E2552 – 2022年IFLA年次大会オンラインセッション<報告>

カレントアウェアネス-E

No.446 2022.10.27

 

 E2552

2022年IFLA年次大会オンラインセッション<報告>

収集書誌部収集・書誌調整課・大迫丈志(おおさこたけし)

 

  2022年7月26日から29日まで,2022年世界図書館・情報会議:国際図書館連盟(IFLA)年次大会(E2464ほか参照)がダブリン(アイルランド)で開催された。集合形式での開催は,2019年のアテネ(ギリシャ)大会(E2205参照)以来となる。96か国から1,934人が現地参加し,493人が遠隔で参加した。国立国会図書館からの参加者はなかったため,本稿では,事後に公開された8つのオンラインセッションのうち2つについて,概要を紹介する。

●IFLA/Systematic Public Library of the Year Award 2022 Presentation Ceremony

  2021年中に新築された又は既存の建物が改築されて新たに図書館となった公共図書館を対象とする“IFLA/Systematic Public Library of the Year Award 2022”の最終候補によるプレゼンテーションおよび受賞館の発表と授与式が行われた。

  2022年は17か国の20館から応募があり,事前審査で4館の候補に絞られた。審査基準は,(1)周囲の環境や地域社会との相互作用,(2)建築の質,(3)多様な用途に開かれた柔軟性,(4)建築資源の節約や再利用等の持続可能性への配慮,(5)異なる目的や状況に対応する学びの場の提供,および(6)デジタル化への意識である。

  プレゼンテーションは,各館の紹介映像に続けて,各館の担当者が審査基準を踏まえたアピールを行う形で進められた。1館目のOgre Central Library(ラトビア)は,窓辺に腰かけて読書にふけることができ,子どものためのボルダリング設備もあることなどを紹介した。

  次に,美術館や劇場を備えた巨大な文化施設の一部を構成し,エネルギーの象徴である石油が噴き出す岩を想起させる意匠のIthra Library(サウジアラビア)が続いた。

  3館目のMissoula Public Library(米国)は,地域に点在する非営利の教育機関を統合したものである。当初,科学博物館など各機関は独自の立場を失うことに否定的だったが,住民の意見を踏まえ,最終的には自発的に図書館の傘下に入ったという。

  最後に,Gellerup Library(デンマーク)が,地域の若者が建設作業に従事したこと,地域の古い建物の床を机に再生したことを紹介した。

  審査員の追加質問の後,IFLA会長が結果を発表し,受賞館となったMissoula Public Libraryへの授与式が行われた。

●Reaffirming Article 19 in Troubled Times

  検閲や偽情報の氾濫などが深刻な問題となっている現代における,表現の自由および情報へのアクセスの現状について,図書館業界の内外からの報告が行われた。なお,表題の「第19条」は世界人権宣言第19条を指し,表現の自由などを規定するが,法的拘束力を持つものではない。

  はじめに,MEF大学図書館(トルコ)のシメン(Ertuğrul Çimen)氏が,トルコの概況を説明した。SNSの投稿等により虚偽の情報を拡散することを制限する法案が次期国会で議論される予定であり,検閲に当たると懸念する声があること等が紹介された。

  次に,国際的な人権団体であるArticle19のバニサー(David Banisar)氏からは,インターネット空間で流通する情報を国家ではなく大企業が規制していること,大企業は説明責任を果たすために様々な方策を採っており,信頼できる情報源へのアクセスという観点において図書館と共通の課題に取り組んでいることなどが紹介された。

  第三に,英国図書館情報専門家協会(CILIP)のウェイド(Martyn Wade)氏が,情報の専門職が表現の自由および情報アクセスを考える際の指針について紹介した。表現の自由の名の下に行われる差別的な表現や,特定の資料を利用提供させないよう図書館に働きかける行為への対処方針などについて,関係者への意見照会を経て改定手続を進めていることが紹介された。

  最後に,アイルランド国民への情報公開を推進する非営利企業Right to Knowのシェリダン(Gavin Sheridan)氏が,同国および欧州連合(EU)における情報公開の状況を概説した。開示請求への違法な対応について罰則がなく,公的機関の対応が消極的であるなどの課題が紹介された。また,EUの整合規格(harmonized standards)がEU法の一部を構成すると述べた欧州司法裁判所の判決があるにもかかわらず,整合規格の開示請求が拒絶され,有償でしか利用できないという状況は正当化できないとして,同裁判所に提訴したことが報告された。

  次回の大会は,2023年8月21日から25日までロッテルダム(オランダ)で開催される予定である。

Ref:
IFLA WLIC 2022.
https://2022.ifla.org/
“WLIC 2022 Online Sessions”. IFLA WLIC 2022.
https://2022.ifla.org/wlic2022-online-sessions/
“Four impressive libraries nominated for the Public Library of the Year 2022 award”. SYSTEMATIC. 2022-06-14.
https://systematic.com/en-gb/industries/library-learning/news-knowledge/news/four-impressive-libraries-nominated-for-the-public-library-of-the-year-2022-award/
“IFLA/Systematic Public Library of the Year”. IFLA.
https://www.ifla.org/g/public-libraries/ifla-systematic-public-library-of-the-year/
“IFLA/Systematic Public Library of the Year Award 2022 Winner announced”. IFLA WLIC 2022. 2022-07-26.
https://2022.ifla.org/ifla-systematic-public-library-of-the-year-award-2022-winner-announced/
“世界人権宣言”. 法務省.
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00172.html
ARTICLE 19.
https://www.article19.org/
“Intellectual Freedom policy/consultation”. CILIP.
https://www.cilip.org.uk/page/intellectualfreedom
“How to access Commission documents”. European Commission.
https://ec.europa.eu/info/about-european-commission/service-standards-and-principles/transparency/freedom-information/access-documents/how-access-commission-documents_en#publicaccesstodocuments
“Right To Know and Public.Resource.Org initiate legal action against the European Commission”. Right to Know. 2019-04-02.
https://www.righttoknow.ie/2019/04/02/right-to-know-and-public-resource-org-initiate-legal-action-against-the-european-commission/
IFLA WLIC 2023.
https://2023.ifla.org/
野村明日香. 2021年世界図書館・情報会議:IFLA年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2022, (428), E2464.
https://current.ndl.go.jp/e2464
村上一恵. 世界図書館情報会議(WLIC):第85回IFLA年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (381), E2205.
https://current.ndl.go.jp/e2205