E2566 – ウスビ・サコ氏による関西館開館20周年記念講演会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.449 2022.12.22

 

 E2566

ウスビ・サコ氏による関西館開館20周年記念講演会<報告>

関西館電子図書館課・吉川博史(よしかわひろふみ)

 

  2022年9月16日,関西文化学術研究都市推進機構,国立国会図書館(NDL)等が主催する「けいはんな学研都市7大学連携市民公開講座2022」(オンライン開催)の1講座として,京都精華大学前学長・全学研究機構長のウスビ・サコ氏による講演会「多様性を重んじる「共生社会」の実現と「国立図書館」の役割」が開催された。この市民公開講座は,関西文化学術研究都市に立地する7つの大学とNDL関西館が各1講座を担当するもので,サコ氏の講演は関西館が担当し,関西館開館20周年記念行事の一環として位置づけ実施した。

  講演は,西アフリカの真ん中にあるマリという国で生まれ,留学生として日本を訪れ,研究者として今も日本で暮らすサコ氏が,専門の空間人類学の知見をもとに,公共施設のあり方などを語る内容であった。図書館については,多文化共生という概念を踏まえて,国立図書館,大学・研究施設の図書館,地域の身近な図書館の3類型に分けて話題を展開し,まとめに至るという構成であった。

  サコ氏は,日本での生活においては,日本人と同化することではなく,共存による「共生社会」の実現(居場所の開拓)が重要であったと述べる。では,この共生社会を実現するために,「国立図書館」はどのような役割を果たすことが期待されるのか。どの国でも,その国の素晴らしさや歴史,人類が得た知識,達成した業績を保存するために,国の中心には国立図書館と呼ばれる図書館が必要とされる。そして,国立図書館を,国民が学習するために全国的に設置され,その国の中央政府によって運営されている図書館であると位置づけ,国内で出版されたすべての資料が保管されており,その国のすべての国民がサービスを受ける権利を有するものだと述べた。

  大学・研究施設の図書館については,好奇心を満たす複合的機能を有する施設ととらえ,京都国際マンガミュージアムを例として,その使命・役割に言及がなされた。京都国際マンガミュージアムは,京都市が土地と建物を無償で提供し,京都精華大学が運営している施設である。マンガ資料の収集・保管・展示およびマンガ文化に関する調査研究・事業を行うことを目的とする総合文化施設として,2006年11月に開館した。その機能としては,マンガ資料のアーカイブ,マンガ文化の調査・研究,研究者・専門家の育成,新産業の創出,地域のコミュニティセンター,といったことがあるとされた。

  地域の身近な図書館としての役割については,京都府相楽郡南山城村の事例が紹介された。南山城村は現在京都府内で唯一の村であり,人口が著しく減少している。2002年度をもって廃校となった旧南山城村立高尾小学校は,新たな利用方法を見出せないまま5年間放置されていた。そこで,廃校舎の再利用とコミュニティ再生が検討された。旧高尾小学校の図書室は,再利用プロジェクトによって2010年に図書貸出機能を持つ「高尾図書室」として生まれ変わり,その後「高尾いろいろ茶論(サロン)」に名称が変更となった。サコ氏からは,この「高尾いろいろ茶論」を井戸端会議の拠点とすることによって,今後,旧高尾小学校が地域の建築ストックとして中心的な役割を担うことができるかどうか,またその活用によって,地域のコモンズにできるかどうかが重要であり,過疎をなくすための手段として,移住者の受け入れや地域ブランドの形成,学校をはじめとする公共施設の再生と活用などの提言がなされた。

  サコ氏は,答えの見えない世の中,不確定な社会的状況で大事なのは,論理的回答だけではなく,「問い」が立てられる力であるとする。そして,図書館を地域社会のコモンズであるととらえ,人と人とがつながり,文化を楽しむ場所であるとした上で,それは言い換えるなら,図書館は,情報と「偶然に」出会い,知的営みを支えるコモンズであると述べて,講演を締めくくった。

Ref:
“ウスビ・サコ氏講演会「多様性を重んじる「共生社会」の実現と「国立図書館」の役割」(関西館開館20周年記念)(終了しました)”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/event/events/kansai_20220916.html
“けいはんな学研都市7大学連携 市民公開講座2022(終了しました)”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/event/events/citizen2022.html