2,000億円)の予算を持つUKRIは,欧州委員会と並んで,助成成果の完全即時OAを求めるイニシアティブPlan S(CA1990参照)に参加している最大の助成機関の一つである。本ポリシーは,Plan Sにほぼ沿った内容となっており,cOAlition Sもその支持を表明している。

●新ポリシーの主な要件

1.2022年4月1日以降に出版される査読付き研究論文に適用される要件
  • ポリシーの順守には以下の方法がある。
  • ルート1:ジャーナルまたは出版プラットフォームでOA出版することで,クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのCC BYライセンス(例外的にCC BY-NDが許可される場合もある)が付与された出版社版(Version of Record:VoR)を即時OAにする。
  • ルート2:ジャーナル出版後,CC BYライセンス(例外的にCC BY-NDが許可される場合もある)が付与された著者最終稿(Accepted Manuscript:AM),出版社が許可する場合はVoR,をリポジトリで即時OAにする。この場合,エンバーゴを設けることは認められない。
2.2024年1月1日以降に出版される長編出版物(単行書,図書の章等)に適用される要件
  • VoRまたはAMは,出版後最長12か月以内に,CCライセンスを付与し,オンライン出版プラットフォーム,出版社のウェブサイト,リポジトリを介してOAとする。
  • 長編出版物は,以下の場合等が適用対象外となる。
  • a. 唯一の適切な出版社が,UKRIの方針に準拠したOAの選択肢を提供できない場合。
  • b. 長編出版物がUKRI Training Grant(UKRIが提供する学生を対象とした研究助成金,助成期間終了後に出版されることが多く論文処理費用(APC)支払が困難なことがある)の成果である場合。

   UKRIによる助成金を受けた成果物に対して上記要件が求められる。またUKRIはこのポリシーが順守されることを目的としてOA出版等オープンアクセスのために使用できる助成金を提供するが,それをJiscが承認した転換契約(CA1977参照)に含まれないハイブリッドジャーナルでの出版費用に用いることは認められない。

●前ポリシーからの主な変更点

  本ポリシーの前身として,Research Councils UK(RCUK) Policy on Open Accessが存在するが,主な違いとして以下が挙げられる。

  研究論文に関しては,APCがRCUKによる助成金で賄われている場合のみ義務であったCC BYライセンス付与の範囲を拡大し,Jiscが承認した転換契約に含まれないハイブリッドジャーナルのAPC助成をとりやめた。また,分野に関わらずエンバーゴを禁じた。

  また,長編出版物を本ポリシーで対象に加えた。ただし,長編出版物の未成熟なOAの状況,人文科学などの分野に与える影響,出版社の出版形態の多様性への配慮があり,研究論文に比べ,エンバーゴやCCライセンスの条件が寛容なものとなっている。また,新規の対象物であり,出版までの期間が長いことから,適用までの期間も長く設けられている。

●反響

  各ステークホルダーから寄せられた意見は以下の通りである。研究図書館からは協力の姿勢が示された。書籍の関連団体やCreative Commonsからは賛同されたものの,除外項目や例外扱いについて懸念が示された。一方,出版社等からは反発する意見が出されている。

・研究図書館

  英国研究図書館コンソーシアムRLUKは,本ポリシーが研究図書館コミュニティの意見を反映したものであると歓迎しており,グリーンOAとゴールドOA双方へのフォローや,書籍等に対する慎重な姿勢を評価している。また,機関リポジトリがポリシーに記載されている技術的要件を満たすよう協力していくとしている。

・書籍の関連団体

  書籍のOA出版の発展を目指すCOPIM(Community-led Open Publication Infrastructures for Monographs)は本ポリシーを歓迎するとしながらも,ゼロエンバーゴのビジネスモデルを考案すべきとし,さらに「長編出版物の除外項目a」を設けることに反対を唱えた。

・Creative Commons

   CCは,取組への支持を示しつつも,CC BY-NDの使用は,研究成果の利益の最大化(異なる読者層の利用や他言語への翻訳等)を制限するため,OA出版において適用されるべきではないという考えを示した。

