E2553 – Googleブックスプロジェクトの歴史とその影響<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.446 2022.10.27

 

 E2553

Googleブックスプロジェクトの歴史とその影響<文献紹介>

公立図書館員・杉本啓輔(すぎもとけいすけ)

 

  Marcum, Deanna; Schonfeld, Roger C. Along Came Google: A History of Library Digitization. Princeton University Press, 2021, 214p., ISBN:978-0-69117-271-2.

  本書は,米国の非営利団体Ithakaの調査部門Ithaka S+Rのマーカム(Deanna Marcum)氏とションフェルド(Roger C. Schonfeld)氏により執筆されたGoogleブックスプロジェクト(以下「プロジェクト」)に関する単行本である。Googleブックスとは,2004年から始まった,Googleが提供する書籍の全文検索サービスである。書籍内の全文を対象に検索を行うことができ,著作権切れのものや出版社から許可のあったものはプレビューが可能で,場合によっては全ページが表示される。

  本書では,プロジェクトの歴史と,同プロジェクトが学術界に与えた影響に焦点を当て,学術情報のデジタル利用の可能性拡大のため,想像力を働かせつつ,今後の方向性をどうすればよいかを論じている。図書館員や技術者,大学の指導者,ハイテク企業幹部,大手出版社社長など,Googleの計画を受け入れた側・抵抗した側双方へのインタビュー,同プロジェクト実現の経緯,図書館員や学者がGoogleへどのように法的対応をとったか,といった内容が扱われている。本稿では,各章の概要について紹介する。

  第1章では,学術情報への幅広いアクセスを提供するための取組の歴史と,その実現における成功あるいは失敗を通時的にたどっている。

  第2章では,Microsoft社の研究者で米・カーネギーメロン大学の教員であるケール(Brewster Kahle)氏の,テクノロジーによる社会的変化についての考え方を中心に,デジタル技術に対する技術者の側からの,全知識体系への全世界的アクセスという願望について詳しく説明している。

  第3章では,Google設立初期からの構想として,ブリン(Sergey Brin)氏とペイジ(Larry Page)氏が,普遍的な電子図書館の必要性を主張していたことを記述している。また,この主張に基づいた迅速な対応はGoogleを大きく成長させた。

  第4章では,学術情報へのアクセスに対する大衆の期待と,書籍のデジタル化計画に関するGoogleの発表がどれほど世間に熱心に受け止められたかについて説明している。

  第5章では,図書館員と学者が,こうしたGoogleの取組により生じる脅威あるいはチャンスに対応するための組織づくりを開始したことを説明している。これらの中には短命に終わったものもあるが,共同機関リポジトリの誕生など,学問やアーカイブのあり方に変革をもたらすものもあった。

  第6章のトピックはプロジェクトに対する訴訟である。Googleは著作権侵害訴訟を全米作家協会等から起こされていた(CA1702参照)。これらの訴訟はどのように展開し,Googleが提案した和解がなぜ失敗した(E1162参照)か,それによりどのような機会が失われたかについて論じられている。

  第7章では,プロジェクト後の図書館の取組をいくつか紹介している。普遍的なコレクションを構築する上で,米国を中心とした世界各国の大学等の図書館が所管する書籍や報道資料をデジタルアーカイブ化する電子図書館であるHathiTrust(E2525CA1760参照)が果たすことができる役割を考察している。

  最後の章では,プロジェクトの学術情報へのデジタルアクセスをより広範に提供するための取組が,普遍的な電子図書館の構築にどのように貢献したかについて,筆者たちの見解を示している。

  Googleによるこのプロジェクトは図書館がデジタル技術をもって情報を提供することを促す一つの要因であったことは間違いない。特に大学図書館においてその動きは顕著であり,電子図書館が発展していった背景とも言える。一方,日本の公立図書館に目を向けると,COVID-19以後,電子図書館を積極的に導入している。情報へのデジタルアクセスをより広範に提供するための取組が今まさに始まったところであり,このプロジェクトの歴史に学ぶことは非常に大きいように思われる。

Ref:
“Along Came Google: A History of Library Digitization”. Princeton University Press.
https://press.princeton.edu/books/hardcover/9780691172712/along-came-google
Googleブックス訴訟,米国連邦地裁は修正和解案を認めず. カレントアウェアネス-E. 2011, (191), E1162.
https://current.ndl.go.jp/e1162
関秀行. 慶應義塾大学のHathiTrustへの加盟. カレントアウェアネス-E, 2022, (441), E2525.
https://current.ndl.go.jp/e2525
鳥澤孝之. Google Book Searchクラスアクション(集合代表訴訟)和解の動向とわが国の著作権制度の課題. カレントアウェアネス. 2009, (302), CA1702, p. 12-17.
https://doi.org/10.11501/1166483
田中敏. デジタル化資料の共同リポジトリHathiTrust―図書館による協同の取り組み. カレントアウェアネス. 2011, (310), CA1760, p. 14-19.
https://doi.org/10.11501/3485918