E2567 – 2022年VIAF評議会会議<報告>

カレントアウェアネス-E

No.449 2022.12.22

 

 E2567

2022年VIAF評議会会議<報告>

収集書誌部収集・書誌調整課・村上一恵(むらかみかずえ)

 

  2022年8月3日,バーチャル国際典拠ファイル(VIAF)評議会会議(E2450参照)が開催された。例年,評議会会議は世界図書館・情報会議(WLIC):国際図書館連盟(IFLA)年次大会(E2552ほか参照)の期間にあわせて開催されていたが,2020年,2021年に続き,2022年もウェビナー形式での開催となった。本稿では,今回の会議の内容について報告する。

●2021/2022年度のVIAF統計報告

  VIAFを維持管理しているOCLCから,2021年7月から2022年6月までの統計が報告された。参加機関数は前年度と変わらず57機関,各機関から提供された典拠レコードは約9,420万件(前年度比約691万件増),ひもづく書誌レコード数は約1億8,331万件(前年度比約945万件増)であった。参加機関が提供した典拠レコードを機械的にまとめたクラスターの数は約3,755万件(前年度比約195万件増)であった。

  典拠種別ごとの件数は,個人名約6,383万件(前年度比約436万件増),地名約1,260万件(前年度比約104万件増),団体名約1,119万件(前年度比約60万件増),タイトル約658万件(前年度比約98万件増)となった。いずれの典拠種別でも,クラスター数は微増となった。

  VIAFへの国別アクセス数ランキングは順位が大きく変動し,これまで欧米が占めてきたランキングトップにアジア勢が躍り出た。韓国が1位(約18万回/年),中国が2位(約16万回/年)で,日本はフランス,米国,ドイツ,スペインに次いで7位であった(約4万件/年,前年度8位)。

  また,評議会会議に先立ってイスラエル国立図書館(NLI)から寄せられていたVIAFの維持管理やクラスター誤りについての質問については,OCLC宛てに連絡すれば,可能な範囲で対応するとの回答があった。

●議長の選出

  VIAF評議会の議長は1年任期で,原則として,前年の会議で選出された議長候補が正式にその年の会議で承認されるが,2021/2022年度は議長,議長候補とも応募がなく,選出されていなかった。今回の評議会会議において,2022/2023年度の議長に,NLI目録課長のコーエン(Ahava Cohen)氏が就任することが決定した。任期は本評議会会議終了後から2023年の評議会会議までである。議長候補の立候補はなかった。

●参加機関による発表

・NLIにおけるイスラエルの典拠データベース“Mazal”の品質管理およびWikidataによるVIAFクラスター改善の試み

  Mazalでは,毎月VIAFからクラスターデータを取得することで,米国議会図書館名称典拠ファイル(LCNAF)を取り込み,ラテン文字の標目とLC名称典拠の照合および追加訂正等を行っている。Mazalにない典拠データは,LC名称典拠をもとに自動で生成する。また,取込作業の詳細を典拠データの非公開注記に記録する。さらに,アレキサンドリア図書館(エジプト)およびレバノン国立図書館と協力して,アラビア語の標目取り込みにも取り組んでいる。

  データ取り込みの際にクラスター誤りが判明することがあり,クラスターの修正のために連携先の一つであるWikidataを修正することもある。VIAF参加機関への修正依頼やWikidataの修正だけでは修正できない事例の紹介もあり,この経験がOCLCへの事前質問につながったようである。

・米・ゲティ研究所のゲティ語彙集(E2046参照)および偏りのない用語と個人のプライバシーをめぐる問題点

  同研究所は,ゲティ語彙集のうちUnion List of Artist Names(ULAN)をVIAFにデータ提供している。ただし,対象となる実体の曖昧さ回避を目的とした図書館の名称典拠データとは異なり,ULANは美術史および関連分野の適切な用語を提供することが目的である。発表では,葛飾北斎の個人名データを例に挙げ,データソースとして採用したLCNAF,VIAF等の典拠データへのリンク,ほかのゲティ語彙集であるArt and Architecture Thesaurus(AAT),Getty Thesaurus of Geographic Names(TGN)等との関連の説明がなされた。例えば,葛飾北斎の場合,主な活動場所は“in Edo, modern-day Tokyo”と記録されており,TGN語彙“Tōkyō”(東京)へのリンクが表示される。

  ゲティ語彙のこれからの課題として,偏りのない用語の採用,多様性,個人のプライバシーと研究との関わりが挙げられた。例えば,AATでは“illegal aliens”を“undocumented immigrants”のデータの「を見よ」参照形として位置づけ,さらに「軽蔑的な語(Pejorative term)」というフラグを付して,使用を避けるよう注意喚起をしている。また,ULANが様々な文化的慣習を尊重する例の一つとして,葛飾北斎の号“Sōri”(宗理)を「葛飾北斎」のデータの「を見よ」参照形としている事例も紹介された。

  2022年度のVIAF評議会会議は,参加機関への事前アンケートの結果にもとづきウェビナー形式となった。2023年度以降の評議会会議の開催形式は未定である。

Ref:
VIAF.
http://viaf.org/
“Union List of Artist Names Online”. The Getty Research Institute.
https://www.getty.edu/research/tools/vocabularies/ulan/
“Art and Architecture Thesaurus Online”. The Getty Research Institute.
https://www.getty.edu/research/tools/vocabularies/aat/
“Getty Thesaurus of Geographic Names Online”. The Getty Research Institute.
https://www.getty.edu/research/tools/vocabularies/tgn/
“Cultural Objects Name Authority Online”. The Getty Research Institute.
https://www.getty.edu/research/tools/vocabularies/cona/index.html
川鍋道子. バーチャル国際典拠ファイル(VIAF)について. 情報の科学と技術. 2021, vol.71, no.10, p. 452-455.
https://doi.org/10.18919/jkg.71.10_452
ことばの壁をこえる典拠―バーチャル国際典拠ファイル(VIAF)への参加. 国立国会図書館月報. 2013, (623), p. 30-34.
https://doi.org/10.11501/7795106
石澤文. 2020・2021年VIAF評議会会議<報告>.カレントアウェアネス-E. 2021, (425), E2450.
https://current.ndl.go.jp/e2450
大迫丈志. 2022年IFLA年次大会オンラインセッション<報告>. カレントアウェアネス-E. 2022, (446), E2552.
https://current.ndl.go.jp/e2552
井出竜郎. アート・歴史分野における国際的な標準語彙の活用<報告>. カレントアウェアネス-E. 2018, (351), E2046.
https://current.ndl.go.jp/e2046