・出版社

  出版社からは,新ポリシーで求められるOAの形態について懸念の声が上がっている。国際STM出版社協会は,AMによるグリーンOAとVoRによるゴールドOAを同等に扱うことが学術記録の完全性を損ない,エンバーゴ有りでのAM公開を許可しないことがそれに対応できない出版社を選ぶ自由を損なう可能性について指摘する。また,英国物理学会出版局(IOP Publishing)も,AMの即時OAにより,高水準の査読と出版のコストをまかなうことが難しくなるとしている。Taylor & Francis社は,ジャーナル出版の収益減が学術コミュニティ,特に社会・人文学分野のコミュニティへ与える影響を指摘する。

  ただし,OA出版社であるFrontiers社は,Plan Sの進展と影響を証明するものとして評価した。

・英国の学会・専門協会出版協会(ALPSP)

   ALPSPは,学術・専門分野の非営利出版者をサポートする立場から,論文のハイブリッドジャーナル掲載機会の制限により,転換契約の設定が難しい小規模出版社が選択されない可能性を懸念する。また,商業出版社同様,ゼロエンバーゴ・CC BYライセンスでのAMの公開義務化は,受理までになされた査読等,付加価値を与える出版サービスを軽視しているとし,図らずも出版社や学会が購読料による投資の回収を続けることでOA移行の鈍化が発生し,英国の出版業界,特に学術団体へ影響が出ることを懸念している。

●おわりに

  本稿では,Plan Sが発効し1年が経とうとしているなか,UKRIが発表した新ポリシーについて紹介した。さまざまな反響を受け,UKRIは,OAの資金提供の条件,OA資金の配分と利用方法,ポリシーの進捗状況の評価方法,ポリシーの例外の管理方法等の詳細についてさらなる検討を行うとしている。Plan Sでも,制度を具体化するにあたり,当初案からさまざまな条件の変更が見られたように,UKRIの新ポリシーについても,これからの動きが注目される。

Ref:
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https://www.ukri.org/wp-content/uploads/2021/08/UKRI-060821-UKRIOpenAccessPolicy-FINAL.pdf
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https://www.ukri.org/news/ukri-announces-new-open-access-policy/
研究開発の俯瞰報告書 主要国の研究開発戦略(2019年). 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター, 2019, 247p.
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2018/FR/CRDS-FY2018-FR-05.pdf
“Who we are”. UKRI.
https://www.ukri.org/about-us/who-we-are/
“Shaping our open access policy”. UKRI. 2021-11-05.
https://www.ukri.org/our-work/supporting-healthy-research-and-innovation-culture/open-research/open-access-policies-review/
“About CC Licenses”. Creative Commons.
https://creativecommons.org/about/cclicenses/
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RCUK Policy on Open Access and Supporting Guidance. UKRI, 13p.
https://www.ukri.org/wp-content/uploads/2020/10/UKRI-020920-OpenAccessPolicy.pdf
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https://www.ukri.org/wp-content/uploads/2021/08/UKRI-180821-UKRIOpenAccessPolicyExplanationOfChanges-2.pdf
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https://www.nature.com/articles/d41586-021-02148-8
“cOAlition S welcomes the Plan S-aligned Open Access policy from UKRI”. Plan S. 2021-08-06.
https://www.coalition-s.org/coalition-s-welcomes-the-plan-s-aligned-open-access-policy-from-ukri/
“COPIM response to new UKRI Open Access Policy”. COPIM. 2021-08-11.
https://copim.pubpub.org/pub/copim-response-to-new-ukri-open-access-policy/release/1
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“IOP Publishing response to UKRI open access policy”. IOP Publishing. 2021-08-09.
https://ioppublishing.org/news/iop-publishing-response-to-ukri-open-access-policy/
“Taylor & Francis’ response to the UKRI Policy Announcement”. Taylor & Francis. 2021-08-06.
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“ALPSP Copyright Committee responds to UKRI Open Access Policy”. ALPSP. 2021-08-11.
https://www.alpsp.org/news/ukri-policy-alpsp-response-aug21
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